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第23話 馬車にゆられるひととき

 私ははじめての馬車に、どきどきとわくわくが合わさった、なんとも言えない感情に興奮を覚えた。中を見渡すと装飾された飾りは高そうなものばかりで、どこもかしこもキラキラと輝いている。


 「あの、この度は馬車に乗せて頂いて本当にありがとうございます。なんとお礼したらいいか」


 「いいのよ、そんなに固くならなくて。そういえばまだお互い自己紹介が済んでなかったわね。私はエルザよ、出身はバルセルラ」


 「アサといいます」

 少しは勘付いてずいていたがこの人はバルセルラの上流階級の人間だろう。


 「アサちゃんはどこからきたの?」


 「エルモ村です」


 「エルモ村あそこは1度行ったことがあるのだけれど、自然多くていいところね」


 「なにもありませんけどね」


 「なによ、温泉があるじゃない。あの時はだいぶ癒されたものだわ」

 確かにエルモ村は、大きな天然温泉があることで有名ではあるが、温泉の源泉は1つしかなく、その珍しさに目をつけた土地の所有者は、お金持ちに向けたビジネスで殿様商売をはじめだした。なので地元のエルモ村の人達にとってはとてもじゃないが高くて入れたものではない。


 「そういってもらえると嬉しいです」

 まさにエルザさんのような人のための温泉宿なのだ。


 「でもバルセルラなら自宅に大きなお風呂があるのでは?」


 「お風呂はあるけれど、温泉とは全然違うものあれは人工物だわ。もっと自分の故郷に自信を持ちなさい」


 「そうですね」


 「あなたもしやそれで家出してきたとかじゃないでしょうね?」


 「違いますよ、家出なんて。用が済んだらちゃんと帰るつもりです」


 「ならいいけど、実は私の娘がバルセルラがあまり好きじゃなかったみたいでね。15の時に家を出ていってしまったの」 


 「そうなんですか。それは……」

 私の神妙そう顔をみてエルザさんが慌てて誤解のないように説明した。


 「あっ、まったく連絡がとれないわけじゃないのよ。向こうも心配みたいでちょくちょく連絡はくれるの。

でもそれが向こうからの一方通行だから私が声が聞きたいときは我慢するしかないの。だから私は連絡をくるのをただひたすら待つだけ。娘も貴方と同じ旅人なのよ」

 エルザさんの顔が少し淋しそうにみえた。


 「私には娘がなんのために旅をしてるかよくわからないわ。家にかえれば何不自由なく暮らしていけるのに、わざわざなんで過酷な道を選ぶだろうって」


 「道を……自分で切り開いてみたいのでは?きっと娘さんは自分の運命の予想図が見えてしまったんだと思います。

安定と刺激どちらも大切ですが、中々難しい問題ですね。

でもどちらをとるかは本人の選択ですから。娘さんの選んだ人生を尊重してあげてください」

 エルザさんをみるとポカーンとあまりしっくりしてない様子にみえた。


 「すみませんでしゃばった事いって」


 「いえあなたのいったとおりかもしれない。もう当時とは声が違うもの。今の電話越しに聞こえる声は、私が当時生で聞いていた声よりよっぽど生き生きしてる。

あっごめんないね長々と、あなたには関係のなかったことね」


 「いえ全然そんなことないです。とてもいい話がきけて良かったです。私の心も少し温かくなりました」


 「娘さんは今いくつになるんですか?」


 「家を出て二年だから17ね。あなたと同じ位の子よ」


 「私も17ですよ」


 「そうだったの」


 「っていうことはエルザさんって年いくつなんですか?」


 「37よ」


 「えっ!?てっきりもっと若いと思ってました」


 「やめてよ、私なんかすっかりおばさんなんだから。オホホホホ」

 謙遜するエルザさんだが、なんだか嬉しそうで満更でもなさそうだ。


 「今度はあなたの話をきかせてちょうだい。これまでの旅のこととか?長くなりそうなら1つ前の村での出来事でもいいわ」


 それから私はカルーモでの出来事をエルザさんに話した。ジョセのことカトリーヌさんのことポルンさんのこと。リップのことも沢山喋りたかったがそれが叶わないのは少し残念だった。カルーモではリップも大活躍だったからね。


 カルーモでの話をしてエルザさんが笑ましく思ったのかエルザさんの顔が優しげさ表情になった。私の話で少しでも心を温めてくれたら嬉しいな。


 「あなたには頼もしい仲間が沢山いるのね」


 「はい」

 私は強く噛み締めるように言った。私はこのとき一人じゃないんだって思った。


 馬車が走り出して30分ほどたった時、それまで晴れていた空が一転して暗く湿ったものにかわり、ぽつぽつと雨を降らせた。


 その音が疲れてる私には妙に心地よく聞こえ、今にも寝てしまいそうだったが、そこはエルザさんに失礼のないようぐっと堪えた。

 雨はどんどん強さを増していきその音を強めた。


 「運転主さんバルセルラにはどれほどでつきそうですか?」


 「日没前にはつくでしょう」

 運転手さんから報告をうけ、エルザさんがその事を私に伝えようとしたが私は馬車に揺られる中スヤスヤと眠ってしまっていた。

 エルザさんはくすりと笑い、今度は私を起こすことなく私の寝顔を微笑ましく眺めるのであった。


 そうして出発してから三時間が過ぎさろうとしたとき、次の町ルドワンを前に、空模様も回復してお日様が姿をみせ、雨の騒音もなくなりはじめたが、どうも外の状況が騒がしい。


 エルザさんたまらず窓を開け顔を出すと誘導員が誘導灯をふって馬車を行く手を制止する


 「こらこらこの先は立ち入りを禁止だ」

 どうやらルドワンからバルセルラに向かうのに1番近い、山脈が通行止めになっているというのだ。


 「私達バルセルラに行きたいの」

 エルザさんが誘導員に行き先を伝えると「悪いが迂回して通ってくれ」誘導員は山の周りをぐるりと迂回することを勧めた。


 騒ぎに目を覚ました私は眠い目をこすり、その誘導員に訪ねた。


 「なにかあったんですか?」


 「龍だよ龍。龍が山脈に潜伏してることがわかった。今バルセルラ軍が討伐にうごいておる。そのため山脈は通行止めになっとる」


 「アサちゃん仕方ないわね、迂回路を通るしかないわ」


 「あっ私ここで大丈夫です。ルドワンにも用があったので」

 私は馬車の扉に手をかけ降りた。


 「本当に大丈夫?」

 扉から身を乗り出しエルザさんが言った。


 「はい、ここまでありがとうございました」

 深々とお礼をして私はルドワンの行く事を決めた。


 「アサちゃん風邪引かないようにね」

 過ぎていく馬車に私は大きく手を振った。


 「お元気でー!!」

 馬車を見送り私はルドワンの村に足を踏み入れるのであった。

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