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全てが消えた日。

 私は5年振りに故郷の小さな村に帰った。山奥にある私の故郷は本当に小さくて、村人全員が互いをよく知っていた。だから私が帰ったときは、村の皆が総出で出迎えてくれた。

 私は、この故郷がずっと穏やかでいてほしいと願っていた。

 なのに……。


 帰省中、山菜を採り村に帰ると、そこは私のよく知っている場所ではなくなっていた。

 私の、私達の故郷は、目を背けたくなるような姿に変わり果てていた。

 倒壊した家々。村全体から漂う血生臭い臭い。

 吐きそうになるのを耐えながら村に入った私が目にしたのは……無数の惨殺死体だった。


「う、嘘、だ……父さん、母さん、兄さん……」


 今朝山菜を採りに家を出た私に忘れていた水筒を持ってきてくれた母さんは、小さいときから何かあるとその大きな手で頭を撫でてくれた父さんは、私にいろいろな動物や植物のことを教えてくれた兄さんは、紅に塗れて冷たくなっていた。

 皆の肩を掴んで揺さぶってみたけれど反応はなく、空虚な瞳が宙をぼんやりと見つめていた。


「おばさん……」


 隣の家に住んでいるおばさんは世話焼きで、よく遊んだりご飯をご馳走になったりした。村の中でも人気のある人で、ほとんどずっと近所の子供と一緒にいる人だった。


「あ、あ……あああああああ!!」


 誰かいないのか、と思ったけれど、もうこれ以上、見ているのが嫌だった。私はこの光景を受け入れたくなくて、ただひたすら、喉が枯れるまで叫び続けていた。

 村の誰かが火を使っていたのだろう、村の一角から火が出ていた。

 やがて村の全てが真っ赤な炎に包まれていって、沈む夕日と溶け合っていった。炎は村全体に広がり、全てを飲み込んでいった。

 夜になり雨が降ってくると、村だった場所は洗い流されていった。

 そこに残っていたのは、煙と、辛うじて形が残った家々だった。

 見晴らしのよくなった村に、ただ立ち尽くした。何も考えることができなくて、涙さえも出てこなかった。


 それからどれだけの時間が経っただろうか。私は山菜の籠を供え物代わりに置いて、おもむろに歩き始めた。当てもなく、ふらふらと。

 こんな状態では町に戻ることもできない。もう何もかもがどうでもよくなってしまった今、生きている意味すら感じられなくなっていた。


(……? 今、何かが空を飛んで行ったような……気のせいか)


 私は再び歩き出した。けれど、突然目の前に降り立ったそれに驚いた私は歩みを止めてしまった。

 人間の姿をしているのに、人間にはない漆黒の翼を持つそれは、ローブと思しきものを身に纏い、俯いたまま私の方に近付いてきた。


(ああ、私も死ぬんだ……母さん達に会えるかな)


 不思議とそんなことを考え始めていたが、不意にそれが顔を上げて私を捉えた。


(……!)


 かぶっていたフードが落ちて、それの顔が露わになった。

 翼と同じ漆黒の髪、濡れたような瞳、ぞっとするくらいに整っているそれは、明らかに人間ではなかった。

 それが一歩近付いてくるごとに、私は後ろへ一歩下がってしまう。本能的な恐怖を感じているのだろうか。人間ではない何かが目の前にいるから。

 だが、不注意だった私は、後ろに下がったときに草に足を取られて転んでしまった。


(あ……!)


 痛みに耐えようと、思わず身を縮こまらせてぎゅっと目を瞑った。しかし、訪れるはずの痛みはいつまで経ってもやって来なくて、そっと目を開けると、私は口から心臓が飛び出してしまうのではないかと思ってしまった。

 私は、それに抱き締められていた。


(……え? え!?)


 訳が分からず一人で混乱していると、私の上からクスクスという笑い声が聞こえてきた。まさかと思い顔を見ると、それは、砂糖よりも甘そうな微笑みを浮かべていた。


(こいつは、一体何なの!?)


 すると、それが静かに口を開いた。


「初めまして、僕の可愛い花嫁さん」


 ……そう透き通るような声で、全く理解できないことを言われた。






読んでくださりありがとうございました。

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