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第10話 お母さんとの衝突

 結局私が宿に到着したのは夕日が沈みかけの17時10分のことだった。

 まだ宿屋の前で呆然と立ち尽くすばかりで中々扉に手を掛けることができないでいた。それはお母さんとの約束の門限が17時で今日初めてその門限の時間を破ってしまったからだ。

 今この状況に限っては店に掛けられた時計がすごく憎らしく感じた。こんなものがなければ、仮に門限が過ぎていたとしても、気付かずにすんなり帰宅出来てたものを、この時計のせいで見たくもない現実を突きつけられてしまっている。

 でもこうして時間が過ぎれば過ぎるほどに状況は悪くなる一方で、私は腹を決めて宿屋の扉を開いた。


 「エルヤ、お母さんが心配してたよ」

 バーバラさんが厨房でフライパンを振りながら大きな声で言った。


 「言われなくても分かってますよ」

 対照的に私は戦意喪失したようにか細い声でバーバラさんに返し、そのまま階段を上がっていった。そして201号の自宅の扉を開いた。


 「ただいま」

 お母さんに目を合わせないよう視線を落として言ったが、お母さんはすぐ私に近寄り否応でも私の視線の中へと入り込んできた。


 「エルヤ随分と遅かったじゃない?こんな時間まで何してたの?」

 お母さんは腕組みをしてやっぱり想像通りお怒りモードだった。


 「気付いたらこんな時間になっちゃってて」

 私はなんとかそれをかわすように誤魔化すように言った。

 

 「山菜採り夢中になってたの?」


 「うんそうそう、フキが沢山なってて……」

 藁にもすがりたい気持ちから、お母さんの言ったことに乗っかってしまったが、言った後でこれは悪手だったと私はすぐ後悔した。


 「これ頼まれたもの置いておくね」

 テーブルの上にカゴを起き、中から買った物を取り出し、すぐにカゴに蓋をした。後はお母さんがカゴの中を見ないことを祈るばかりだ。


 お母さんは私の挙動不審な態度から真っ先にカゴの中から3本のフキを持ち上げ言った。

 「ふーん。フキ3本しかないけど」


 「……」

 完全に行き詰まり、私は言葉を失ってしまった。


 「エルヤお母さんに嘘までついて、こんな時間まで一体何してたのよ?」


 「それ言わなくちゃいけないこと?」

 私は珍しくお母さんに反抗的な態度を取った。それは怒られたくなくてしたことじゃない。ただあの事実をお母さんには言いたくなかった。


 「ええ勿論」

 

 「私は必要ないと思う。だから言わない」


 「エルヤ、悪いことをしたんなら、ちゃんとそれに向き合わなくちゃ」

 お母さんが私の肩を掴み、私の視線に合わせ目を見て話した。

 お母さんの言う向き合うって何?謝りなさいってこと?確かに門限を守れなかったのは良くないことかもしれない、でもそうなっても仕方ない事情だってある。


 「悪いこと?私は悪いをことしてなくても買い物一つで、こんなにもこそこそしてなくちゃ行けないの。帰りが遅くなったってしょうがないじゃない」

 私は感情的になって声を荒げて言った。


 「エルヤ、何があったっていうの?お母さん怒らないから話して」

 お母さんはそんな私の態度に困惑するばかりだった。


 「学生に会ってちょっとからかわれて、その男の子の顔をひっぱ叩いちゃって、それで……」

 それを聞いたお母さんがショックを受けた顔をした。こうなるのが分かってたから私は嫌だったんだ。でも勘違いしてほしくないのは1番辛いのは私だからね、そう思うと無性に腹が立った。


 「お母さんなんで私は学校に行けないの?」


 「エルヤはそれはあなたも分かってることでしょ」


 「そんなのわからないよ、竜なんて私知らない。私の何がみんなと違うの?

