表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

目を覚ました日。

「ん……うぅ……」


 眩しい陽の光に、私の意識は夢の世界から引き出されてしまった。と同時に、なぜ私は眠っていたのだろう……と思った。だがその疑問はすぐに解けることとなった。


(あれ、ここはどこ……? 私の全然知らないところだ……父さん達は……?)


 もしかしたら、あれはすべて悪夢の出来事だったのではないか、と錯覚してしまいそうになる。ベッドから起き上がり体を少し動かしていると、突然部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。

 私が返事をする前に扉は開いて、そこにいた青年と目が合った。予想通り、昨日の黒髪の青年だった。

 彼は私を見るなり目をキラキラと輝かせ、私の元に駆け寄ってきた。


(……!?)


「よかった! やっと目を覚ましたんだね!」


 いきなり手を握られた私は本当に驚いてしまって、心臓が千切れそうなぐらいにうるさくなってしまった。


「あ、ごめんね? 驚かせちゃったね……でも許して? 君は5日間も眠っていたんだよ」

「……5日?」

「ああ」


 私、5日も眠っていたの……?

 驚いているとその青年にじっと見ていることに気が付いた。


「……何、ですか?」

「あ、ごめんね、つい。こんな可愛い声をしているんだな、と思って」

「!?」


 な、何を言っているの!? この人は!? いや人かな……?


「あ、あの……ここはどこですか? それに、あなたは……」

「あ、ごめんね。すっかり説明を忘れていたよ。僕はアルベール。それで、ここは僕の家」

「は、はぁ……あ、私はシェリルです」

「シェリル……すごく可愛い名前だね」

「……え!?」


 なぜか突然頭を優しく撫でられて、また驚いてしまった。でも撫でられるのがとても気持ちよくて、恥ずかしかったけれどもっとしてほしくて、自分でも何を考えているのか分からなかった。


「可愛い……」


(あ……)


 気が付けばずっと頭を撫でられることを受け入れていて、彼……アルベールを見るとまたとても甘い笑みを浮かべていて、なぜか胸がぎゅうっと締め付けられるような感じがした。


「あの、ア、アルベール、さん、聞きたいことが、あって……」

「……アルベールって呼んで」

「でも……」

「お願い」


 うう……なんだかさっきから私おかしい……どうしてこんな変な気持ちになるんだろう……?


「……ア、ル」

「……!」

「ダメ……ですか? ちょっと長くて……」

「全然ダメじゃないよ! むしろすごく嬉しい……!」

「わわっ」


 今度は、アルに抱き付かれてしまい、勢いに負けてそのままベッドに倒れ込んでしまった。そしてアルは、私を抱き締めたまま頭を撫で始めた。


「はぁ~落ち着くなぁ……」


 なんか、心臓が爆発してしまうんじゃないかと思い始めてきた。そもそも5日前に出会って今日名前を知ったばかりなのに、なんで彼に抱き締められたりするのが嫌だと思わないんだろう……?

 そして、気が付けば私は……アルに少し抱き付いていた。自分でも何でかは分からないけど。


「シェリル?」

「……ねえ、何で私なの?」

「……シェリルは気付いてる? 僕の正体」

「……人、じゃない?」

「流石に分かるか。そう、僕は人間じゃない……悪魔、なんだ」

「……悪魔って、あの、絵本とかに出てくる……」

「うん。まあ絵本と違って僕達はちゃんと生きてるけど」

「そうなんだ……」

「……怖くないの?」

「え?」

「僕は人間じゃないんだよ?」

「……何でかな、全然怖くないの」

「よかった……」


 ……不安、だったのかな。もしかしたら、昔悪魔っていうことで何かあったのかも。


「悪魔はね、番と結婚するんだよ」

「番?」

「運命の人って言うか、自分が愛する唯一の人のこと。悪魔は一生に一人しか結婚しないんだ」

「……その番がもしかして……」

「そう、君だったんだよ。シェリル。見つけたのは君と出会った5日前なんだけど、一目見て僕の番だって分かったよ。そのまま僕の家まで連れてきてしまってごめんね」

「……いいよ。どうせ帰る場所なんか、もうないから」

「……あの村、だったんだよね」

「うん」

「辛かったね……」

「……?」


 見上げると、アルはぼろぼろと涙を流していた。……って何でアルが泣いてるの!?


「ちょっと、何で泣いてるの?」

「だって、君が、辛い思いをしたんだって思うと、すごく苦しくて……」

「……泣かないでよ、もう」


 なんだか可笑しくなって、思わず笑ってしまった。アルの涙を笑いながら拭いていると、彼はふにゃりと気が抜けたように笑った。


「初めてシェリルが笑った。やっぱり可愛いなぁ」

「……またそんなこと言って」


 私はもう、今日初めてちゃんと話したとは思えないぐらいにアルに心を開いていた。まるで昔からずっと連れ添ったみたいなぐらいに仲良くなっていて、とても驚いている。


「アル……」

「何? シェリル」

「ありがとう」

「……? どうしたの?」

「私、アルに見つけてもらえてよかった。だからありがとう」

「……シェリル、変な人に騙されたりしてない? 大丈夫?」

「何でそうなるの」

「すぐ引っかかりそうだなって思ったから」

「そしたらアルが助けてね」

「もちろん」


 会ったばかりの人……じゃなくて悪魔だけど、何だかうまくやっていけそう。そんな風に思った。






評価、ブックマークを下さった方ありがとうございます。

読んでくださりありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