第2話 すごいドヤ顔だ...
気付くと俺は鎮圧されていた...
屈強とは言えない小柄な体躯のフルプレートの兵士が馬乗りになる形で取り押さえてきた。
その体格とは全く比例しない腕力が出ている
拘束を解こうにもまるで重機で抑えられているかのような感覚で動こうにも動けない
あのバ神様があまりにもウザかったから我を忘れていた。
自分でも反省している...
「ふむ、落ち着いたか?」
目の前には兜を脱いだ女性兵士が立っていた
鎧の装飾の豪華さから俺を取り押さえている兵士より格が高いことがうかがえる
「では、異邦人の貴様に聞く」
「耳は聞こえるか?目は見えるか?体は動くか?」
「そして言葉が理解できるか?」
怒涛の質問攻めだった
「ああ、全部問題ない」
「こちらも急なことで慌ててしまった」
「この拘束を解いていただくことは出来ないだろうか?」
女性兵士は1,2秒考え込むと口をひらいた
「解いてやれ、そいつにはもう必要ないだろう」
「「は!」」
女性兵士の号令とともに即座に拘束を解除した
フルプレートの兵士の声を改めて聴くとこの二人も女性の声だった。
「異邦人、貴様にはこれからいくつかの尋問をする」
「そののち、この世界のルールに関する講習を受けてもらう」
「これは義務だ、受けれないのであれは極刑となる」
「聞けるのであればある程度の制限はあるが自由の身を約束しよう」
手慣れている。
これだけでも今までに多くの転生・転移者が居たことがうかがえる。
「ああ、理解した。尋問もなんでもしてくれ」
「その代わりこちらへ危害を加えるのはやめてくれ」
「話が早くて助かる」
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別室に移動したのちに尋問が行われた。
・元の世界の文明について
・犯罪経歴の有無について
・手荷物の検査
・血液採取
といった内容だった
本当に簡素な質問しかなく、ものの五分ほどで終わってしまった
尋問というよりは審査を受けたような気分だ
次に講習が行われた。
・犯罪についての軽い法律
・国が異邦人に対して行っている制度
といった内容だった。
こちらに関しては色々質問をしたが、
細かい話はまた後日別の人間が行うの一点張りだった。
犯罪に関しては、窃盗や殺人など犯罪をしてはいけないというぐらいの説明
制度に関しても、異邦人(転生・転移者)を保護・観察する制度があるとのことだ
なんというか、自動車の教習所を思い出した。
学校ほど手厚くはない、流れ作業の講習だった。
最後にネックレスを渡された。
鎖に水晶がついた簡素なものだった。
だがこの水晶は尋問時に採取した血液で作られており、この世界では身分証となるものらしい
転生・転移したばかりの異邦人のネックレスは淡い水色の常に光を放っている
半年後には光は消え、扱いは一般人と変わらなくなるらしい
この光は各種公共サービスや生活に必需品の値下げをしてくれる
こちらも免許で言うとこの若葉マークみたいなものだ
あとは案内されるまま建物の出口へと誘導された
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建物をでると美しい街並みが並んでいた。
色鮮やかな建物が並び、街行く人の服装も見た目の鮮やかさはなく、ファンタジーを彷彿とさせるドレスやシャツばかりだ。
改めて異世界に来たのだという実感が沸く
「物珍しそうにあたりを見てるね異邦人君!」
突然背後から話しかけられた。
振り返ってみてみるとそこには、体格は小柄で眼鏡をかけた暗い茶髪のロングヘアーな女性がいた。
髪には若干のカールが掛かっている、服装は露出の少ないドレスアーマーを着ていた。
「初めまして、私は中央騎士団から派遣されたミレイナだ」
「3カ月ほど君にこの世界について教える教師だと思ってくれたまえ」
すごいドヤ顔だ...
「君の名前を教えてくれないかな?」
名前...
