15・初めての交流と自覚
学校始まったので更新遅れます……と昨日までは書こうと思ってましたが、緊急事態宣言地域の拡大で、今まで休校じゃなかったうちの県でも休校になりました。授業しなくていいのは嬉しいけど、授業で勉強できないのは困る。そんな微妙な気持ちですが、更新は頑張ります。
新戦法を編み出してから30分。
私は街へと戻っていました。
その理由の一つは、砲弾がもう残り3発しかないことです。
新戦法のおかげで砲弾に頼らずに狩りが出来るようにはなりましたが、それでもたまに遠くの敵に使っているうちにほとんどなくなってしまいました。
そしてもう一つは、街に来てからすぐに《爽風の草原》へと狩りに行ったので、装備もアイテムも何も整えていないことに今更気付いたからです。
普通は初期配布のお金でポーションを買ったり初期装備よりも強いのに買い替えたりするものですし、私もそうしようと思っていたのですが……ちょっとテンション上がって忘れてました……。
という訳で帰ってきた私は、北門から続く大通りを道端の露店を冷かしながら歩いていきます。
FPFでアイテムを売り買いできる場所は、大きく分けて三つ。
公式NPCと個人NPC、それとプレイヤー経営です。
公式NPCは、運営によって管理された上でNPCが経営しているお店です。ゲーム設定としては、世界の秩序を守るため女神から下された神託に従っている、という感じです。
その売値も買値も一定で、需要や何やらで高額になることはなく大きな利益は見込めませんが、値崩れを起こしていても一定の価格で買い取ってくれる上、騙されたりする可能性がほぼないので安心や安定性を求めるならここです。
個人NPCとプレイヤーは、経営しているのがNPCかプレイヤーか以外には、両方ともそれほど変わりありません。
売値や買値はその時々の需要と供給により変動し、儲けられる時もあれば大損する場合もあります。それぞれの店に個性があり、場所によっては掘り出し物を見つけられることもあるそうです。
しかし紛い物を掴まされたりぼったくられたりすることもあるらしいので、きちんと見極められる様になるまでは注意した方がいいらしいとも聞きました。
ということなので、私が目指すのは公式NPCの方です。初心者ですからね。
けれど、出店を見るのは楽しいのでそれは続けています。
たまに、綺麗なアクセサリーとか怪しげなポーションとかがあって、買いたい衝動に駆られますが、今は我慢です。
何だったら、《鑑定》とか取ってみましょうかね?
あれからレベルも2上がって、BPも16まで増えましたし……。
「ねえねえ、そこの可愛いお嬢さん。ちょっといいかい?」
「はい?」
とか何とか悩んでいると、不意に横から声が掛けられました。
文面は完全に下手なナンパでしたが、特に警戒せず足を止めてそちらに振り向きます。
そうしたのは、掛けられた声に下心や悪意などがまったく感じられなかったのと……その声が綺麗な女性のモノだったから、です。
振り向いた先にいたのは、赤い髪をポニーテールにした美人さんでした。可愛い、というよりは綺麗、かっこいいという感じの雰囲気です。
そしてその恰好は、濃緑色のツナギを腰まで履いて上部分は腰で縛り、上半身は白いタンクトップ一枚というものでした。ハンマーを腰に下げたりもしています。
うん、この人絶対【鍛冶師】です。それ以外ありえません。
この【鍛冶師】さん(推定)は、剣や鎧、ポーションなどが置かれたゴザの上に無造作に座っていて、先程かけてきた声も合わせれば、ここで出店を出しておりその客引きに私が引っ掛かった、ということなのでしょう。
「お姉さんは【鍛冶師】なんですか?」
「うん?違うけど?」
「えっ!?」
ち、違うんですか!?
じゃあその露骨なまでのThe鍛冶師!といった格好は何なんですか!?
「私は【万能職人】のアリカ。木工から裁縫、調合まで何でもできるけど、特に鍛冶が好きだからこの恰好しているんだ」
私の顔から思っていることを察したのか、偽【鍛冶師】さん……もとい、アリカさんが説明してきます。もしかしたら、今までもこんなことがあったのかもしれないです。
……ん?【万能職人】?アリカ?
それって……。
「あの、もしかして、“創造神”のアリカさん……?」
「ああ、そう呼ばれることもあるね。ちょっと恥ずかしいけど」
う、うわぁ!プレイヤーとの初めての交流で、いきなりFPF最高の生産職の人に会ってしまいましたよ!
