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第17話 はじめましての再会

 さっきまで私達の視界に広がっていた白い霧は嘘みたいにその姿を消し、やっぱりあの霧はお母さんの言った通り自然現象ではなく竜の仕業に違いなかった。


 足首は少し痛むけど、霧がない分恐怖心で気を張ることもないし幾分膝が軽くなった気がする。

 お母さんは相変わらず何も動じることなくそのスピードを維持して進んでゆく。

 私の事はお構いなしに進んでゆくものだから、お母さんの後ろをついていくのがやっとでまるで追いつける気がしない。

 その内、披露が蓄積してきて私が山の斜面に手を付きながら歩いていくと、突然壁をすり抜けて私は地面に叩きつけられてしまった。


 「わっ」

 両手から地面についたことで、体を強く打ちつける事はなく怪我こそしなかったが、それでも掌はひりひりと痛んだ。

 

 「もういきなり何よ」

 私が目を開き立ち上がるとそこは真っ暗な漆黒の世界だった。これじゃ目を開けても瞑っててもまるで変わらない。

 私はループする霧の世界のように今度は異空間に飛ばされてしまったのではないかと頭をよぎらせた。

 

 その時「エルヤどこにいるの?」背後からお母さんの声が聞こえてきた。

 振り返ると僅かな隙間から光がちらちらと姿を覗かせていることに気が付いた。

 私はその光に向けて進み叫んだ。「お母さん私はここだよ」

 光の先に頭を出すとはたまた地面に叩きつけられるような衝撃が頭に響いた。今度のはさっきよりずっと痛い。


 「イタっ」

 ゴンっと鈍い音と共に痛み襲われた。しかしその痛みに悶える声は私だけじゃなかった。

 目を開くと目の前にお母さんが頭をおさえてうずくまっていた。


 「エルヤが突然飛び出してくるからびっくりしたじゃない」

 どうやら私がぶつかったのはお母さんの頭だったようだ。


 「ごめんなさい、でも良かった元の世界に戻ってこれて」

 私は頭に痛みを感じながらも、あんな何もない空間に閉じ込められなかったことを心底ホッとし安心しきっていると、お母さんが私に言った。


 「寝惚けたこと言ってんじゃないのエルヤ、周りをようく見てみなさい」


 「えっ?」

 私は自分の周りを見渡すと自分の体が確認できなかった。あるのはひょろひょろと伸び切った沢山のツルだ。ツルを掻き分けて両手を伸ばすと山の斜面に1.5メートル程の穴が開いていた。


 「お母さんこれって?」


 「可能性はありそうね」

 お母さんが何かを確信したように微笑んだ。

 入り口を植物でカモフラージュまでしてある。そんなそこらの野生動物に出来る芸当ではなかった。

 つるで覆われたカーテンを持ち上げ私達はその洞窟に足を踏み入れた。


 「でもこの先真っ暗だよ」

 またしても視界は最悪、しかも今度は霧の比じゃない、これじゃ何も見えないのと一緒だ。


 「ランプくらい持ってくれば良かったわね」

 流石のお母さんもこの視界の悪さには進むのを躊躇し、困り果てた様子でその場で考え込んでしまった。


 私はお母さんが決断するまでの間退屈だったので、片方の足をブラブラと前後に揺らしていると地面に転がっていた小石が足に当たってコロコロと音を立てて転がっていった。

 私はなんの気なしに地面から、手探りで小石を探しだし拾い上げると、見えない小石を見つめ考え込んだ。

 この小石をここから投げれば洞窟がどれくらい遠くまで続いてるか分かるんじゃないかって。音が遠ければ今日の所は、戻らざるを終えないだろう。

 私は大きく振りかぶって小石を勢いよく投げ入れた。

 小石は洞窟内を反響しあいはじめこそ大きな音を立てたが、奥に転がっていくにつれて音は遠ざかっていきその内消えていってしまった。

 