「タダノと言います」
本名ではない、先ほどの兵士との事情聴取でも同じように名乗った。
前世の俺はもう死んだ。だから名前も変えようと思ったのだ。
理由は特になく、思いついた名を言っただけだ。
「タダノ君か、よろしくたのむよ」
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ミレイナさんの案内で喫茶店に移動した
異邦者にはミレイナさんのような人とバディを組み、3カ月間付ききりで世界の常識について教えてくれるらしい。
まるで新入社員と教育係みたいだぁ...
「ミレイナさん、質問がいくつもあるんだいいか?」
「ああ、もちろんだとも。」
「まず一つ目、この世界は異邦人に対してずいぶんと丁重でやさしくないですか?」
ずっと気になっていた。
転移・転生者ははっきり言って世界からすると異物でしかない。
なのに社員教育のように手厚く補助されている。
世界に早く、効率的になじませようという気概を感じる。
「うん、そうだよ」
「何よりこの世界は人手不足なのさ」
「人類生存圏は未開拓地帯に囲まれ四面楚歌」
「そのうえ間引きをしないと都市の地下部に広がる遺跡からもモンスターが沸いてくる」
「だから死者も多く出る」
「異邦人を排除するよりも効率的に世界の労働力にしないと人類が亡ぶのさ」
理由が思ったより過酷だった。
「しかも大抵の異邦人は神から祝福を受けている」
「それだけでも即戦力足りえるのさ」
神曰く、俺の祝福は役に立たないそうだが...
「それじゃ二つ目、異邦人って出現する場所予測されてる?」
「それはもちろん」
まぁ、ご立派建物から出てきたらあたりまえか
「ちなみに、現在異邦人が出現する場所は5カ所ある」
「一つはここ中央、ほかには中央から東西南北に計4カ所だ」
シンプルな配置なんだな
「そうそう、君はラッキーだよ、一番異邦人が暮らしやすい中央に来たのだから」
「ここ以外の四方は開拓地帯の前線に面してる」
「前線はヤバいモンスターがうじゃうじゃしてるからね」
「異邦人も能力次第では即前線行になったりするのさ...」
それは運がよかったんだな
まぁ、祝福不明な俺なら前線送られることなかったとは思うけど
「中央は能力が良くても遺跡の発掘やモンスターの間引きがメインだね」
「それに内務の仕事も四方より充実してる」
「まぁそういうわけで中央は暮らしやすいのさ」
仕事選べる幅が広いのはでかい
開拓者や発掘家の才能なくても飯には困らなそうだ
「三つ目、正直女性が多い気がしてるんが男手足りてない?」
騎士団にしろこの人にしろこの世界来てから男をほとんど見てないんだよなぁ
「うん、足りてないね」
「開拓者や発掘家はロマンだそうだよ」
「おかげで男手死にまくりで、人類の男女比は3:7さ」
思ったより深刻だな
「なんなら一夫多妻制を推奨しているよ」
「君も興味があったらどうだい?」
「いや、俺には甲斐がないからそういうのは無理です」
「謙虚だね、まぁ下手に自信家よりはいいと思うけど」
「しかし、そういう人は外堀埋められて抜け出せなくなったりしてるよ」
「本当に気を付けてね...」
最後の一言だけ割とガチ目なトーンだった...
まぁ、男女比は3:7の世界なら女の方が強くなるんだろうな
「最後に四つ目、戦い方とか魔法とか知りたいんだけど、学校とかある?」
割と死活問題
統治されてるとはいえ、治安がいいとは限らない
モンスターがいる世界ならなおさら自衛の手段はあることに越したことはない
「ある、でも何かを極めたいとかじゃない限り行く必要はないかな?」
「一通りの基礎はバディである私が教えられるからね」
「魔法とか格闘術とか知りたいけど、ミレイナさんわかるんですか?」
「魔法も剣もある程度できるさ」
「あと私は”教導ギルド”に所属してるから教えることに自信はあるよ」
教導ギルド?
まぁ、さっき最後って言ったしまた後日聞くか...
「質問も終わったし、飲み物も空だ」
「君には今日中に街の案内と宿屋の案内をしないといけない」
「もう行こうか」
ちなみに、ミレイナさんは終始ドヤ顔だった