決着
ムロへの総攻撃の手が止まった。エルフ王が、ムロの存在を確認できなくなったと龍王に言ったからだ。無駄弾を撃って、兵士を疲弊させても仕方ない。戦場が落ち着くまで、様子見することになった。
蒸気が消えた戦場に、巨大なムロの姿が無くなった。そこには、黒いうろこ状の貝殻のような炭が、大量に散乱しているだけだった。
ビー達斥候隊が、戦場の探査に走る。ほとんどの者が、戦いが終わったんだと安堵した。しかし、ヒロをはじめ3体の召喚獣は、全く気を緩めていなかった。何故なら、【コングラッチレーション】の光文字が目の前に浮かんでいなかったからだ。それを聞かされるゼオとアギト。その通信を受けて、指示する龍王。戦場は、今一度緊張することになる。
ゼオがラヴィの話を聞いて気を引き締めた。
「なんだって、しかし、ムロは、どこにも見当たらないぞ」
「でも、戦いが終わったんなら、そういう、エフェクトが出るの。ムロが、まだ生きているってこと」
「気を緩めるなということだな。サイモンに連絡する。ラヴィは、ノーマ達を呼んでヒロと合流してくれ。3体の召喚獣が居れば、ムロを見つけることが出来るだろ」
「分かった」
こうして、ヒロ達も、ビーの斥候隊に合流することになった。ビーが、ヒロを歓迎する。
「来たか。アリーシャが、一番サーチ範囲が広いんだったな。何か感じるか」
「ムロの敵意も、脅威も感じない」
そこに、エルフ王のアドバイスが、ビーを通して入って来た。
「それは、エルフ王も一緒なんだそうだ。視点を変えてくれ。ここに、生命反応はあるか」
「私たち以外で? ・・・・・あるわ」
アリーシャが、目を見開いた。ここは、焼け野原で、たぶん、ムロの残骸であろう、黒いうろこ状の貝殻のような炭が、大量に散乱しているだけにしか見えなかった。
アリーシャが、その、黒いうろこ状の貝殻のような炭が、大量に山積みされている中心を指さした。
ビーは、斥候隊のリーダーに留まらない。世界樹の聖戦士で各種族の連絡役を担っているだけでなく、将軍クラスの知恵も持っている。
「ヒロ、アリーシャに言って、この炭の山を真上から、四方に吹き飛ばしてくれ。そこに答えがあるだろ」
「中央に行こう。極大の風になるから、粉塵じゃあ済まない。土煙〈ドエン〉に巻き込まれないように、みんなを中央に集めてくれ。ノーマに守らせる」
ビーが、副リーダーのハチに連絡。全員、ヒロ達の所に集まった。斥候隊は、全員、ノーマの作ったワーウルフの皮で出来た緑迷彩のチョッキを着ている。ハチとビーだけは、みんなと違う色のチョッキなので、遠くからでも、ハチがやってくるのが見えた。ビーは、おとなしめの黄色。ハチは、本人の希望で、渋い赤色。ハチは、カナン山の麓にある旅人の酒場にいる関係で、ゼオや女店主のリナの影響を受けて、お人好しで奔放な性格をしている。
「動く者は、いないです。でも、ラヴィが切り取った足の残骸が有りました」と、ビーに報告する。
「ラヴィ、やったな」
ハチは、ゴングと一緒で、ラヴィ達の戦闘訓練に良く巻き込まれていた。ハチも、メイドたちに、「ハチも、パーティーに加わればいいのよ」と、よく冗談を言われていた。
「えへへへ」
「ノーマ、ガード頼む。アリーシャ、この、山積みの炭を吹き払ってくれ。タイフーン」
アリーシャが、強烈に光り出した。ヒロが、ガクッとする。ラヴィの時のようにMPか大量に無くなっていく。それを、ラヴィがアイテムで補った。
「タイフーン」
「ウォーターウオール」
大量の土煙が巻き上がった。それをノーマが、ウォーターウオールで押さえる。ノーマが発する大量のシャボンが、土煙に当たり、水の壁を作る。ヒロにとって、それが、永遠に続く。二体の召喚獣が、能力を全開にしているのだ。MP補充アイテムが瞬く間に消費されていく。
