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影の果てにある真実

作者: にっしー

この作品は短編です。さっくり読みたい方へオススメ。

第一章 ―― 闇の序章


佐藤結衣が最初に事件のことを知ったのは、朝のニュースだった。


「本日未明、○○区のマンションで女性の遺体が発見されました。被害者は遠藤梨奈さん(30)。警察は、現場にいた男性、北村大輔容疑者(35)を殺人の容疑で逮捕しました。」


テレビの中でアナウンサーが淡々と事件の概要を伝える。画面に映し出された被害者の写真を見た瞬間、結衣の心臓は一瞬止まったような感覚に襲われた。


遠藤梨奈――。


まさか、あの梨奈が殺されたというのか。


結衣は信じられない気持ちで画面を見つめた。彼女とは高校時代からの付き合いだったが、ここ数年は連絡を取っていなかった。だが、それでも彼女の死を知った衝撃は計り知れなかった。


それから数時間後、結衣は上司に呼び出され、ある案件を告げられる。


「佐藤、君にこの事件の弁護を担当してもらう。被告人は北村大輔だ」


思わず息を呑んだ。


「被告人って……つまり、梨奈を殺したとされる男ですか?」


「そういうことだ。だが彼は一貫して無実を主張している。証拠はあるが、確定的とは言えない部分もある。君なら適切に弁護できるはずだ」


結衣は迷った。


親友の死に関わる事件の弁護を自分が担当するというのか?