“創造神”とは、FPFのβテストでは満場一致で最高生産職と推されるプレイヤー、つまりはアリカさんに付けられた二つ名です。
様々な分野で多くの高品質、高レアのアイテムを生産し、たくさんの新しい【レシピ】も作り出し、βテストの生産界隈を引っ張ってきた、凄い人です。
ちなみに、FPFの二つ名のほとんどは“悪逆非道”や“溺死姫”などの酷いネーミングセンスのものばかりで、“創造神”のような善方向でカッコいい奴はそうありません。
「でも、そんなアリカさんが何でこんな所で出店を?」
それだけの名声、いわば「ブランド」があるのであれば、わざわざ店を出して客を集めなくても、βテスターを中心に顧客が集まってくる気がするのですが……。
正式サービスが始まったことでスキルレベルが下がっていても、センスやプレイヤースキルはそれと同じくらい重要ですし。
アイテムには、『レア度』『品質』『耐久値』『重量』『効果』『スキル』『装備条件』の項目があり、それぞれが評価対象にされます。
これらのほとんどは素材とスキルレベルが重要ですが、プレイヤースキルが重要なのが『品質』です。
『レア度』は、アイテム自体がどれだけ希少か、あるいはどれだけ高性能なのかを示しますが、『品質』は同じアイテムの中でそれがどの程度の性能なのかを示します。『品質』が高くなれば、『耐久値』も『効果』も上がりますし、付与した『スキル』の効果も上昇します。
アイテムの『品質』は、それを生産するのに使う素材の『品質』で上限が決定されますが、スキルで出来るオート作成ではそれに到達できません。
オート作成は言わば“普通”のアイテムを作成するものであり、悪い物は作りませんが、特別良い物も作れません。
そこでプレイヤー自身のマニュアル作成で品質を高める訳ですが、ここで下手なことをしてしまうと、逆に品質は下がってしまいます。
なので、良いアイテムを作ろうとしたらプレイヤースキルが物を言う訳です。
特に今はサービス開始直後。
使える素材のレア度も品質も種類が少ないので、同じ素材を使ってもより良い品質のアイテムを作りだせるアリカさんのような人は重宝されるはずです。
――と、ここまでプレイヤースキルの重要性を語った訳ですが、当然スキルやそのレベルも重要です。
スキルレベルが低すぎると、高いレア度の素材を使ってアイテムを作ろうとしてもシステム的に失敗してしまいますし、スキルを付与する時に使用するスキルも、高いスキルレベルで習得できる発展スキルを使った方が成功率も効果も上がります。
なので、本当に良い生産職というのは、スキルレベルもプレイヤースキルも高い人の事なのです。
アリカさんは、高いプレイヤースキルに加えてスキルレベルが高く、その上【万能職人】の特殊スキルがあったために、最高の生産職と呼ばれていたのです。
「そんな大層な理由はないよ?βでの馴染みから頼まれた分は作り終わったし、新素材も、今現在で使って作れるものは全部作ったし……暇になったから、新しく顧客にしたい人でもいないかな、と思って、張り込みついでに出店を出してただけ」
「顧客に、したい……?……って、あっ!」
一瞬、その言葉のニュアンスを疑問に思いましたが、そのすぐ後に、アリカさんにまつわるとある話を思い出し納得しました。
アリカさんは、顧客にしても良いと思った人か、興味を引く素材を持ってきた人からでないと、依頼を受けないらしいのです。
それこそ、ファンタジー世界の頑固職人みたいですねー。これも、アリカさんだからこそできることですよね。
……ん?ということは……。
「私は、それに合格したということですか?」
「そうだよ。だから声を掛けたんだ」
「……どうしてですか?」
私、そんな特別と言えるのは何もないんですけど……。
「あはは、それ本気で言ってる?」
そう言ってアリカさんが見せてきたのは……公式の掲示板、ですか?
…………え、これ、もしかして私の事が書いてあります!?
「シークレットの種族と職業を当てて、【アイアン】シリーズを爆散させて、しまいには大砲で撲殺?こんな面白い子、会ってみたい、繋がりを持ちたい、と思うのは普通じゃない?」
「うう……」
私のことを見て、それについて話している人がいるというのは……な、何か、無性に恥ずかしいです!
けど、そのおかげでアリカさんと出会えたと思えばアリ……?
いえ、やっぱりナシです!
というか、何ですか蛮族って!大砲で殴って殺すの、すっごい効率的じゃないですか!
「という訳で、私とフレンド登録しない?」
「わ、分かりました」
ま、まあ、“創造神”アリカとフレンドになれたから良いことですよね!そういうことにしておきましょう!