 「エルヤなにやってるの!!」

 勝手なことをする私に対してお母さんは叱りつけるように怒鳴った。

 でも私だって遊んで石を投げ入れた訳じゃなかったのでお母さんに弁明した。


 「石を投げれば洞窟がどれだけ続いてるか分かると思って」


 「やめなさい、リップに当たってでもしたらどうするの」

 その考えは確かに頭になかった。


 「そうだね、もうしないよ」

 私はそういうと手に握られていた残りの小石を地面にそっと落とした。けれどさっき投げた一投で洞窟がどれだけ深くまで続いているのかは容易に想像できた。


 「お母さんどうするの?こんな暗い中。洞窟は長く続いてそうだよ」


 「そうね、恐らく道は一本道だろうから、壁を伝っていけば行けないことはないだろうけど、もし仮に他の獣の住処だとしたらこれ以上進むのは危険ね」

 お母さんが溜め息を吐き、諦めて道を引き返そうと提案しようとしたその時だった。


 「あれこの光?」

 私の腰のあたりから突然淡い黄色い光がゆっくり点滅しながら光を放った。

 その淡い光からは不思議と恐怖心を抱くことはなかった、むしろ儚く温かみさえ感じられた。だってこの光は私初めてじゃないもん。

 私がその光に触れようと手を伸ばすとあるものに遮られた。それは私が腰に携えていたバッグだ。

 私は直ぐにその光の正体に気が付き、バッグからその光を放つものを取り出した。


 「お母さん蛍さんが道を照らしてくれるって」

 私は蛍の入ったビニール袋を手に目の前の道を照らし出した。


 「そうね、これなら行けるかもしれない」

 お母さんの許可が降りて、私達は蛍の灯火を頼りに慎重に洞窟の奥へと進んでいった。

 しかし頼りとなる光の元が昆虫だから、そう容易く人様の言うことばかり聞いてはくれない。

 蛍はその時の気分次第ですぐに光を放つのを止めてしまうからだ。

 しかしもう一度踏み込んでしまった以上、今更引き返すことなんて出来ない。


 「蛍さんお願いだから光ってちょうだい」

 私は中々光ろうとしない蛍にビニールを叩き刺激を与えると、結び目がほどけてしまい蛍が外に逃げ出してしまった。

 光を放って飛び立つ蛍の跡を私達は賢明に追った。


 「ちょっと待ちなさいよ」

 

 「エルヤ何やってるのよ」

 ドタバタと焦る私達を他所に蛍は自由気ままに洞窟の奥へ奥へと進んでいった。そして蛍が岩場に止まりようやくその足を止めた。

 けどホッと一息をついたのも束の間、蛍は何かに飲み込まれるようにゴクリという音と共にその姿を消してしまった。それはもう私達には何も道しるべないことを意味していた。

 しかし視界は真っ暗でも、今までとは何か違うような異様な気配を感じた。耳に感覚を研ぎ澄ませると私達以外の荒い息遣いが聞こえるではないか。それだけじゃないその吐息の風を今目の前に感じる。

 竜はもしかして私の直ぐ側にいるんじゃないのか?私はそう思い言葉を投げかけた。

 

 「あなたがリップ?」

 数秒の沈黙が続き、何も起こらないと思ったその時だった前方からお母さんではない別の者の声が聞こえてきた。


 「君は僕の名前を知ってるんだね、でも嗅いだことのない嫌な香りだ。君は一体何者なんだい?」


 「私は……エルヤ」


 「エルヤ?」

 私の名前を聞いて引っ掛かることがあるようで、やっぱりリップなんじゃないかと私が聞こうとすると、お母さんがその前に声を上げた。


 「リップ、私アサよ。あなたに会いにきたの」


 「その声確かにアサだ。僕に会いにきてくれたんだね。今明かりを灯すよ」

 視界が急に明るくなりその全貌が明らかになってゆく。私の目の前には大きな青色の竜が鎮座しており、口元から火を吹き足元に広がる焚き火に火が注がれていった。


 「あ……」

 私はその大きさと迫力に圧倒されて腰を抜かして後方に倒れ込んでしまった。すかさずお母さんが私の体を抱きかかえて支えてくれた。

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