しかし、弁護士としての職務と、真実を知りたいという想いが入り混じり、最終的に彼女は依頼を受けることを決めた。


かくして、彼女は法廷で北村大輔と対峙することになる――。


第二章 ―― 対峙


数日後、北村大輔との初対面のため、拘置所を訪れた結衣。


面会室に通されると、向かい側の椅子に座っていた男がゆっくりと顔を上げた。鋭い目つきの奥に、不安と警戒が混ざったような表情が見え隠れしている。


「弁護士の佐藤結衣です。あなたの弁護を担当することになりました」


北村はしばらく結衣の顔を見つめたあと、ゆっくりと口を開いた。


「俺は……やっていない」


低くかすれた声だったが、その一言には強い信念が込められていた。


「詳しくお聞きしたいのですが、事件当日のことを話していただけますか?」


北村は深く息を吸い込み、視線をテーブルに落としたまま語り始めた。


「その日、俺は彼女の部屋にいた。だが、俺が殺したわけじゃない。信じてくれ……」


結衣は冷静に頷きながら、彼の言葉の裏にある何かを探ろうとした。


第三章 ―― 影の証言


北村の言葉に耳を傾けながら、結衣は慎重にメモを取っていた。


「じゃあ、あの夜、あなたは部屋にいた。でも殺してはいない……。では、他に誰かがいたのですか?」


北村はため息をつき、重い口を開いた。


「あの夜、確かに俺は梨奈の部屋にいた。でも、喧嘩をしてしまって……俺は途中で部屋を出たんだ。彼女はまだ生きていた。間違いない」


結衣は手元の資料を見直しながら問いを続けた。


「何時ごろ部屋を出ましたか?」


「たぶん……夜の10時くらいだったと思う」


結衣は筆を止め、北村の顔をじっと見つめた。その時間、事件が起きたとされる時刻よりも少し前だった。


「では、部屋を出た後はどこへ?」


「すぐに家へ帰った。家に着いたのは11時くらいだ」


証言が事実ならば、北村には事件発生時刻にはアリバイがある。しかし、彼の証言を裏付ける確たる証拠が必要だった。


「あなたの帰宅を証明できる人は?」


北村は沈黙した。結衣は、その沈黙の中に何か隠された真実があることを確信した。


第四章 ―― 消えた証拠


結衣は拘置所を後にし、北村の証言を再度整理した。彼の言葉が本当なら、事件の時間には彼は犯行現場にはいなかったことになる。


だが、彼の帰宅を証明する証拠がない。


彼の部屋へ向かう前に、警察の捜査資料を確認する必要があった。警察署に赴き、捜査を担当する宮下刑事に面会を求めた。


「北村のアリバイについて、何か新しい情報はありますか?」


宮下は腕を組みながら言った。


「今のところ、彼が事件の時間にどこにいたのかを証明できる証拠はない。ただ、監視カメラの映像が一部欠落していることが分かった」


「欠落?」


「そうだ。事件当日の夜10時から11時の間、彼の自宅付近の監視カメラのデータが消えている。偶然なのか、それとも……」


結衣の胸に冷たいものが走った。


「その映像があれば、北村のアリバイを証明できる可能性があったのに……」


「そういうことだ。誰かが意図的にデータを消した可能性もある」


事件はさらに謎を深めていく。


第五章 ―― 影を追う


宮下刑事の言葉が頭の中で反響していた。監視カメラの映像が消えている――それが偶然なのか、それとも意図的なのか。


結衣はすぐに北村の自宅付近を訪れることを決めた。現場に行けば、何か新しい手がかりが見つかるかもしれない。


北村の住むアパートは、事件のあったマンションからさほど遠くない場所にあった。古びた建物の前で立ち止まり、周囲を見渡す。監視カメラの位置を確認しながら、結衣はあることに気がついた。