「見て!」
「何だ、あの黒い塊は?」
ラヴィが指さし、ハチが警戒感を露わにする。
「よし、アリーシャ、ノーマ、もう、いいぞ」
「ふう」
「おつかれ」
ノーマとアリーシャが、慰労しあう。二人とも、召喚獣ゲージが溜まった。二人とも、巨大召喚獣になれば、アリーシャは、傷を ノーマは、ナマズクラゲの電撃にやられた状態異常の負傷兵を癒すことが出来る。しかし、ムロとの決着がついていない。この状態を維持することにした。
「ヒロ、あれは、ムロのシェルターじゃないか。外殻を壊してみてくれ」
「了解。ラヴィ行くぞ」
「うん」
ビーに言われ、ヒロとラヴィが、地上に降りた。
地上に降りて、黒い卵状の塊が、強大なことが分かる。しかし、全長6メートル。高さ3メートルほどしかない。ムロは、全長が300メートル以上あった。
「ムロの奴、縮んじゃったのか?」
「外殻を壊してみようよ」
「そうだな」
その卵状の塊は、よく見ると、石灰質、つまり、貝殻が幾層にもなった厚いものだった。
ヒロが、ブラックソードを出した。
「オーバーブレイド」
ブラックソードが、ライトセーバーのように伸びた。ワータイガの爪による物理的な剣の巨大化だ。普通の剣の質量の3倍あるブラックソードならではの特殊形体。
「グラビティエンド」
ヒロは、更に、これに、超重量を掛けた。
ドゴン、ダガン、ゴガン、ミシッ、ガギッ!!!
「よし、ラヴィ、プロテクトアタック」
ラヴィが、ト――ンと飛び、空中で一瞬滞空。ヒロが作った切れ目を少し避けてキックした。
「プロテクトアタック」
バギン
外殻に付いた切れ目が、欠けて、中をうかがうことが出来る。
「もっと割る?」
「敵意を感じるか?」
「感じない」
「じゃあ、そのままで」
二人は、この黒い塊に飛び乗った。
この欠けたところから見える青と黄色のまだら模様は、火海牛ムロの体の部分と一緒だ。
「ムロだ」
「寝てるのかな」
「でも、敵意を感じない」
ヒロは、ビー達に来いと手招きした。
ビーは、欠けた部分から覗いているムロの体を見て、エルフ王に連絡を取った。
「エイブラハム様、大きさ6メートルぐらいの卵のようなシェルターの中にムロを発見しました。ヒロが言うには、敵意を感じないそうです」
・私も感じない。そうですね、ノーマに言って、その切れ目から水を掛けてみてください。自分で膨らんで、殻が割れ、全貌を見ることが出来るでしょう
「分かりました。ノーマ、切れ目に水を与えてくれ。ムロが膨らんで、殻から出てくるそうだ」
「分かった。ウォール」
ノーマが、殻の欠けた部分に水を注ぎこむとヒロが作った亀裂に沿ってひびが入っていく。ムロが、膨張したのだ。
ビーの能力は高い。水龍族長の丹人を通じて、今のライブ映像やヒロやエルフ王との、やり取りを全兵士に配信した。これを見た龍王、ゼオ、アギト、バロンが、ムロのシェルターに集まった。少し遅れて、エルフ王の指示で、エルフ十賢人のジェイドが、ムロを見定める為にやって来た。
「ヒロさん」
「ジェイドさん、ムロが起きないんです。でも、もう、敵意は、感じない」
ジェイドが、ムロを見ながら頷く。
龍王たちに囲まれたムロは、殻ぐらいの大きさになり、そこにうずくまっている。ムロに、兵士を何人も殺されたバロンだったが、バロンも、ムロを殺そうとせず見守っている。ジェイドが来たことで、龍王が動いた。
「ジェイド、どう、思う」
ジェイドも、目の前で、看病していたワイバーンを何匹か死なせている。背中のアーチェリーを触りながら答えた。
「そうですね、2つ試してみますか。アギトさん、極大の水球で、ムロを包んでみてください」
