村のことを知った日。
「……そういえば、アルは村のことを知っていたりする?」
何気なくそう言ったのだけれど、アルはピシリと固まってしまった。
「……? アル、どうしたの?」
「……シェリルは、どこまで知ってる?」
「……みんな、もういない。火事が起きたから、村ももう、なくなっちゃった」
「そっか……」
アルはそこで黙り込んでしまった。なんとなくアルの顔を覗き込んでみると、アルはすごく苦しそうな表情をしていた。
「……アル?」
「……シェリルは、誰があんな風にしたのか、知りたい?」
「……アルは知っているの?」
「うん……でも、あまりおすすめはしないよ」
みんなが誰に、殺されたのか。
アルが知っているのはきっとこのことだ。たしかに聞かない方がいいのかもしれない。けれど……
(何となく、聞かなければいけない気がする)
このまま、それを知らないまま生きていくのは、きっと辛くなる。
「……教えて」
「……いいの?」
「うん」
「分かった……」
アルは、あのときのことをすべて話してくれた。
私が朝早くに山菜を採りに山に行った後、そいつらは来たらしい。
こんな山奥の小さな村でも噂が伝わってくるほどの、凶悪な盗賊が来た。アルはそう言った。さらにその中に、未だに捕まっていない殺人鬼がいたらしい。
「僕も全部を見ていたわけじゃないけど、きっとみんなそいつに……」
アルは、私の何倍も辛そうに言葉を紡いでいた。もうこれ以上話をさせるのも辛くて、私は思わずアルを抱き締めて、その頭をゆっくりと撫でた。
初めはびっくりしたのか身を固くしていたアルだったけれど、だんだん力が抜けてきて、私の肩口に額を乗せた。アルも私を抱き締めていた。
「ありがとう、話してくれて」
「……話してよかったの? 辛くない?」
「辛くないといったら嘘だけど、でも、仕方がないから。もうどうしようもないし、それに、今はアルが一緒にいてくれるでしょう?」
「それは、もちろん」
「だから、辛くても大丈夫なんだよ」
「シェリル……」
「ってちょっとアル? もう……」
気が付くとアルは、私を抱き締めながら、声を押し殺して泣いていた。肩はすっかりぐしょぐしょになってしまったけれど、別に気にはならなかった。
私はさっきまでよりも強く、アルを抱き締めた。アルも私を抱き締める腕に力を込めていた。もうお互いに何も話せなかった。だけど離れるのは嫌だったから、ずっと抱き締めあっていた。
アルが泣き止んだ後、やっと少しだけ顔を見ることができた。アルの顔は涙ですっかりぐちゃぐちゃになってしまっていたけれど、とてもきれいだと思った。そして、なぜか少し可愛いとさえ思ってしまった。
「……ふふ」
「……シェリル?」
「ごめんね。アルがちょっと可愛かったから」
「……可愛いって言われても、男は嬉しくないんだよ?」
「流石に分かってるよ。でも本当に可愛かったんだもん」
「……シェリル、ちょっとこっち向いて」
「ん? 何……!?」
少し拗ねたアルが余計に可愛くて胸に顔を埋めていると、頭上から声が降ってきた。何も考えずに顔を上げると……
唇が、触れた。
「~~!?」
一瞬何が起こったのか理解できなかったけれど、理解した瞬間顔がとても熱くなっていった。
「ふふ、どうしたの? シェリル。顔、真っ赤だよ?」
「だ、だって……」
「……もしかして、初めて、だった?」
「……そもそも、恋人とかできたことなかったし」
「……ごめん、すごく嬉しい」
「……? 何で?」
「君の初めてが僕なのがたくさんあるんでしょ? だから」
「そういう風に言われると、恥ずかしい……」
「……ねえ、顔、もっとよく見せて?」
「やだ……見ないで……」
お、落ち着け私。落ち着いたらこんなのもどうってことなくなるはず……と思っていたら余計に顔に熱が集中するだけだった。
「ねえ、今日はもう、2人でゆっくりしよう?」
「うん」
私達は日が暮れるまで、ずっとくっついていた。
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