第一話
穏やかな午後の三時、庭での優雅なティータイムのひと時に令嬢ロッテは恐ろしい険悪でお茶をすすっていた。
「お、お嬢様どうされました?お茶の味がお口に合わなかったでしょうか?」
執事がびくびくしながら彼女に話しかける。それも無理はない、彼女がこのように機嫌が悪くなるときは決まって八つ当たりのオンパレードになる。
そうロッテは権力を盾にわがままをふるう俗に言う悪役令嬢であった。
しかし、その日のロッテは様子が違った。
「あ、い、いや、お茶はおいしいで…おいしいわ」
そう歯切れ悪く言うと再びお茶をすすった。こわばった顔はそのままで
その日、エッセル家の雇人の間でロッテ様が壊れたという噂が光の速度で出回ったのはまた別の話である。
『全部思い出してしまった…』
そう、私ロッテ・エッセルは全てを思い出していた、前世の自分のことを。
前世の私は自他共に認める乙女ゲームプレイヤーだった。発売する乙女ゲームがあればどんなに酷評があろうとも当方南北走り回り、店で事前予約をし特典付きで購入したし、素晴らしい乙女ゲームがあればブログで攻略対象ごとに事細かに感想文を打った。
そんな私が死んだあの日はひどく寒い日だった。お目当てのゲームの事前予約をすまして繁華街にあるゲーム販売店特有のえらく細長い階段を下りていたら足を滑らせて…あとはお察しである。胸元にあったゲームだけはとっさに抱えた覚えだけがある。
だからこそ、そんな乙女ゲームと共に生き、共に死んだ私だからこそ分かる。
――――これは、乙女ゲームの世界だ。
私が死ぬ一年前に販売された「ラブ・ブレイド~剣と魔法の学園生活~」通称ラブブレは中世ヨーロッパを元にした乙女ゲームで魔法の素質があると見込まれた隣国の姫である主人公が姫であることを隠しながら魔法学園へと入学して攻略対象たちと交友を深めながら自分を将来守ってくれる騎士様を見つけ出す。
というストーリーである。
私はこのゲームの攻略対象たちが大好きだった。頼りになるメイン攻略対象のジョナや最初はおどおどしているのにヒロインの登場によってたくましくなっていくサン、他にも魅力的なキャラクターがいっぱいで三回はスチルコンプリートした。スチルコンプリートは作品への愛そのものである。
だから今世の記憶から瞬時に理解した。間違いなくここはラブブレの世界である。執事たちがロースト家の長男のサンが剣の腕を見込まれて学園から推薦状が届いたなんて話もしてたし、他の攻略対象のうわさも話していた。決定打は隣国のお姫様の名前がヒロインのデフォルト名のリアもとい、リアリーゼ・セレナードハイムであることだ。そう!私はヒロインではないのである!!
『お約束みたいに転生者が悪役令嬢ってどうなのよぉぉぉぉぉ!』
これが私がすごい剣幕になっていた理由である。そう、私は悪役令嬢ロッテ・エッセルになってしまっていたのである。悪役令嬢が出るというのもラブブレの大きな特徴と言えるだろう、しかも他のゲームなら大抵ある百合かこれ?と言わんばかりの悪役令嬢ルートがない完全に悪役令嬢が悪役令嬢のまま終わるアンチ悪役令嬢ゲームともいえる。
ロッテがどんな悪役令嬢かというと、リアと同じく強大な魔力を秘めているが幼いころからわがままに育てられた為に自分の欲に素直という性格である。学園入学時から美男の攻略対象たちに目をつけられるリアに嫉妬してリアに嫌がらせを仕掛けていき最終的にはその黒の心を黒魔法に魅入られ、ラスボス的な存在となりルートに入っている攻略対象に心臓を一突きされ殺される。その後攻略対象エンドへと行くので、お姫様の騎士の証として討伐されるようなものである。最悪だ。
さらに最悪なことがある。この記憶を思い出した今、ロッテは14歳なので入学までまだあと2年ある。あとは、つつましやかに生活し、リアに嫉妬など抱かなければ私は穏やかにこのロッテ・エッセルの人生を送ってしまえばいい。これだけ聞けば朗報でもある、しかし私には無理なのだ…私は
―――――ラブブレの主人公アンチだったのだ!!!!!!!!
そもそも、強大な魔力を秘めているとかなんとか抜かしときながら最終的には攻略対象に守られているヒロインの根性が嫌いだった。ロッテの最期に関してもそうだ、死んだ後のロッテに寄っていき涙を流す。泣くんだったらそのロッテと同じくらい魔力で少しでもがんばれたのでは!?最終戦でリアがしていたのは泣いて攻略対象を呼ぶことだけだった。お荷物そのものである。まだまだ言いたいことはあるがとにかく私はリアが大嫌いだった。顔なしでプレイしてアンチスレにめちゃくちゃ書き込む程度には嫌いだったし、その甘ったれた根性に向かってパンチの一つでもしてやりたかった。
そんな私が今世でリアに会えば原作のロッテほどではないにしろやらかすに決まっている。そもそも前世で大好きだった攻略対象たちが大嫌いなリアに群がっている姿を見るのも最悪だ。
「ど、どうしたら…」
「お、お嬢様?ご機嫌がよくないのですか?」
「いや、そんなことは」
私が長い回想に浸っている間に握っていたティーカップの中身は空になっていた。やたら顔の良い執事がこちらをうかがってくる。
「ご気分がすぐれないようでしたら今日のお茶会の出席は延期なされますか?」
「お茶会、あぁそうかお茶会がありましたわね。大丈夫、出席させていただきますわ。」
そう言いながらスタンドにあったマカロンを手に取る。しばらくはロッテとして過ごしながら打開策を考えるのがいいだろう。そう思っていた。
「はじめまして、私、リアリーゼ・セレナードハイムと申します。」
「あ…………、へへ、あ??????????」
出席したお茶会で“彼女”に会うまでは




