2・幸運と応募
「それで、あむ……話って、パクッ……何ですか?……もぐもぐ……」
「いいから黙って食え。俺が一方的に話すから」
「……ゴクン。はい、分かりました」
時々扱いがぞんざいですが、基本的に彩ちゃんは私に優しく接してくれます。きっと私に恋しているに違いありません!まあ、彩ちゃんはほぼ全員に優しいんですけど。
「簡潔に言うと、また玉藻の豪運を貸して欲しいんだ」
「またー?」
私は、自分で言うのも何ですが、結構な幸運の持ち主です。
通る信号機は全部青だし、席替えの時は狙った席(先生の目に付きにくく、昼寝に適した窓側一番後ろ)に必ずなるし、商店街やコンビニのくじ引きでは、私の欲しい物が必ず当たります。
そこを見込まれて、友人からは、応募やら何やらで欲しい物がある時、よく頼まれます。その見返りにお菓子だったり文房具だったりを貰えるので、私的には満足しています。ウィンウィンという奴です。
「それじゃあ、今回は何なのです?」
彩ちゃんとは、一番長い付き合いという事もあり、頼まれた回数も群を抜いています。
一番最近だと……リラッ○マの限定ぬいぐるみの雑誌応募でしたっけ?
「今回は、これを頼む」
彩ちゃんはスマホを操作すると、その画面を見せてきました。
これは……どこかのホームページでしょうか?
「えっと、なになに……『βテスト応募受付中』……?」
「ああ、それだ」
色々と書かれている中でも、一番目立つ文字を読み上げると、彩ちゃんが頷きました。
「という事は、またゲームの事ですか?」
彩ちゃん曰く、彩ちゃんは生粋のげぇまぁなんだそうです。
先程言った部活に入っていない理由も、ゲームをする時間が減るから、なのだそうです。
「これはな、『FREE・PLAY・FANTASY』、通称『FPF』のホームページでな、FPFっていうのは……」
そんな風に長々と説明し始める彩ちゃんを横目に見ながら、お弁当を食べます。
この状態になった彩ちゃんは、内容をきちんと聞いて欲しいのではなく、ただ自分が言いたいだけなので、多少放置しても問題ありません。
「はむはむ、もぐもぐ、ごくん」
「で、これのどこが他のゲームと違うのかというと、まず基本のシステムから違っていて……」
うん。さすがは私の自信作、とても美味しいです。
あ、一応話も聞いていますよ?
要するに、FPFは今までのVRゲームのシステムとは根本的に違っていて、世界がとてもリアルに感じられる様になっている、という事らしいです。
その上、AI技術が他の会社の物よりも数段進歩しているらしく、モンスターやNPCの行動が本当に生きているかの様に見えるそうです。
「……という事で、俺はどうしてもこれのβテストに参加したいんだ!だから頼む!」
「いいですよ。それじゃあ対価は何です?」
「お前が欲しがっていた、ウィードのCD買ってやる」
「本当ですか!?」
「お、おう。俺の狙い通りとは言え、すごい食いつきだな……」
ウィードとは、私が大好きな音楽グループの事です。
静かな曲調なのに、聞いていると元気が湧いてくる、不思議な魅力を持った曲を数多く発表していて、今一番勢いに乗っているバンドと言われています。
本当だったらそのCDは全部揃えたいんですけど……お小遣い的に厳しくて……。
それを買って貰えるのだったら、これだけ興奮するのも無理ありません!
「じゃあ、家に帰ったらよろしくな。ホームページから行けば直ぐに応募出来ると思うから」
「分かりました!」
これは、はやく帰って応募しないといけないですね!
すいません。まだゲーム始めません。
名称詐欺にならないようにあと1、2話で始めさせようと思うので、もう少しだけお持ち下さい。