第19話 お母さんとリップ
私は壁に持たれかかり、焚火の心地のいい音色と温かさから、気が付くと小さな寝息を吐きながら意識はもう夢の中にあった。
「エルヤったらぐっすり眠ちゃって」
お母さんがやれやれと思いながらも、私が風邪を引かないようバッグから膝掛けを取り出し、布団代わりにと私の首から下まで布団をかけてくれた。
「ところでアサ今日は泊まっていくのかい?夏だし外で眠るのも気持ちいいものだよ」
お母さんは俯き少し考えてからリップに言った。
「そうしたい気持ちは山々だけど、暗い内に帰りたいわ。出来るだけ人気は避けないとね」
「その調子だと部屋からは殆ど出てないみたいだね」
「ルヴィーさんの事もあるから、隠れて生きていかなくちゃ。彼女、私達のこと聞きまわってるでしょうから、知り合いを作らないことが1番安全だわ」
「アサは心が強いね」
リップは声色を変えずに淡々と言う。
「私には責任があるの。母親としてエルヤだけは絶対守ってみせる」
お母さんの握った手に力がこもる。それはお母さんの強い意志の現れなのかもしれない。
「でもエルヤはまだ子供だよ、アサのように強くはなれない。
きっと色んな物、色んな人に興味があるはずだよ。アサはそれらのことを知ってるから我慢できるかもしれない。でも何も知らないエルヤに我慢を強いては駄目だよ。
それでは彼女はその先塞ぎ込むばかりだ」
リップの言葉がお母さんの心に深く突き刺さった。私のためにやってきたとずっと思ってきた事が、結局は自分のためだったからだ。
お母さんはもう誰も失いたくなかった。それが結果として私を箱の中に閉じ込めることになってしまっていた。
「今日エルヤが学校に行きたいって言ったの。
帰宅中の学生に会って自分にも友達が欲しいと思ったみたい」
「やりたいことを見つかるのはいい事だよ」
「でも学校に通ったらそれこそ名前が知れ渡っちゃうわ。私どうしたらいいかわからない」
お母さんが取り乱していると、リップがそっとアドバイスを送った。
「ならアサ、君が勉強を教えたらどうだい?」
「私が?」
お母さんはリップを見つめ言った。その瞳は左右に揺れて不安の気持ちを顕著に表していた。
「教えられることはあると思うよ。アサがみてきた広い世界をもっとエルヤに教えて上げてほしい。
アサ、君が心配するのは痛いほど分かる。でも僕はこのままではエルヤの未来を潰しかねないと思ってる。
大丈夫だよアサ何かあれば僕が駆け付ける。僕の成長して強くなった。今の僕ならルヴィーを倒せるかもしれない」
「リップ無理だよ、ルヴィーさんの力は強大過ぎる。私はあなたまで失いたくない」
「でもいつかは奴と対峙しなきゃならない日がくる。こんな生活が一生続けられるはずがないんだ。
アサもそのことは覚悟したほうがいいよ」
「分かったわリップ」
それから二人は焚き火を見つめ、思い思いの思考を巡らすのであった。
「エルヤ起きなさい」
それから1時間後私はお母さんに肩を叩かれ体をびくりとさせ飛び起きた。
「あれ私眠ってた?」
「1時間も眠ってたわよ」
「えへへ、ちょっと疲れてたみたい」
「そろそろ家に帰るからね」
「もう帰っちゃうの?」
「昼間に帰る訳にもいかないもの」
「そっかもっと一緒にいられると思ったのに、あっそうだ」
私は思い出したようにバッグから牛乳瓶を取り出しリップに差し出した。
「リップこれ君にあげるよ」
「僕はその小さな瓶を開けられる程器用じゃないよ」
「そっか」
私は瓶のキャップを開けてから「リップ口開いて」とお願いすると、リップは大きな口をめいいっぱい開いた。私なんて一口で飲み込まれそうなほどの大きな口に私は圧倒された。
その口の中にミルクを全て注ぎ込んだ。
私が「リップ美味しかった?」と聞くと「うんとてもね」と満面な笑みで答えてくれた。
私はそれが嬉しく「そっか今度来る時も持ってくるね」とリップと約束を交わした。
「エルヤ、君を見てると昔のお母さんを思い出す。お母さんのように強い心を持つんだよ、気をつけてな」
「うんありがとうリップ。またきっとお母さんと一緒に会いにいくよ。リップありがとう」
手を振って私達はリップに別れを告げて登ってきた山を下山することにした。
帰り道はリップの仕業なのか、あの霧に覆われた道には出くわす事はなく難なく下山することができた。
そして私の視線に元気よく飛び回る蛍の光が目に入った。
「ねぇお母さん蛍またとってよ」
「どうしてよ」
「だってリップに食べられちゃったんだもん」
私がほっぺを膨らませているとお母さんは「仕方ないわね」といやいや了承してくれた。
5分後私の手にはビニール入った蛍があった。その中で光る蛍を眺めニヤニヤとしているとお母さんが言った。
「エルヤその蛍どうするつもり?」
「ふふふ、それは内緒かな」
「家の中で飼ったりしないでね」
「明日になったら逃がすよ」
そんな会話をしながら、私達は自宅へようやく着いた。
家に着いた時には時計の針は3時を回っており、私は倒れるようにベッドに横になりすぐに眠りについてしまった。




