第24話 プレコット
私の気付かないうちに雨はあがっており、エルザさんのおかげで予定より早くルドワンの街につくことができた。
これでお父さんからの追跡もだいぶしのげたと思う。
私はそう思っていたが、まさかお父さんが馬を使って追ってきてるだなんて、この時の私は微塵も思ってもみなかった。
私が正道ではなく山道を通ってきたことと、お父さんが村に立ち寄ることなくバルセルラを目指していたこともあり、私の気持ちとは裏腹にその距離は着実に縮まっていた。余裕に構えてる暇なんてないのに、そんなことも露知らず私はルドワンを前に泰然自若と浮かれていたのだ。
ルドワンの入口からみえる大きな山、マリクル山脈。
盗賊の噂から少し避けたかった場所だけど、ここにきてこの山に龍の目撃情報とは。
盗賊もこんな時には活動してないだろうし、それよりも今は龍の方が脅威に感じる。
何しろバルセルラまで行く手間は省かけた。あそこが私達の目的地、ゴールは思ったより近いかもしれない。問題はどうやってマリクル山脈に入るかだ。
街に入ると雨の香りがまだ残っており、草木にはカタツムリが顔を覗かせていた。
ルドワンはバルセルラの次に発展してる街だ。
バルセルラは都市化が進み自然が失われてるのに対して、ルドワンの街並みはまだ青々としている。酒場が多く、ギャンブル事業が盛んで、一発逆転を夢みて訪れる観光客も少なくない。
黒い噂も度々ささやかれ治安はあまりいいとはいえなず、ちまたでは大人の街などと呼ばれているが私にはいまいちこの街の良さがわからない。それは私がまだ子供だからなんだろうか。
私はジョセからもらった地図の書かれたメモを見ながら質屋をさがした。
「んー思ったより街が広い」
頭をかきながらついつい弱音が漏れてしまった。それに反応してリップが、がさごそと体を揺らした。私に喋るなといわれ、リップのせめてものコミュニケーションなのだろう。
龍といってもこういう所をみると他のペット同じで可愛いものだ。
もらったメモでは中々街の全体図がつかめず質屋探しは難航した。
私がメモを見ながら歩いているの突然目の前が真っ暗になり、しりもちをついた。
「おいガキ気をつけろ、目ん玉は前を見るために着いてるんだ、覚えておけ」
軍服に鎧をまとった男が捨て台詞を吐くかのように言い、そのまま立ち去って行く。
私の前方不注意なのは認めるけど、あんな言い方ないわ。軍人っていうだけでそんなに偉いのかしら。
倒れたままでそんなことを考えているとリップがまたがさごとと体を動かした。「今度は何」とリップにむけて思ったが倒れたショックでリップを下敷きにしてしまっていたのだ。
「わわ」
慌てて立ちあがりリップに謝った。
「ごめんね大丈夫だった?」
リュックのカバーを持ち上げ隙間を覗き混むと、リップは目を渦巻上にしており相当なショックだったようで、私は隙間から手を入れ頭をなでた。
「よしよし」
リップは気分をよくしたのか自分からもっともっとと顔をこすりつけてきた。
そうしてそのまま撫でながら捜索を続けていると、気づかないうちにリップはスヤスヤ寝てしまっていた。
また鼻提灯を作っていたのでその場で割ってやって「やれやれ」と思いながらもリップをそのまま寝かせてあげた。
村を歩いていると、鎧をきた軍人さんをたびたびみかけた。どうやら警備体勢が強化されているようで、山道に続く道にも門番がしっかり敷かれ、一筋縄で入れなさそうだ。
私は門番の兵に近づき声をかけた。
「あのこの先がマリクル山脈の入り口ですか?」
「あーそうだ。だが今は龍のせいでこの有り様だ。立ち入りはお断りしてる。王都に用があるなら村をでて迂回してくれ」
またお決まりの台詞だ。お偉いさんにそう言えとでも言われてるんだろうか。
「龍ですか、本当にいるんですね」
「まぁ俺もこの目でみた訳じゃないから、半信半疑なんだがな。でも、もしものことがあってもこのライフルでいちころさ。配備されてる軍人全員持ってるんだ、ルドワンの安全は保証するぜ」
「それは頼もしいですね。龍の事件気になってたんです。少し見れたりします」
「おいこのガキ無茶するな」
身を乗り出す私に軍人さんは二人がかりで止めにはいり私を引きずりだした。
「お前あんまり手をやかせるなよな、今度やったら豚箱いきだからな」
まったく軍人さんはみんな口がワルいのね。
でもこれで分かった。入り口に配備されてる門番はこの二人だけ、あそこさえ突破してしまえば捕まらず済むかもしれない。でもそれには二人に見つからずに入る必要がある。