 私はみんなのように学校に行って、友達が欲しいの。なんで私だけ当たり前のことが許されないの」

 私はお母さんに思いの丈をぶつけた。


 「あなたに辛い思いをさせてるのは分かってる。だけどこうして隠れていなきゃ私達はもっと辛い目にあうの」


 「これ以上の辛いことなんてないよ。お母さんに私の辛さなんて分かりっこないんだ」

 私はお母さんに背を向けて部屋から飛び出してしまった。


 「エルヤ待ちなさい」

 お母さんの制止する声も聞き入れず私は外に出ると、お母さんの追跡を撒くために路地へ入って行った。


 路地を抜けた先で私はうずくまり泣いていると、どこかで聞いた声が私に声をかけた。

 

 「あれあなたどうしたの?どこか悪いの?」

 うずくまったまま、顔を上げるとそこにいたのは、今日会ったメガネを掛けた学生の女の子だった。

 私は誰でもいいからそばにいてほしくて彼女の脚にしがみついた。涙を止めようとしたが、抑えれば抑えるほど涙は溢れて出てきて自分でもどうすることも出来なかった。


 「困ったな、お母さん呼ぼうかしら」

 メガネの女の子は眉毛を八の字にして困った様子で母親に助けを求めようしたが、私が「駄目、お願いだからこのままでいさせて」と頼み込むと彼女は黙って腰を下ろして、優しく背中をさすってくれた。


 「少しは落ち着いた?」

 彼女に背中をさすられ、ようやく私は落ち着き取り戻して喋れるまでには回復した。


 「うん」


 「あなたお名前は?」


 「エルヤ」


 「エルヤちゃん、ようやく知れたあなた名前」

 女の子はなぜだか嬉しそう私に話した。


 「私のこと知っててくれたの?」


 「だってエルヤちゃんルーブル村は長いでしょ?何度も見かけたことあるわよ」

 彼女にとっては何気なく言った一言だったが、私にとってはその言葉が凄く嬉しく感じた。


 「そっか私お母さん以外にも知っててくれた人がいたんだ」


 「私はマユリよろしくね」

 マユリさんは私にウィンクをして言った。そして思い出したように「そうだ、私お母さんに水汲みお願いされてたんだ」と急いで玄関前にあるバケツを3つの内2つを手に取った。

 路地を抜けた先、そこがマユリさんの家の丁度目の前だったことに今ようやく気が付いた。


「私手伝うよ」

 マユリさんからバケツを2つ受け取り、マユリさんが1つ持つことでこれで一往復で水を汲むこと出来る。


 「ありがとう。エルヤちゃんって優しいんだね」


 「今日のお礼、マユリさんは私に親切にしてくれたから」


 「マユリでいいよ」

 そう言ってもいきなり呼び捨てはなんか照れるので私は彼女にこう返した。


 「んーじゃあ私もちゃん付けでマユリちゃんって呼ぶ」


 「ふふふ」

 笑われて妙に恥ずかしくなり、そのまま井戸に到着するまで黙ったまま歩き続けた。


 井戸から水を汲み上げ終わり、その帰り道、マユリちゃんが私に聞いた。

 「エルヤちゃんはなんで学校にいかないの?」


 「お母さんが行かせてくれないんだ」


 「そっかエルヤちゃんは行きたいの?」


 「行きたいけど、お母さんが悲しむ顔は見たくないから仕方ないよ」


 「そっか、ならエルヤちゃん明日一緒に遊ばない?午後の3時にその頃には学校も終わるから」


 「んーどうだろ。お母さんに怒られるかも」

 マユリちゃんの家につき玄関前に水の入ったバケツを置いた。


 「大丈夫私一人だけだから、私の家の前に待ち合わせだよ」


 答えに迷っていると遠くから「エルヤどこにいるの」とお母さんの声が聞こえてきた。


 「お母さんが呼んでる。私行かなきゃ」

 私はマユリちゃんに返事を出さないままお母さんの声のなる方へ走り去った。


 するとマユリちゃんが「私待ってるからね」と私の去り際の背中に叫んだ。


 私はお母さんの元へ駆け寄って行くとお母さんはホッとして胸を撫で下ろした。

 「エルヤどこ行ってたのまったく心配したんだから」


 「井戸で水飲んでたの」

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