第58最終話 はじまりのーー
それから私は寄り道することなく故郷エルモ村を目指した。
途中声が聞こえ下を見下ろすと、エルザさんが馬車から手を振ってくれていた。
私も見えるように大きく手を振る。エルザさんは危険を察知して、バルセルラが落ち着くまで身を潜めていたのだろう。
それからルドワン上空に差し掛かった際に、ジョセが私に気付いて3人でわちゃわちゃしてたが、そちらは残念ながら私が気が付かなかった。
そんなことはつゆ知らず、私はカルーモ村上空を通りかかった時に、ジョセやカトリーヌさんに挨拶しようかと迷いもしたが、やっぱりはじめにただいまと言いたいのは、家族だから今回は見送った。
家に着き、お父さんに会って、怒られて、二人でお母さんの帰りを待って、お母さんが帰ってくるとまた盛大に怒られた。
でもなぜだか喜びの感情ばかり溢れてくる。こうして3人で食卓を囲みご飯を食べれるのも、当たり前のことではないように思えた。私は20歳になった時に家を出る。この幸福な一時を忘れないように私は噛みしめるように味わった。
それと家族をはじめ、ジョセやカトリーヌさん、ポルンさんはどうだかわからないけど、竜が現れたことをみんな忘れてしまっていた。
竜王様がみんなの記憶から今回の事件を消してしまったのかもしれない。
そのためみんなリップのことを忘れてしまっていた。
でもそのため村人が竜に対して恐怖心を抱いていなかったのは、リップにとって良かった事だと思う。
私は村人達からのリップの理解を得るために、カルーモ村に行き、ジョセ一向に会いに行った。そこで竜を身近な存在として認知してもらうために、リップをジョゼのサーカス団に預けることにした。
リップは空も飛べるし、火もふけるし、サーカスにうってつけの人材だろう。私の予想は的中しリップはすぐにサーカスのマスコット的看板になった。
そして時は経ち私の二十歳を迎えた春の年。
「アサ準備はもうできたの? 朝ごはんもう出来てるわよ」
お母さんがリビングから天井の2階に向けて、大きな声で私を呼んだ。
「もう少しですむから待ってて」
私も大きな声でお母さんに返した。何も寝過ごした訳じゃない、むしろ今日のために早起きをしたくらいだ。
私は机に向かって、ペンを走らせていた。あの日の出来事を手記に書き出していたのだ。
文章を一通り書き終えた私だったが、章の題名だけが抜けている。
「アサいい加減にしなさい」
急かす母親をよそに私は少し考え、閃いたように顔を微笑ませ、ペンをすらすらと走らせた。
「お母さん今いくわ」
机には手記が開かれたまま、ペンもその上に横たわっていた。開いた窓からはカーテンが揺らいでいる、風が新しい旅立ちを予感させる。
(はじまりのアサ)
終わり。
ここまでお読み頂きありがとうございます。最後、エンディングにユーチューブ上のkokiaさんの『私がみたもの』を聴いてこの作品の余韻に浸ってもらえると嬉しいです。◕‿◕。




