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第2話 記憶を取り戻……させられた 02

「えっ」

「えっ?」

 

 私の言葉に驚いてる神さまだけど、そもそもゲームなんて私の前世、つまり日本では星の数ほどあったのだ。ゲームをするしないの選択肢のあとにも、どんなゲームをするかは、かなり細分化された趣味だったと思う。

 現に、私はマイペースに楽しめるものだけをやっていた。シミュレーションゲームとかRPGとか、アクションとか、苦手だったんだよね。

 

「じゃぁ、せっかく薔薇庭に転生して、さらに前世の記憶があったとしても、乙女ゲームの世界だって気付かなかったということ?」

「なんですか、その薔薇庭って。さっき響いていたのは『ローズガーデンの聖女』とかでしたっけ」

「そうそう。『ローズガーデンの聖女』、略して『薔薇庭』よ」

 

 私が知らずにそのタイトルだけ聞いたら、もしかしたらガーデニングゲームかと思って、プレイしていたかもしれない。

 

「それ、どんな話なんです?」

「よくぞ聞いてくれました! 男爵令嬢のヒロインは、王立の学園で第一王子と恋に落ちるの。けれど、第一王子には婚約者がいてね。それがイリスちゃんなんだけど。第一王子を大好きなイリスちゃんは、ヒロインにいろんな意地悪をして、それがまた二人の恋を燃え上がらせるのよ」

 

 いや、婚約者がいるのに浮気する男とか最低じゃない? しかも第一王子と私、ということは辺境伯家との政略結婚でしょ? そりゃ、王家からの政略結婚なんだから、略奪女なんて排除しようとするの当たり前よね。

 

「そもそも男爵令嬢なんだけど、ヒロインは庶子だから貴族としてもあまり認められなくて、第一王子との結婚は難しくて」

 

 その前に、婚約者がいるから結婚できないよね。滔々と語る神さまの勢いに、ツッコミは心の中でしかできない。

 

「そんなある日、密かにデートしていた王城のローズガーデンで、二人が抱き合った瞬間、そこのバラが一斉に咲いたの」

 

 王城で! 密かに! しかも抱き合って! もうツッコミが追いつかない。

 

「王族には『ローズガーデンの薔薇が一斉に咲くのは、聖女がその力に目覚めるとき。聖女の奇跡として現れる』って言い伝えがあってね。それでヒロインが聖女の力に目覚めたことがわかり、彼女に意地悪をした悪役令嬢のイリスちゃんは断罪されて、第一王子と聖女が結婚してハッピーエンド、ってわけ」

 

 それ、全然ハッピーじゃないな。

 私の不満気な顔に気付いたらしい。神さまが慌ててフォローしようと両手をわたわたさせながら口を開く。

 

「あの! でもほら、王国には聖女が誕生するわけだし」

「その聖女がいたら何が良いんですか? 戦争が生まれない? 王国の貴族の結束が固くなる? 反乱が起きない? 豊穣が約束される?」

「う、いえ……その……。神の存在を示すことができるくらいで……」

 

 つまり何か。割と国民がきちんと信教しているというのに、自己主張したいたいめに神は聖女を生み出し、結果、王族と辺境伯家の婚約はなくなり、繋がりが緩くなる。言っちゃ悪いが、私は家族に愛されているからね。五人兄弟の上四人が全員男だ。しかも親族も基本男ばかり。つまり、女が血族として生まれることが少ない一族で、数世代ぶりに生まれた直系の女児。愛されないわけがない。

 

 ──と、前世の記憶を取り戻した今は良くわかる。まぁ、記憶を取り戻す前の十歳の私もなんとなくは分かっていたけど。

 第一、バラの花が一斉に咲くのは、庭師の努力と温度管理のたまものだ。聖女の奇跡なんてものにされたら、庭師が不憫だわ。

 

「そもそもなんで、生まれ変わる先がそんなところなんです?」

 

 それに、と私はずっと気になっていたことを尋ねる。

 

「それはその……。日本でそういう小説が流行ってると聞いて、面白そうだなぁ、って」

 

 両手の指を合わせながら、もごもごとそう言う神さまを見て、悟ってしまった。

 

「ああ……。興味本位ですね。神さまの手違いで死んだ人間を、恩着せがましく転生させて、楽しもうっていう。しかも浮気されて断罪? とかされるキャラクターにだなんて」

「うっ」

「悪趣味なんですね、神さまって」

 

 じとりと見てやれば、体をちぢこませていく。

 確かに、小説やマンガ、アニメなんかでは、乙女ゲームに転生した話とか、流行っていた気がする。アニメを流し見したくらいの記憶だけど。

 そこで私はパンと一つ手を叩いた。

 

「でもまぁ、もう私は転生してしまったわけですし、神さまは私の記憶を取り戻させるために、イリスの体を瀕死にしたわけですし」

 

 にっこりと笑えば、神さまはさらに申し訳なさそうな顔をする。いいぞいいぞ。その方がこちらの要求をのんで貰えそうだ。

 

「私が私の体に戻る前に、希望のチート能力を付けて貰えませんかねぇ」

 

 後天的にでも、能力が付けばラッキーだ。

 

「そ、それはもう! 付けさせていただきます! その代わり、悪役令嬢イリス・エーグルであるという自覚だけ持っていただけるとぉ」

「良いですよ」

 

 自覚くらいなら、ね。

 

「やった!」

「あなた、本当に楽しんでるだけですね」

「い、いえそんな! それよりどんな能力をご希望で? 美しさを維持するチート? それとも、意地悪を考える能力を」

「どんだけ悪役令嬢に寄せていこうとしてんのよ。えぇとね」

 

 こうして私は、ガーデニングや園芸、農業に関する知識を得る力と、その能力を最大値にして貰うことに成功した。

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