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第5話 新しい家

 朝になり、鳥のさえずりで私は目を覚ました。エルヤは朝日に照らされ気持ち良さそうに吐息をもらし眠っている。

 リップは私が起きるのを待ってたかのように姿勢を正し私の隣でじっと座っていた。


 「リップおはよう」


 「おはようアサ」


 「こうしておはようって言えるのもこれで最後だね」

 私はこの別れが悲しいものにならないよう懸命に作り笑いをしたが、長年一緒にいたリップならそんな私の気持ちも透けてみえてしまってることだろう。

 

 「そうだね、でもこれが今生の別れじゃないよ。僕はいつでもここで君達を見守っている」


 「そうね、リップはここで生活するの?」


 「ここは人が寄り付きそうだからもう少し上に住処を作ろうと思う」


 「そっか、それじゃ元気でね」

 

 「アサも」

 リップを抱きしめ最後の別れの挨拶を済ませるとリップは飛び立ち私達の前から姿を消した。

 私がエルヤの元に戻るとエルヤはリップの飛び立つ音に驚いたのか、眠そうな目を擦りながら起き上がった。


 「おはようママ、あれリップは?」

 エリヤは周りを見渡すもリップの姿はどこにもいない。


 「おはようエルヤ、リップはもう行っちゃったわ」


 するとエリヤは悲しげな顔で私に聞いた。

 「リップにはもう会えないの?」


 「リップは今生の別れじゃないって言ってたから、きっとまた会えるわよ」


 「今生の別れ?」

 エリヤにはその言葉の意味が分からずに頭をかしげた。


 「エルヤには少し難しかったわね。とにかくきっと会える日が来るわ」 


 「そっか」

 また会えることが分かるとエルヤはニコッと笑顔を作って私に微笑んだ。


 「それじゃルーブルの村に行きましょ」


 「うん」

 エリヤと手を繋ぎながら、私達は山を降りて道なりに進んでいくと20分程でルーブル村に着くことできた。

 エルヤはまるで旅行に来てるかのようにはしゃいでいたが、私はずっと浮かない顔をしていた。

 村に着いて、知ってる人がいないか見て回っているとルーブルで宿屋を営んでいるバーバラさんが外で売り込みをしており、ばったり出くわした。


 「あらどこかで見た顔だと思ったらアサじゃないか?」


 「バーバラさんお久しぶりです」

 前に村を訪れた時に寝泊まりをさせてもらったバーバラさん、年齢は40代前半程で長い赤い髪は、波打つようにゴワゴワしてて、こんなこと言ったら失礼だけど体型はちょっと太めかな。

 この前来た時は旦那さんを募集してたけど、今はどうなんだか?とにかく元気で明るくて良い人には間違いない。


 「まだ旅は続けてるのかい?」


 「いえ、今回は少し事情がありまして」


 「そうかい、立ち話もなんだし宿に上がってちょうだい」

 バーバラさんはそう言うと宿屋の中へ先に入って行った。


 「エリヤ行きましょう」


 「うん」

 私達もバーバラさんついていき宿屋の中へ入っていく。

 中に入るとバーバラさんは私達を一階の食事スペースのテーブルへと案内した。


 「所でその子供は誰なんだい?」

 バーバラさんがずっと気になっていたのは、私が連れていたエルヤだった。バーバラさんがエルヤに会うのはこれが初めてだから知らないのも無理はない。


 「私の娘のエルヤです」


 「なんだいアンタ結婚したのかい?」

 エルヤが私の子供だと知るとバーバラさんは突然大きな声で叫ぶもんだから、周りのお客さんまでがこちらを振り向き、少し恥ずかしかった。


 「まぁまぁバーバラさんったらそんなに驚かなくても」

 私はバーバラさんをなだめようとしたが、バーバラさん本人はそんなことつゆ知らず、ますますヒートアップしていった。


 「なんだい。あたしはまだ独り身だっていうのに」

 年上の自分より先を越されたことがよっぽど悔しかったみたい。これには私も「あらあら」と苦笑いするしかなかった。


 「エルヤ、バーバラさんに挨拶して」

 エルヤは相変わらず人見知りで、私に言われて初めてバーバラさんに喋りかけた。


 「はじめまして……エルヤです」

 少しぎこちない挨拶だったが、バーバラさんはエルヤを褒めるように頭を撫で言った。


 「礼儀正しくて可愛い子だね」

 エルヤは初めての人に撫でられてガチガチに緊張して固まってしまった。


 「それでさっき言ってた事情っていうのは?」

 バーバラさんがエルヤの頭を撫でながら視線だけ私に向けて聞いた。

 私は昨日起きた出来事を包み隠さずバーバラさんに打ち明けた。

 バーバラさんは口を手で抑え、言葉を失ったようにショックを受けた。

 しかし1番辛いのは私だと分かっていたから、私の前では涙だけはぐっと堪えた。


 「住む場所がいるなら、ここの一部屋を好きに使っていいよ。勿論金なんて取らないさ」


 「良いんですか?」


 「あんたらは見返りなしに私達の村に立派な井戸を作ってくれたじゃないか?あれには本当に感謝してるんだよ。だからこれはほんのお返しさ。

 それに客を入れた所でこの宿は満室になんかならないんだから、売上には響かないよ」


 「ありがとうございます」

 私は頭を深々と下げるとエリヤが私の真似をして遅れて頭を下げた。


 バーバラさんに二階の一番端の部屋に案内され、部屋の鍵を渡された。


 「まずはここでゆっくり休みな、急ぐことないよ」

 バーバラさんは優しい言葉をかけると宿屋を出て外でまた売り込みを始めた。


 私はベッドに腰を下ろし深い溜め息をついた。するとエルヤが私に言った。


 「ママここが新しいお家になるの?」


 「そうよエルヤ」


 「パパとハルも一緒に住むんでしょ」

 その言葉に私は今まで我慢してたものが勢いよく溢れだすのを感じ、娘に涙を見せないようにとっさにエルヤを抱きしめて言った。


 「エルヤごめんね、パパとハルは一緒にこれないの」


 「ママ泣いてるの?」

 

 「ううんそんなことないわ」 

 声の震えからエルヤは私が泣いてる事には気付いた。でもなんで泣いているのかまでは理解出来なかった。それでもこの話をすれば私が悲しむことが分かり、それ以来パパとハルことは私の前では口にしなくなった。

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