見付かればたちまち捕まちゃうだろうし。
私は山道のほうは一旦後回しにし、ジョセに紹介された質屋を探すために一軒の酒場を訪れた。
「あのすみません」
なんで酒場だって?普通のお店探すより、酒場の方が当たり前のようにあるんだもの。
「いらっしゃい、好きな席にどうぞ」
店主は眼鏡をかけた老人で、新聞を開きこちらに目を向けようとしない。まるでお父さんみたいだ。
店は私以外おらず暇な様子だ。私はカウンターの席に座り、道を聞くだけでは悪いと思い、メニューを開いたが。
高い!!とにかく高い。どの商品をとってもエルモ村より3割位は高い。
この店が繁盛しないのもわかるような気がした。それともルドワンではこの額が適正価格なんだろうか。
メニューを眺め早10分、微動だにしない私を背に店主は何も動じることなく新聞を悶々読み進めている。なんて忍耐の持ち主だ、まぁ10分も悩む私のメンタルも凄いものだが。
悩みに悩み、私は一つの商品を選んだ。
もちろんまだ未成年だしノンアルコールのものを頼んだ。
「あのミルクセーキお願いします」
店主がご老人ということもあり私は滑舌よく声を張り上げいった。
少し待つと私のもとに商品が届いた。
「はいお待ちどうさま」
湯気がたちこむ熱々なそれを私は息を数回吹き掛け、一口ごくりと。
ミルクセーキが喉通り私はまた動き止めた。これは感動の静寂だ。
「うまいかい?こんな天気だ、温まるだろ」
店主がその反応をまってましたといった具合に言った。
「はい、とてもおいしいです」
器をもったまま香りを吸いながら私は余韻を楽しんだ。
「でもなんででしょう?もっとお客が入っててもいいのに」
店主はきょとんさせ、身を引かせると大声で笑った。
「はははは、そんな事心配してたのかい?これでも常連の客もいるんだよ」
よっぽどおかしかったのか店主は目に涙をうかべ、涙のついた眼鏡を布で拭った。
「わかる人に分かってもらえればいいのさ。
それにもうわしも年だからな、そんなに沢山のお客の相手もできんしな」
「私、正直ルドワンの街って少し怖いイメージを持ってましたが、この店はまたきたいと思いました」
「店名はプレコットだ。今度は友達さんとくるといい」
「はい是非」
そのあと二人言葉もなく見つめ合って微笑みあった。勘違いして欲しくないのは恋愛的な意味じゃないからね。そこだけは念を押しておく。
荷支度をすませ会計を済ませた所で、本来の目的である質問を店主にぶつけた。
「あの道をお尋ねしたいのですが、ブレアというお店をご存じないでしょうか?」
「あー知っとるよ、ルドワンじゃ有名な酒場だな」
「酒場ですか?知人からは質屋と聞いておりますが」
「先代は由緒ある質屋だったが、今の代になってからは酒屋がメインで質屋はおまけ程度さ」
「そうなんですか」
「それでも目利きなのは確かだがね。場所はのうーー」
店主が目をつむって考え込んでいたので、私はメモ書きを差し出した。
「あの一応メモ書きがここにあります」
それをみるなり店主の顔がよりいっそう険悪になった。
「んーなんともお些末な地図じゃのう」
そういい店主はメモにペンで付け加え、現在地と詳細をこと細かに書き込んでくれた。
「ありがとうございます、これならみつかりそうです」
「その地図、誰が書いたんじゃ?」
そういわれ私はおじさんにも聞こえるように滑舌良く、声を張り上げて、満面な笑みで言った。
「私の親友です」
声が大き過ぎたのか、はたまた乱雑に書いた人物が親友だったことに驚いたのか定かではないが、おじさんはぽかん口を開き加えていたタバコを落とした。
そんなこと露しらず私はその台詞をいって、晴ればれした気持ちで店を出た。
リップがさっきの私の声で起きて、リュックの中で小さく鳴き、じたばたした。
リップの反応からも声が大きかったのは確かみたい。
「リップいつまでも寝てないでおきなさい。オ・シ・ゴ・トよ」
私は都合のいいことをいい、リップに一仕事手伝って貰うことにした。
「いいリップ、これから買い取り屋にいってこの中の荷物売るから必要なさそうな物を渡して頂戴。始めに言っておくけど財布は大切な物だからね」
リップがいつもの違って真面目な顔つきで首を何度も縦に振った。
「責任重大よ」
やる気に燃えるリップをみてこれまた微笑ましい。人の子もこうやって育つんだろうか、はじめてのお使いを任せているようで母親になった気分だ。




