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8:アヤメの奥の手 前編

 強い。単純にそう感じられるほど西鬼さんは強い。

 昇格試験を受ける俺とアヤメは開始早々、強烈な一撃を西鬼さんから受けてしまった。

 もしまた攻撃を受けたら装備が壊れて俺達の試験は終了となるだろう。


 まだ西鬼さんに一度も攻撃を与えてないのに、だ。


 そんな状態で試験を終える訳にはいかないんだ。

 だからここから逆転しなきゃならない。


「残り五分。時間がないぞ、お前達」


 支部長が残り時間を教えてくれる。

 マズいな、本当に。

 どうにかして一撃を入れないと。


 だけど、どうやって一撃を入れるんだ?

 ここ何もないような空間だぞ。

 タクティクスを使っても対応できないし、どう攻略すればいいんだ。


「クロノくん、相手の気を逸らせるアイテムってある?」


 そんなことを考えているとアヤメが妙な問いかけをしてきた。


「あるにはあるけど、できてもちょっとの時間しか効果はないぞ?」

「それでいいよ。あとそうだね、そのアイテム使ったらやってほしいことあるんだけど、いいかな?」


 何をやらせるつもりだろうか?

 俺はヒソヒソと話してくるアヤメの言葉を聞き、思わず目を見開いた。


「いや、それは危険だろ!」

「大丈夫、それに私には切り札のスキルがあるから」


 いくらなんでも、それは――それに切り札のスキルって【詠姫】はそんなに強いのか?

 そんなことを思っているとリスナー達が騒ぎ始めた。


〈そうだ危険だ! 俺達にも聞かせろ!〉

〈そうだそうだ! クソガキだけズルいぞッ〉

〈教えてアヤメ先生ッ〉〈ああ、聞きたい聞きたい聞きたい!〉

〈待て! 重要な作戦かもしれないだろっ〉


〈つまり二人だけの秘密……なんてうらやまっ、いやけしからんッ!〉


 こいつらはことの重大性がわかってるのか?

 いや、この感じ全然わかってないな。

 とりあえずリスナー達のことは無視しよう。


「大丈夫。これも勝つためだから。それに、みんな私のことを待ってるしね」

「だけど――」

「そろそろ私、目立たなきゃいけないからね。だから、手伝ってクロノくん」


 アヤメは笑い、俺を立ち上がらせる力をくれる。

 そうだな、まだ終わっていない。

 それにアヤメがいう撮れ高が取れていない状態だ。

 なら、できる限りのことをして戦い抜くのが正解だろう。


 よし、やるぞ。

 ここから仕切り直しだ!


