第13話 リップの名付け親
山に足を踏み入れることなんて初めてだし、まるで冒険家になったようで、お母さんがいる手前平常を装ってはいるけど、内心少しワクワクしている。
山道といっても人の手が全く加えられてないわけじゃなく、道幅も5メートル弱程と人が余裕持って歩ける道になっている。
私はお母さんの腕をぎっしり掴んで山道の奥地に歩みを進めると、緑の草木や、見慣れない花達が活き活きと咲き誇っており、暗がりながらも色とりどりな色彩で私の目を楽しませてくれた。
すっかりその風景に魅了された私は、気付くとお母さんの腕を離して、もっとその先に何があるのか知りたくなり、お母さんよりも先に山の奥へと走り出してしまった。
もちろんお母さんからは「待ちなさい」とストップをかけられてしまうのだけど、先が気になってしょうがない。それなのにお母さんったら全然私のスピードについてきてくれない。
「お母さん早く。そんなんじゃ、朝になっちゃうよ」
先に行けないもどかしさからお母さんに必死に訴えかけるも、お母さんは走ってまで私に追い付こうとはしてくれなれなかった。
「ほら早く」
その姿を焦れったく思いながら見つめ、後ろ向きに進んでいくと、足元に転がっていた小石に足を取られて私は転んでしまった。
「うわっ」
一瞬何が起きたか分からずに反射的に目を瞑ってしまって、ろくに受け身もとれず、ヒリヒリする痛みから目を開くと膝をすっかり怪我してしまい、痛々しくも足から血が垂れていた。
「エルヤ大丈夫!?ちょっとそこで待ってなさい」
お母さんが私を心配して、皮肉にも走って私の元まで駆けつけてくれた。
「擦りむいたのね。今絆創膏だすわ」
お母さんはバッグから絆創膏を取り出してから、消毒液は持ち合わせていなかったので、水筒の水で傷口のゴミを洗いながしてくれた。
「いたっ」
身構えてはいたがやっぱり傷口が染みて情けない声が漏れてしまった。
その後、お母さんは傷口についた水分をタオルで拭き取ってから絆創膏を貼ってくれた。
「エルヤしっかり前を見て歩かないからこうなるのよ。まだこれくらいで済んだからよかったけど、右側を見てみなさい」
お母さんに言われ、首を横に向けてみるがその先には特に何もなく、お母さんが何を伝えたかったのか見当もつかず私は首を傾げた。
でもお母さん伝えたかったことは、見た通り何もないこと、道がないことを示していた。
「ここは崖道なのよ。もっと気をつけて緊張感を持って行動しなきゃ駄目でしょ」
「ごめんなさい」
こればっかりは私が100%悪い、お母さんが遅いからとは弁明する気にはなれなかった。
山登りを再開するも足取りが重く、さっきまであんなに楽しい気持ちだったのに、気付けばお母さんが先頭を歩き、私が後方にいてお母さんを待たせてしまっていた。何よりお母さんが歩くスピードを早めた訳じゃないのが問題だ。
お母さんも私が落ち込んでいることに気付き、足を止めて私が追いつくのを待った。
私もお母さんが待ってくれていた事は分かっていたが、合流しても自分の不甲斐なさから顔を上げることが出来なかった。
「いつまでもそんなしょぼくれた顔しないの。お母さんもう何も怒ってないから」
「うん」
お母さんはそういうが一度沈んだ気持ちはそう簡単に立て直せないよ。
視線を下げていると、お母さんが傾いた私の頭に手を置きやさしく頭を撫でた。
「お母さんエルヤがはしゃぎたい気持ちも分かるのよ。私も幼少期の頃無茶ばかりしてたから」
「しっかり者のお母さんが?」
驚きから顔を上げお母さんを見上げた。
「そうよ、考えるより前に先に行動しちゃうようなお転婆娘だったんだから」
「ふーん、じゃ私はお母さんに似たのかな?」
お母さん口元に手をやって少し考えこんでからいった。
「そうかもしれないわよ」
「そっか」
お母さんもお婆ちゃんに沢山叱られたから今があるんだと思った。少し気持ちが軽くなった。
「お母さん早く上を目指そう」
私はお母さんの腕を引っ張り早く上を目指そうと歩き出したが、その選択がまたまた間違いだった。
「エルヤだからって変わらずはしゃいでいい訳じゃないのよ。さっきも緊張感持ってって言ったでしょ。
初めからそんなにとばしてたら、体力が後半持たなくなるから、急がなくていいから、極力体に負担かけないように歩きなさい」
「はーい」
お母さんの言うとおり、無理をしないで一歩一歩止まることなく山を登っていく。
20分ほど歩き、無理なく歩いてたつもりだったけど、上に登るほどに徐々に傾斜は上がっていき私の体力を奪っていった。
そしてその5分後には体力の限界がきてお母さんに一声を掛けた。
「ねぇーお母さんまだ登るの私そろそろ疲れたよ」
地べたに尻をつけて、上がった息を整えた。
「そうね少し休みましょうか」
お母さんは息は上がってないものの、額から汗が沢山流れていた。
私はバッグから飲み物を探すために、チャックを開き手探りで手を突っ込んで、引き抜くと出てきたものは、濃厚な牛乳だった。
流石にこんな喉がカラカラなときに濃い牛乳なんて飲めたものじゃない。自宅で『お母さんが水を持っていきない』言ったのが今になってようやく分かった。
私とお母さんは水分補給をすませて、少しの時間お喋りをした。少し気になってたこともあったし。
「お母さん本当に竜なんているのかな?」
「エルヤは疑り深いわね。何度もいるって言ってるでしょ。それから竜じゃなくてリップって呼んであげて」
「リップねぇ、竜にしては可愛過ぎる名前じゃない?竜がそんな名前つけるかなぁ?」
「リップはお母さんがつけた名前よ。本当の名前は別にあっと思うけど、えーと、なんだったかしら?……
お母さんも忘れちゃった」
結構大事なことだと思うけど、お母さんもやっぱり抜けてるとこは抜けてるよね。
「リップか」
竜=リップ。あまり馴染みがないから一度口に出して言ってみた。
「エルヤは小さい時のこと思い出せない?
よくリップがあなたのことあやしてくれてたのよ」
「んー覚えてないなー」
記憶はないけど、リップの名前を言った時になんでか初めてではないような感じがした。頭では忘れているけど体はわずかにその名前を覚えているようだ。
「リップに会えばきっと思い出すと思うわ。よし行きましょう。きっとすぐ近くまできてると思う」
お母さんはそう言うと立ち上がり私の腕を掴み私を立ち上がらせた。