――このエリアには、カメラが他にもいくつか設置されている。


もし警察が調査したカメラのデータが消されていたとしても、他のカメラには何かが映っている可能性がある。


結衣はすぐに管理会社に連絡を取り、他の監視カメラの映像を確認できないか問い合わせた。


数時間後、管理会社から連絡が入る。


「弁護士さん、ちょうど事件当日の夜10時半ごろ、北村さんらしき人物が映っていました。ただ……」


「ただ?」


「彼の後ろに、もう一人誰かが映っているんです」


結衣の背筋に冷たいものが走った。


第六章 ―― 見えざる証人


結衣は電話を握りしめながら、映像に映っている「もう一人」の正体を考えた。


「その人物の顔は確認できますか?」


「はっきりとは映っていませんが、フードをかぶっていて、身長は北村さんと同じくらいです」


結衣は即座に宮下刑事に連絡を取った。


「宮下さん、監視カメラの映像が一部復元されました。そこに北村さんの後ろに別の人物が映っているんです」


「何? それは本当か?」


「ええ。ただ、顔ははっきりしません。今すぐその映像を確認しに来てください」


警察署で映像を確認するため、結衣はすぐに向かった。宮下刑事が到着する頃には、管理会社が提供した映像データが用意されていた。


「これがその映像です」と管理会社の担当者が画面を指さした。


画面には、暗がりの中を歩く北村の姿。そのすぐ後ろに、黒いフードを深くかぶった人物がついていた。


「この人物は一体……?」


「何か特徴的な動きや、服装の手がかりはありますか?」


「唯一、靴のロゴが見えました。珍しいデザインのスニーカーです」


その瞬間、宮下刑事の顔が変わった。


「この靴……まさか……」


結衣は息をのんだ。


「宮下さん、心当たりが?」


「いや、まだ確信はないが……とにかく、急いで別のカメラの映像も確認する必要がある」


新たな手がかりが導かれる中、事件は思わぬ方向へ進み始めた。


第七章 ―― 疑惑の影


翌日、結衣は宮下刑事と共に、別の監視カメラの映像を確認するために警察署へ向かった。


「映像を確認するぞ」


宮下がモニターに映し出された映像を再生する。北村の後ろに映っていた黒いフードの人物が、ある交差点で立ち止まり、携帯電話を耳に当てる仕草をしていた。


「通話履歴は調べられますか?」


結衣の問いに宮下は頷いた。


「調査中だ。だが、すでにある情報と一致する可能性が高い」


その言葉に結衣は息を呑んだ。


「どういうことですか?」


「実は、事件当日、ある目撃者が同じ時間帯に黒いフードの人物を見たと言っている。しかも、北村の部屋の方向へ向かっていたそうだ」


結衣は思わず拳を握りしめた。


「つまり、北村が犯人ではなく、このフードの人物が……?」


「そうかもしれない。ただし、決定的な証拠が必要だ」


映像の解析が進む中、結衣と宮下は事件の真相に一歩ずつ近づいていた。


第八章 ―― 交錯する証言


翌日、結衣は事件の真相を探るべく、目撃者に直接話を聞くことを決めた。


「あなたがその夜に見たのは、本当に黒いフードの人物でしたか?」


目撃者の男性は少し考え込んでから頷いた。


「ええ、間違いありません。暗かったですが、その人物は確かに北村さんの後をつけていました。」


結衣は慎重に質問を続けた。


「他に何か特徴的なものは見えましたか? 例えば、顔の輪郭や体の動き、服装の細かい特徴など……。」


目撃者は目を細め、遠い記憶を探るようにゆっくりと言った。


「うーん……ああ、そうだ。歩き方が妙にぎこちなかった気がします。何か怪我をしていたような……足を少し引きずっていました。」


その情報を聞いた瞬間、結衣の頭の中で何かが繋がった。


「足を引きずる……?」


すぐに宮下刑事に連絡を取る。


「宮下さん、事件に関係するかもしれない情報が入りました。目撃者によると、黒いフードの人物は足を引きずっていたそうです。」


宮下は少し沈黙した後、低い声で答えた。


「……その特徴に当てはまる人物がいるかもしれない。調べてみる。」


事件の新たな糸口が見えた今、結衣は次なる手を考え始めていた。


第九章 ―― 真実の影


結衣は宮下刑事からの報告を待ちながら、事件の全貌を再び整理していた。


北村の後ろをつけていた黒いフードの人物。


足を引きずるその歩き方。


そして、消えた監視カメラの映像。


すべてのピースが繋がるまで、あとわずかだった。


その時、宮下刑事からの電話が鳴る。


「佐藤さん、容疑者が特定できた。防犯カメラの別映像から顔の一部が映っていた。過去に前科のある男だ。」


「誰ですか?」


「篠田康平。数年前に暴行事件を起こして服役していたが、最近出所したばかりだ。」


結衣の胸がざわつく。


「北村さんとはどんな関係が?」


「それが、過去に梨奈と接点があったらしい。北村と梨奈が交際していた時期に、篠田は彼女につきまとっていたようだ。」


結衣は拳を握りしめた。


「つまり、梨奈を殺した動機があった……?」


宮下が低い声で続ける。


「可能性は高い。篠田の居場所を突き止める。今すぐ行動に移るぞ。」


結衣は深く息を吸い、真実に向き合う決意を固めた。


第十章 ―― 追跡


宮下刑事と結衣は、篠田康平の足取りを追い始めた。


