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第12話 光の正体

 「エルヤ行くわよ」

 お母さんが玄関の扉の開いてもたつく私を急かした。


 「待ってよお母さん」

 私は山に出掛けるとあって体中に念入りに虫除けのスプレーを振りかけていた。

 一通りかけ終わり、スプレー缶を手にお母さんの元に駆け寄る。

 

 「お母さんはスプレーかけないの?沢山蚊に刺されちゃうよ」


 「お母さんは大丈夫。リップに私の匂いを分かってもらわなくちゃならないから」


 「なるほど、竜は鼻が利くんだ」

 お母さんは外にあまり出歩かないから、ただ単にスプレーをする発想に至らなかったと思ってたけど、しっかり考えがあってのことだったんだと感心した。


 玄関の扉をくぐり階段を降りると一階のホールは真っ暗で、誰も居る様子はなかった。考えてみれば時刻も21時過ぎで、そろそろ寝静まる時間だった。

 宿の扉を開き、外に出ると外の方が月明かりに照らされてよっぽど明るかった。


 私は外に出るなりお母さんの腕を掴み頭を傾け寄り添って歩いた。


 「どうしたのエルヤ?」


 「こーすればお母さんに虫寄ってこないでしょ」

 私は得意げな顔をして言ったが、お母さんにはその言葉に隠された真意がすぐに分かり顔を微笑ませた。


 「エルヤったら調子の良いこと言って、お母さんに甘えたいだけでしょ」


 「そんなことないもん」

 顔を逸らしてお母さんにそう言ったが、図星だっただけに私は恥ずかしさから顔を赤くした。

 それでも掴んだ腕は離さなかった


 村の外に出ると街道の草木の茂みから虫のささやきが聞こえ、私にはそれが心地よく聞こえた。


 「ねぇーお母さん」


 「何エルヤ?」


 「こうして二人で出掛けるのっていつぶりだろうね?」


 「そうねぇ、ルーブルに来てから二人で外出なんてめっきりなくなってしまったものね」


 「大体お母さんは外自体出歩かな過ぎだよ。家にずっと閉じこもってると健康に良くないよ」


 「そんなことないわよ。あなたが寝てる早朝にゴミ出しや井戸に水を汲みに行ったりしてるのよ」


 「うーん、それって外出って言えるのかな?」


 「そうね、でも私は一日のはじまりに朝日のお日様を見ることで、なんだか心が洗われる気がするの。これで今日一日もきっと大丈夫って毎日励まされてるのよ」


 「お母さん眠くなるようなこと言わないでよ、話がメルヘンチック過ぎるよ」

 お母さんの面倒な一面が垣間見えた所で私はお母さんの腕を離して、バッグの中から水を取り出し口に運んだ。


 「そうかしら?」

 自覚がない所がこれまたたちが悪い。お母さんのこういう所を見ちゃうとやっぱり竜なんていないんじゃないかって疑ってしまう。

 しかし山のふもとに着くと私達は不思議な光景を目にした。

 

 「お母さんあの光なんだろ?」

 私が指を差した草の茂みの上にはなんと無数に光りを放つ、小さな粒状のものが漂っていた。

 にわかには信じられない光景から、私は目を何度も擦ったがそれは夢でも幻でもなかった。


 「妖精さんみたいね」

 お母さんは落ち着く払った様子でそう言ったが、そんな言葉で納得出来るほど私は子供じゃない。


 「そんなの居る訳ないよ」


 「なら自分の目で確かめてきなさい」

 お母さんに言われて光る粒に近寄っていくと光は私から避けるように離れていった。

 いくらゆっくり近付いても上手くいかず、諦めてお母さんの元に戻ってくるとそこに立ち尽くしていたお母さんの周りに光の粒が漂っていた。

 お母さんがそっと腕を伸ばすと指先に光がとまった。


 「エルヤこれが蛍よ」

 聞いたことはあったけど、見るのはこれが初めてだった。


 「これが蛍、綺麗だね」


 「綺麗な物をみると心が洗われるでしょ?」


 「うん、なんとなくだけどお母さんの気持ち分かった気がする。お母さんそれ私にも出来るかな?」

 私はじっと立ち止まり、心を踊らせながら腕を伸ばして蛍が近寄るのを待ったが、蛍は一向に私の元には来てくれなかった。


 「なんで私の所には蛍来てくれないの?」


 お母さんはその原因に思い当たらない節がなかった訳ではなかった。

 「うーん、もしかしたら身体にかけたスプレーの匂いを嫌ってるのかもしれないわね」


 「そんなー」

 私はがっかりし、やけになって蛍の群れを追いかけ回したが、一向に蛍が捕まってくれる気配はない。

 

 「エルヤその辺にしときなさい。蛍を見に来た訳じゃないのよ」

 お母さんに注意され、しょぼくれながら「ごめんなさい」と戻ってくると、お母さんの身体には数匹の蛍がとまっていた。

 その光景に不公平さを感じながらも私は良いことを思いついた。

 バッグからビニール袋を取り出すと蛍に刺激しないようそっとお母さんに袋を手渡した。

 ビニール袋は買い物を頼まれた時に店で必ず貰えるので私のバッグには沢山入っている。こんな形で役に立つとは思ってもみなかった。

 

 「お母さんその袋で蛍一匹捕まえてよ」

 

 「ちょっと可哀想じゃない?」

 捕まえることに躊躇するお母さんだったが「近くで見てみたいだけ、すぐに逃がすよ」と私が言うとお母さんはそれならと指に止まった蛍を袋でいとも簡単に捕まえてくれた。


 「やったー」

 はしゃぐ私に、お母さんは空気も一緒に入って膨らんだ袋の口を緩めに締め、私に手渡した。


 「強く握った駄目よ、口から空気が抜けちゃうからね。エルヤ、山はすぐそばよ。行きましょ」

 

 「うん」

 私は袋を顔につけて幻想的な蛍の光を楽しんだ。

現在ストーリー練り直し中2月10日より毎日連載再開します。

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