森を歩いてみた日。
アルに連れられて外に出た私は、その時初めて自分は森の中にいたことに気付いた。
「アルはずっとこの森で暮らしているの?」
「まあね。でも森から出ないわけじゃないし、籠もっていても誰かは家に来るよ」
「お友達?」
「うん。また今度誰か来たら紹介するよ」
「……分かった」
それから私とアルは、ゆっくりと森の中を歩いた。
この森はかなり広いようで、どれだけ歩いても出られないのではないかというほどだった。
いつの間にかアルははぐれないようにするためか、私の手を握りしめてくれていた。
「……?」
一瞬視界を何かが横切ったような気がして、思わず立ち止まった。それに気づいたアルは私に近づいてきた。
「どうしたの? 何かあった?」
「今、何かが飛んで行ったような気がして……」
「何か……? って、シェリル危ない!」
「きゃあ!?」
ドォン!!
何かが盛大に地面に衝突する音が聞こえた。
私はというと、突然アルに腕を引っ張られ、バランスを崩してアルの胸に飛び込んでしまった。私をしっかりと抱きとめた彼は、そのまま私の頭をそっと撫でていた。
「ごめんね、急に腕引っ張って。痛くなかった?」
「ううん、大丈夫だよ」
すこしびっくりしたけれど、アルに抱きしめられたことの方がより驚いてしまって、そのせいで私の心臓があり得ないぐらいに飛び跳ねていた。
「……あのー、無視しないでー」
そんな声が聞こえてきたのは、5分くらいたってからだった。
声が聞こえてきた方を2人同時に見ると、そこには黒いマントに身を包んだ少女が座り込んでいた。
(え? 女の子?)
さっき起こったことからしてこの女の子が普通じゃないことは明らかだったけれど、どこか儚げなその女の子がなぜかとても気になってしまい、私は無意識に彼女に歩み寄っていた。
「……! シェリル!」
「え……?」
私はあと少しで女の子に触れられる、というところで後ろからアルに抱きつかれて身動きが取れなくなってしまった。
「アル? どうしたの?」
「いいから、ちょっと深呼吸して。落ち着いて」
「? どういうこと?」
「まずは落ち着いて。僕の目を見て」
言われたとおりにアルの目をしばらく見つめていた。すると、私の中の何かがすうっと消えていくような感じがした。なんというか、私の中の熱のようなものが抜けて、少し楽になったような気がした。
もう一度抱きしめられた私は、アルの顔が見えていなかった。だからアルが、
「……お前、何しに来た?」
とものすごく低い声で呟いたときの表情も見えなかった。ちょっと見たかった……。
アルの腕の中で身じろぎをして女の子の方を向くと、その女の子はさっきと若干変わったような気がした。
「お前、僕のに『魅了』かけるってどういうことだよ?」
「どうもこうも、ちょっと気になっただけ……って、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃ!!」
「……?」
アルの表情はまた見えていなかったけれど、怖い顔でもしていたのか、女の子は半泣きになって謝っていた。
「アル、あんまりいじめちゃダメだよ」
「はぁぁぁ……あのねシェリル、こいつは「アリアよ!」……」
アルが言い終わる前に元気な声で名前を言ったその女の子は、混じりけの無い白髪、陶器のように真っ白な肌、そして、透き通るような碧玉の瞳と、蜂蜜のような琥珀の瞳をしていた。
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