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第22話 週末のタウンハウス

 あれから順調に本を読み進め、借りた六十七冊は四日ほどで読み終えてしまった。

 次は百冊を纏めて借り、週末を迎える。


「イリス、明日は王城で待っているね」

「ええ。一人じゃ不安だから、ちゃんと出迎えてね」

「もちろんだよ」


 この世界も週休二日制だ。なので学校も週末は二日間のお休み。

 一日はタウンハウスで過ごし、もう一日は王城で側妃殿下にお目にかかることになっている。

 我が家の馬車──王都の中ではさすがに走竜ではなく馬が車を牽く──でタウンハウスへ。ウェスタ兄さまと二人馬車に乗り込むと、十五分ほどでタウンハウスに到着した。


「イリス、ウェスタお帰り」

「お婆さま、ただいま戻りました」

「お婆さま! ただいま!」


 ウェスタ兄さまは礼儀正しく挨拶したというのに、私ったら嬉しくて抱きついてしまった。

 でもそんな私を、皆が優しく受け入れてくれる。ありがたい……。

 これ、他家に嫁に行ったら許されないよねぇ。他家、というか王家なんだけどさ。


「お爺さまは?」


 お婆さまから体を離しつつ、尋ねる。

 

「もうすぐ戻ってくるわ。ウェスタに稽古付けるって張り切ってたわよ」

「やった!」


 普段タウンハウスにいるお爺さまだから、なかなか稽古付けて貰えないもんね。

 戦神と呼ばれたお爺さまの稽古、相当厳しいらしけれど、うちの兄さま達は嬉しくてたまらないって言ってた。なんでも、教え方も上手いらしい。お爺さまやお父さまよりも強いと言われているアレ兄さまは、教えるのが下手だってウェスタ兄さまが笑ってたのを思い出す。


「さぁ二人とも、着替えていらっしゃい。ゆっくり週末を過ごすのよ」


   ***


 ホロ爺と一緒に作っていた大豆が収穫できた、と、発酵グーツ石と小麦と一緒にこちらに届けられたのが一昨日。

 大豆はしっかりと水に浸けておいて貰った。


 それを半分は蒸して、もう半分は茹でるようにお願いをし、平行して、小麦を炒る。私が台所に立つことは、誰も止めない。

 すでに美味しい料理の提案をしまくっているからね。

 料理人達は、今度は私が何をするのかを、楽しみに待っているけど、今回ばかりはすぐに結果は出ないのだ。


 そうして、本来は麹菌などを使うところを発酵グーツ石を入れ込んで味噌や醤油を作る。

 そもそもの仕込み自体も時間はかかるけど、実際に味噌や醤油を作るには発酵の時間としてかなりの時間が必要だ。ただ、それをこの発酵グーツ石を使うと短縮できるんじゃないかと考えている。

 麹菌の仕事自体を発酵グーツ石が担えることは、実はマージョナル帝国の書物で読んで確信に近い予想をしていて、早く試したくて仕方がない。


「お嬢さま、大豆を煮るのにはまだまだ時間がかかりますから、休憩していてください」


 料理長のその言葉に、ありがたく部屋に戻ることにする。

 明日は登城しないといけないので、その支度が必要なんだよね。


 部屋の窓からは、庭でお爺さまに稽古を付けて貰っているウェスタ兄さまが見える。

 お爺さまの動きは速すぎて、ちょっとよく見えない。前世のマンガで、シュッシュッって線だけが書かれてるやつ、あんな感じになっていて、ちょっと面白い。

 本当は、お爺さまやお父さま、アレ兄さまが『戦神』と呼ばれる状況なんて、もう二度と来ない方が良いんだけどね。

 戦争は悲しいことばかりだもの。


「明日はこのドレスでいかがでしょうか」


 フェデルがドレスを一着出してくれる。

 とてもシンプルなドレスだけれど、黒をベースに、紫やピンクのシフォンが重なっていて、とても美しいデザインのもの。ハイネックなのに胸元に切れ込みがあるから、デリーがくれたムーンライトルビーのネックレスも映えそうだ。


「それにしましょう。ケープはあっちのグレーのにしようかな」


 軽い質感のケープは、側妃の実家であるホムルグ伯爵領地で織られている珍しいマルエ織りというもの。マルエという木の繊維から作られた糸で織られていて、軽くてとても暖かい。


「明日の登城はどういったご用件なのでしょうか」

「側妃殿下が私に会いたいんですって。息子をよろしくね、ってところかしら」


 実は側妃とじっくり話したことは、まだないのだ。

 デリーが、王都に来たときに会えば良いなんて言うので、ついついその言葉に甘えてしまっていたけど、冷静に考えると、なかなかにあり得ないよねぇ。

 でも、会ったら「王妃教育しましょう」みたいに言われたら嫌だな、なんて思ってしまい、避けていた。


 今回も、側妃からそんなことを言われるのかも、なんて思っている。

 そろそろ年貢の納め時なのかもしれない。

 納めたくないよぅ。


「お嬢さま、王城は伏魔殿と言います。どうぞ気を引き締めて」

「ええ、そうね。正妃派の人間もたくさんいるだろうし……。できるだけ、王城の人目のあるところにいるようにするわ」


 デリーが、王城の図書館に入れるようにしてくれると言っていたので、それはとても楽しみだしね。

 それに、デリーとの婚約が発表されたあの日見た、王城の庭。あそこの担当庭師とは話をしてみたい。とても美しい庭だったので、ゆっくり鑑賞しつつ、いろいろと技術や狙いを聞いてみたいのだ。


「お嬢さま、お城ではできるだけデリー様と一緒にいるようにしてくださいね」

「そうね……。それは確かにそうだわ」


 また第二王子に絡まれたらやっかいだしね。

 なんて思ってたのが、いけなかったのかなぁ。

 王城で、いきなり第二王子に会ってしまうだなんて、誰が予想しただろうか。

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