「作戦会議は終わりましたか?」


 西鬼さんは余裕たっぷりの笑みを浮かべ、俺達にそんな言葉をかけてくる。

 それはそれはなかなかにムカつく笑顔だ。

 いい顔で爽やかに笑っているからなおさら俺の対抗心が燃え上がる。


「やる気満々ですね。うん、いい顔です。さて、その闘志に免じてそろそろ試験を終わらせましょうか」


 だけど、俺達の力じゃ真正面から西鬼さんと戦っても勝てない。

 スキルを使っていないにも関わらず、どうしようもなくやられる。

 天地がひっくり返ってもその事実は変わらないだろう。


 だからこそ、俺はアヤメが立てた作戦を信じる。

 信じて立ち向かうだけだ。


 さあ、冷静に与えられた役割をこなせ。

 チャンスは僅かしかないんだ。

 冷静に、慎重に、だけど大胆に掴み取れ。


「来るよ、クロノくん!」


 西鬼さんが床を蹴り、まっすぐ俺達へ飛びかかってくる。


「ボックスッ!」


 瞬間、俺はスキルを発動させた。

 手にするのは、煙ダケ――刺激を与えると煙のような胞子を噴出するキノコだ。


 その胞子には目くらまし以外の効果は全くない。

 だが、間違って刺激すると視認することが非常に難しくなるほど濃い胞子を吹き出すキノコでもある。


「くっ、小賢しい真似を」


 突っ込んできた西鬼さんは俺が出した煙ダケによって見事に攻撃を空振りした。

 俺はその間に後ろへ下がり、出せるだけの煙ダケを出して放り投げていく。

 おかげで一面が真っ白で、西鬼さんどころか俺達も相手の居場所が把握しにくい状況になっていた。


〈真っ白じゃんっ〉〈何が起きてんだってばよ〉〈おいおいおい なんだこの銀世界は〉

〈もくもくしてっぞ〉〈見えん 見えんぞー〉

〈目だけを頼るな 五感で感じ取るんだ〉〈無理言うなってのw〉

〈ふっ、ザコが 私にはハッキリ見えているよ どこにどうアヤメちゃんがいるのかをね!〉


〈マジか変態紳士〉〈煙の中はどうなっているんだ〉

〈くっくっくっ 煙の中はな、激しい戦いが起きている! キンキンキン! ドカンドカンドカンッ バキューンッッッ!!!〉

〈バルス〉

〈ぐわーーー! 目がーーー! 私の目がーーー!!!〉


 ホント賑やかだな、こいつらは。

 あまりにも賑やかすぎてはっ倒したくなってきたよ。


 いや、そんなことよりもアヤメはどこだ?

 言われた通りに姿を見えなくしたけど、一体どこに行ったんだ?


 


「〈白い世界〉〈何もない世界〉〈それは始まりを告げる詩〉」


 そんなことを考えていると左からアヤメの声が聞こえてきた。

 まさか、こんな状態で魔法を使うつもりか?


「残り時間一分!」


 そんなこんなと動き回っていると、残り時間が僅かになってしまった。

 だが、支部長の声を聞いて俺はあることを思い出す。

 そう、これは作戦開始の合図だ。


〈これは!〉〈まさかアヤメちゃん、あれを使ったのか!〉

〈マジかよ!!! 超見てー!〉

〈詠姫発動じゃん!〉〈盛り上がってきたー!〉


 盛り上がるコメント欄。

 そもそも詠姫ってそんなに強いのか?

 そういえばひだまり迷宮から出るときに、アヤメがこんなことを言ってたな。


★★約一時間前★★


「そういえばアヤメ、その詠姫って戦闘には使えないのか?」


 迷宮から出る時、俺は何気なくスキルについてアヤメに訊ねた。

 すると彼女は難しい顔をしながらこう答えてくれる。


「できるにはできるけど、とっても大きな弱点があるんだ」

「大きな弱点?」

「うん。実は発動するまでに結構時間がかかるの」

「どのくらいかかるんだ?」


「七節の詩を読み切るまで。時間にしたら一分かな。その間は無防備だから、発動しにくいんだ」

「そうなんだ」

「しかも発動時間は一分しかないから、いざって時にか使えないの」


 なるほど、そりゃ使おうにも難しい条件だ。

 一分とはいえ、目の前にモンスターがいたらやられてしまうだろう。


「じゃあ誰かがいないと発動できないのか」

「うん。その分、強いんだけどね」

「へぇー。どんな能力なんだ? その詠姫って」

「ナイショ。でもいざって時には使うよぉー」


 アヤメはそう言葉をはぐらかし、笑う。

 その笑顔はかわいらしく、俺はごまかす彼女と一緒に笑ってやり取りを終えたのだった。


★★現在★★


 切り札か。

 その切り札がどれだけ強力なのかわからないけど、信じるしかない。

 いや、信じよう。

 この状況をアヤメなら打破できるはずだ。


『残り時間が一分になったらスキルが発動するね。だからそれまで盾役をクロノくんに任せる。私のスキルが発動したら、私が前線をするからね』


 それに、アヤメはこう言ったんだ。

 なら、俺はアヤメを信じてチャンスをうかがおう。


「〈私は詩を詠む者〉〈私は詩を記す者〉〈詩が詠まれし時〉〈詩は現実となる〉」


 その言葉が告げられた直後、一気に煙が晴れる。

 周囲を確認すると床に様々な円陣が点在していた。


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