「篠田は最近、どこにいたのか調査済みですか?」


結衣の問いに宮下は手元の資料をめくった。


「最後に目撃されたのは、事件現場から数駅離れたビジネスホテルだ。だが、それ以降の足取りが不明だ。」


「ホテルの防犯カメラは?」


「既に調べたが、篠田がチェックアウトしたあとの映像がない。どうやら身を隠している可能性が高い。」


結衣は思案しながら、ある可能性を考えた。


「監視カメラがない場所に行った可能性もある。彼の過去の交友関係はどうでしょう?」


宮下は眉をひそめ、別の書類を取り出した。


「数年前に彼がよく出入りしていた倉庫街がある。捜査員を向かわせるべきだろう。」


結衣は頷いた。


「私も同行します。」


こうして、二人は篠田の行方を追い、事件の核心へと近づいていった。


第十一章 ―― 闇の果て


倉庫街に到着した結衣と宮下刑事は、慎重に周囲を観察した。荒れ果てた建物の間を歩きながら、彼らは篠田の気配を探った。


「篠田がここにいる確証は?」


結衣が小声で尋ねると、宮下は静かに頷いた。


「目撃情報がある。数日前、この倉庫の奥の方で見かけたという証言が出ている。」


二人は足音を殺しながら倉庫内へと進む。朽ちた木箱や金属棚が無造作に積み上げられ、ほの暗い空間が広がっていた。


「誰かいるのか?」


宮下が声をかけた瞬間、倉庫の奥から微かな物音がした。結衣は反射的に息をのんだ。


「……篠田?」


静寂が支配する中、影がゆっくりと動いた。


「なんだ、お前ら……」


低くかすれた声が響く。暗がりから現れたのは、やつれた表情の男。篠田康平だった。


「篠田さん、あなたに話を聞かせてください。」


結衣は静かに語りかけた。篠田は怯えたように目を細める。


「俺は……やってない……」


「じゃあ、なぜここに隠れている?」


篠田は答えず、視線を泳がせた。その態度に、結衣は何か別の意図を感じ取った。


「篠田さん……本当にあなたは無実ですか?」


その問いに、彼はゆっくりと口を開こうとした――。


第十二章 ―― 崩れる沈黙


篠田は一瞬、言葉を詰まらせた。そして、何かを決心したようにゆっくりと口を開いた。


「俺は……事件の夜、確かにあのマンションにいた。でも、殺してはいない。」


結衣は篠田の表情をじっと見つめながら問い詰めた。


「では、あなたは何を見たんですか?」


篠田は目を伏せ、しばらく沈黙した後、絞り出すように言った。


「俺が部屋に着いた時には、すでに遠藤梨奈は倒れていた。血まみれだった。すぐに警察を呼ぼうと思ったが……」


「なぜ呼ばなかった?」


宮下刑事が厳しい口調で尋ねると、篠田は震える手で頭を抱えた。


「その時、北村が部屋の中にいたんだ。動揺していた。何が起こったのかは分からなかったが……とにかく、俺は関わりたくなかった。だから、その場を離れた。」


結衣は深く息を吸い込み、篠田の証言を整理した。


「あなたの言葉が真実なら、北村が犯人であるとは断定できません。でも、重要なのは、あなたが部屋にいたという事実です。」


宮下刑事は手帳を閉じ、篠田の方を見据えた。


「篠田、お前には証人として事情聴取を受けてもらう。拒否はできないぞ。」


篠田は静かに頷いた。


「……分かったよ。俺は真実を話す。」


こうして、事件の真相に新たな光が差し込み始めた。


第十三章 ―― 最後の証言


篠田は深く息を吸い込むと、ゆっくりと口を開いた。


「俺が部屋に入った時、北村は床に座り込んでいた。梨奈の遺体のそばでな……」


結衣と宮下は息をのんだ。


「北村は何か言っていましたか?」


篠田は目を細め、記憶を辿るように答えた。


「『俺じゃない……俺じゃない……』って、何度も繰り返してた。でも、俺はその場を去った。関わるのが怖かったんだ。」


「じゃあ、あなたが部屋を出たあと、他に誰かが来た可能性は?」


篠田は少し考えてから、首を振った。


「俺がいた時点では、他には誰もいなかった。ただ……」


「ただ?」


「俺が部屋を出る直前、外で足音が聞こえた。誰かが近づいてくるような音だった。」


宮下が素早くメモを取る。


「その足音について、何か覚えていますか? 男性? 女性?」


「分からない。だが、靴音がやけに軽かった気がする。」


結衣は篠田の証言を整理しながら、ある可能性に気がついた。


「宮下さん、北村さんの自宅近くのカメラ映像、もう一度確認できますか?」


宮下は即座に警察本部へ連絡を取った。


「確認してみる。もし篠田の証言が正しければ、真犯人はまだ別にいる可能性がある……。」


篠田の証言を基に、事件は新たな局面へと向かおうとしていた。


第十四章 ―― 明かされる真相


結衣と宮下は警察本部で、北村の自宅近くのカメラ映像を再確認していた。


「映像が復元できたぞ。」


宮下がモニターを指さす。そこには、北村が部屋を出た直後、黒いフードの人物がマンションへ向かう姿が映っていた。


「篠田の証言と一致する……。」


結衣は映像を凝視しながら、決定的な証拠が見つかることを期待した。その瞬間、画面の人物が一瞬振り返る。


「拡大できますか?」


技術者が頷き、映像をズームした。ぼんやりとだが、その人物の顔が浮かび上がる。


「この人物……。」


結衣と宮下は顔を見合わせた。その顔には見覚えがあった。