「何だって。極大でなくていいだろ」
「分かりました。ムロを包める大きさでいいです」
この場の全員に戦慄が走る。全員戦闘態勢に入った。ここで、膨張されたら、戦闘は必至。しかし、決着も付くだろう。と、おもう。
アギトが、ムロを空中に浮かし、水球で包む。
その中で、気持ちよさそうにするムロ。しかし、大きさは、変らなかった。
「ありがとうございます。そのまま、水球を解いて、地上に降ろしてください」
アギトは、水球を遠くに飛ばして、ムロのみ、地上に降ろした。ムロは、水の中で目覚めて、起き上がっていた。ウモーーーと、鳴いている。長かった角は、折られた長さで再生していた。
「ヒロさん、ちょっと、ムロに乗ってみてください」
「オレですか」
毛長牛で、さんざんな目にあったヒロが、苦手だなと思いながら、ムロに飛び乗った。
「ヒロ、足でぎゅっと胴体を絞るのよ。それで、コンコンするの」
アリーシャが、アドバイスする。
「それ、ウォッチの能力か」
「かんよ」
ヒロがアリーシャに言われたとおりにすると、ムロが歩き出した。
「こいつ、どこに向かうんだ」
「たぶんさっき、アギトさんが飛ばした水球の方でしょうね。水の中で目覚めて、安心もしたし、地上でも苦しくない。でも、水場が恋しいのでしょう」
「なるほど」
理解の速い龍王が、頷いた。
「どういうことだ、サイモン、説明してくれ」
ゼオが頭をひねる。
その間にも、ヒロとムロが、水場を求めて移動していた。
「ノーマ、水場を作ってくれ」
「そうだな、ムロを遠くには、やれない」
アギトも同意した。
「分かった、ウォール」
ムロは、ノーマの作った水場にへたり込んだ。
龍王が、ゼオに説明する。
「親父殿、ムロは、元来、おとなしい生き物だった。それが、自分ではどうしようもない体格になり、水が無いために苦しみながら、水場を探して走り回っていたのではないですかな。再生能力の方は、出し尽くした。そうだろ、ジェイド」
「水場を探して苦しんでいたのは、感じていたことです。しかし、ムロの体格から言って、迷惑過ぎるので、方針に異議を唱える気には、なれませんでした。しかし、今は、何とかなる大きさです。それで、アギトさんに試してもらいました」
「分かるが、その事実を飲み込むのは、時間がかかる」
ゼオが腕組みして黙ってしまった。ゼオは、多くの兵士を失った。なのに、ジェイドは、ムロを殺すなと、提案していたからだ。
そこに、ほけた顔をしたバロンが、ムロに近づいた。バロンは、この中で、一番部下や同僚、そして、友を失った男だ。だれも止める者がいなかった。
「バロンさん!」
ヒロは、ムロの上に乗っている。近づくバロンを見て驚いた。
「こいつ、水陸両棲の牛だな」
驚いたことに、バロンは、将軍の顔をやめ、牧場の親父の顔に戻っていた。
「ゼオ、こいつを飼ってもいいか。こいつは、タオ草原産だぞ」
ムロを撫でながら、ゼオを見る。
「バロンが良いのなら、良い。サイモン、いいか?」
「水竜王の裁定もいりません」
・ばかもん、そこは、気を遣え
親族の内で、話しが付いたと見たジェイドが、アギトにも、了解を取る。
「アギトさん、良いですか」
「無害なら、殺す必要もない」
ジェイドがほっとする。
「バロンさん、今後のこともあります。我々も、しばらく、ここに住んでいいですか。ムロの生態を調べたいです」
「もちろんだ」
バロンは、ムロを撫でながらヒロにお礼を言った。
「ヒロ、それでいいか」
「バロンさんが、そう、言うなら」
「ありがとう」
この時、ヒロをはじめ、ラヴィ、ノーマ、アリーシャには、【コンクラッチレーション】の光文字が見えていた。




