第9話 意識の底で心配なあの人
黒竜アーロイの追跡から逃れ、私達はリップの背中に乗せられマカの村へと降り立った。
村の人がリップの姿をみて恐怖し、驚きいたる所で悲鳴が聞こえてきた。
みな竜は獰猛な生き物で自分たちが襲われると思ったからだ。
武器を手にする者まで現れて辺りは騒然としたが、ミコットさんが声を大にして理解を得ようと村人に呼びかけた。
「待ってくれ、この竜はみんなが思ってるような悪い奴じゃないんだ。この俺が黒竜に襲われた所を助けてくれたんだ。みんな頼む信じてくれ」
ミコットさんの訴えに、村人は半信半疑ながらも、手に握られた凶器を次々と下ろしていった。
そしてそれからすぐに村長であるルードさんがかけつけた。
「ミコットよくぞ無事で戻った」
ミコットさんと村長が包容を交わし、村が落ち着きを取り戻した所でジョセが言った。
「あなたがここの村長さん?」
「ああそうだルードだ」
「だったらアサを助けてやってほしい。意識が一向に戻らないんだ」
「分かった。すぐに医者に診てもらえるよう手配する。ついてきたまえ」
村長に案内され、私は病室に運ばれベッドの上で点滴を受けることになった。
依然意識は戻らないまま。
部屋の外のベンチで心配な顔をして医者の診察を待ち続けるリップとジョセ。
「クー」
リップがジョセに視線を向け、悲しげな声を上げた。
「心配するなリップ。呼吸はあった、きっと大丈夫さ。お前の御主人様はこれぐらいでへこたれるような奴じゃないだろ」
「クハー」
心配するリップにジョセは励ました。
そして程なくして病室から医師が出てくる。
「先生、アサの容態は?」
ジョセが立ち上がり医師に詰め寄る。
「命に別状はないでしょう、しかし念のため安静してあげてください」
「そうですか、良かった」
ジョセはホッと一安心したようで、体の力が抜けるかのようにベンチに座り込んだ。
「それから村長からジョセさんに話があるそうなので私が案内します」
医師にそう言われジョセは村長の家まで案内された。
扉のベルを鳴らすと村長が笑顔で出迎えた。
「ようこそお待ちしておりましたよ。アサさんの容態はどうですかな?」
「今は安定してます、時間が経てば目を覚ますかと。ジョセさんをお連れしました。私はこれにて病院に戻りますので」
「ああご苦労」
医師は持ち場に戻り、ジョセとリップは部屋の中へと案内された。
「そこに座って、コーヒーと紅茶どちらがいいかな?」
「ではコーヒーを頂きます」
少し悩んだ末、ジョセは大人ぶって苦手なコーヒーを頼んだ。
テーブルにホットコーヒーが置かれる。ジョセはカップを持ち上げ、救いの砂糖を探したがそんなものはどこにもなかった。
ジョセはカップを持ち上げた手前、仕方なくブラックコーヒーを口元に運んだ。
「サリサの一件は大変だったね。ソ黒竜まで使ってくるとは奴らもそれほど必死だったのだろう」
ジョセにとって黒は黒でもブラックコーヒーも中々の天敵であった。はたして飲みきれるか戦いであった。
「そちらの竜のお名前は?」
村長が興味の目でリップを見つめて言った。
ジョセが村長にリップを紹介する。
「こちらリップです。リップ挨拶」
「クア」
リップは村長向けて頭を下げて挨拶した。
ジョセもすっかりリップの扱い慣れてもうどっちが保護者かわからない。
「今4歳になります。人の言葉は話せませんが、あたし達の言葉を理解する事は出来ます」
ジョセに説明を受け、村長は関心したように何度も頷いた。
「竜とは賢いものなんですね。
サリサの黒竜も話し合うことが出来るのでしょうかね。だがもう我々が彼らを許すことは出来ないでしょう」
「ここはマカ村でしたっけ?」
「そうですが」
「マカとサリサは今対立関係にあるのですか?」
「ああそうです」
そして私が聞いたサリサがレムル村を襲って今に至る経緯を、村長はジョセに話した。
「でもこの戦いも、もう時期で決着がつきます」
「何か手立てがあるんですか?」
ジョセが不思議そうに聞いた。
村長はジョセに言うか言わないかしばし考える。その少しの間に口元が寂しくなったリップがコーヒーのカップに興味を示し長い舌を伸ばした。コーヒー触れるやいなや顔が一瞬で青ざめた。
「いいでしょう、ミコットを助けてもらった礼もありますし、あなたにお見せしましょう」
そう言うと村長は家を出て村の外へとジョセとリップを案内した。
私はベッドで眠り、深い意識の底で今頃カイトが私の家で路頭に迷ってないか彼を心配していた。
自宅ではお母さんとお父さんがジョセの伝言を預かって、カイトの到着をずっと待ち続けていた。未だカイトが家のベルを鳴らすことはなく日も刻々と傾いてゆく。
「カイト君遅いわね」
お母さんがお父さんに言った。
「そうだな、そろそろ日も暮れるというのに。約束をすっぽかすような小さな男ではなかったと思ったのだがな」
お父さんため息をはき諦めたように言った。
「きっと何かトラブルでもあったんじゃないかしら?」
「そうだと信じたいが、もう少し待ってみるか」
それからお母さん、お父さんはカイトの到着を待ち続けた。