「……遠藤梨奈の同僚の、佐々木美咲。」


予想外の名前に、結衣は言葉を失った。


「佐々木美咲がなぜ……?」


宮下はすぐに彼女の身元を調査し始めた。


「動機が何かあるはずだ。」


翌日、警察は佐々木美咲を事情聴取に呼び出した。


「なぜ事件の夜、被害者のマンションにいたのですか?」


美咲は動揺を隠しながらも、冷静を装った。


「ただ話をしに行っただけです。彼女とは親しい友人でした。」


「しかし、あなたがマンションに入った後、彼女は殺されている。」


宮下の言葉に、美咲の表情が変わる。


「……私じゃない。」


結衣は静かに言葉を投げかけた。


「あなたの靴のロゴが防犯カメラに映っていました。これはどう説明しますか?」


美咲の顔が青ざめた。


「……私は……。」


その瞬間、事件の幕が降りようとしていた。


「……私は……あの夜、梨奈と話し合うつもりでした。」


結衣と宮下はじっと彼女を見つめた。


「話し合う? 一体何について?」


美咲は唇を噛み、視線を落とした。


「梨奈は……私の秘密を知ってしまったんです。」


「秘密?」


美咲はゆっくりと頷いた。


「私は、会社のお金を横領していました。少額ずつだったけど、梨奈に気づかれてしまったんです。」


結衣は驚きながらも、冷静に質問を続けた。


「それで、口封じのために彼女を……?」


「違う! 殺すつもりなんてなかった! ただ……話して誤解を解こうと思っただけ……。」


宮下が鋭く問い詰めた。


「では、なぜ防犯カメラにあなたの姿が映っていた? しかも、事件の直後に逃げるようにマンションを出ている。」


美咲は涙を浮かべながら答えた。


「彼女は私を追い詰めるようなことを言った……私のせいでみんなが不幸になるって……だから、私は……突き飛ばしてしまったの。」


結衣の目が鋭く光る。


「突き飛ばした……その結果、彼女は頭を打って?」


美咲は声を震わせながら頷いた。


「そう……私はすぐに助けを呼ぼうとした……でも怖くなって……。」


宮下は無言で手錠を取り出し、美咲の手首にかけた。


「佐々木美咲、あなたを過失致死の疑いで逮捕する。」


美咲は泣き崩れた。


結衣は静かに息をつき、事件が終焉を迎えたことを実感した。


物語はここで幕を閉じる。


事件が解決し、それぞれが新たな道を歩み始める。


第十六章 ―― 違和感


事件が解決したかに見えたが、結衣の心の中にはどこか違和感が残っていた。


「本当に佐々木美咲が犯人なのか……?」


その疑問が、彼女を次の事実へと導くことになる。


数日後、結衣は宮下刑事からの連絡を受けた。


「佐藤、話がある。お前に関することだ。」


警察署の取調室に座った宮下は、ある一枚の映像を結衣に見せた。


「これを見ろ。」


画面には、事件の夜、マンションのエントランスを通る黒いフードの人物が映し出されていた。人物がフードを外した瞬間、結衣は息を呑んだ。


「……これは……私?」


「そうだ。DNA鑑定の結果、犯行現場に残されていた皮膚片はお前のものだった。」


結衣の頭の中で、今までの記憶がぐるぐると回り始める。


「そんな……私は……」


その瞬間、彼女の脳内に今まで封じられていた記憶が鮮明に蘇る。


――暗闇の中、遠藤梨奈が何かを叫んでいた。


――「あなた……誰なの?」


――「私? ふふ……私は結衣よ。でも、もう一人の結衣なの。」


結衣は震える手で頭を抱えた。


「まさか……私が梨奈を……?」


宮下は静かに頷いた。


「佐藤、お前は二重人格だった。もう一人の“お前”が、事件の真犯人だ。」


結衣の意識が遠のいていく中、彼女の心に浮かんだのは、一つの言葉だった。


――『影の果てにある真実』


第十七章 ―― 真犯人


結衣の頭の中で、美咲の供述と自身の記憶が交錯していた。


「……美咲は、本当に梨奈を殺したのか?」


美咲が語ったことが真実なら、梨奈は突き飛ばされた後も生きていたはず。しかし、法医学の報告によると、致命傷は頭部への鋭利な衝撃によるものだった。


「つまり、美咲が突き飛ばした後に、誰かがとどめを刺した……?」


その考えが結衣の脳裏をよぎった瞬間、彼女の背筋に冷たいものが走った。


『もう一人の自分が、梨奈を殺した……?』


結衣の心臓が高鳴る。


その時、宮下刑事が新たな証拠を持って現れた。


「佐藤、監視カメラの映像をもう一度確認したが、事件当日の深夜1時ごろ、再びマンションのエントランスに黒いフードの人物が映っていた。」


結衣の胸が締め付けられる。


「その人物の顔は?」


宮下は少し言いにくそうに言った。


「……映像を解析したところ、その人物はお前だった。」


結衣の視界がぐらついた。


「そんな……私は事件当夜、ずっと自宅に……」


「いや、監視カメラは嘘をつかない。」


結衣は混乱しながらも、必死に記憶を探る。しかし、深夜1時ごろの記憶がまるで抜け落ちている。


「まさか……」


鏡の前に立つと、そこに映る自分の顔が見えた。しかし、その奥にもう一つの影が揺らめいていた。


――『もう一人の私』

どうでしたか?面白かったですか。反響みながら適宜作品作成したいと思います。

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