決戦の日
2週間が過ぎ、決戦の日が来た。それまで4人は、ばらばらに活動していた。
ラヴィは、ポップと、ずっと戦闘をしていて、ブリーダーレベル20を達成した。その間、ゴングがラヴィの為に7度も出撃している。(二日に一回という高出撃率)ゴングは、3人のメイドに、「いっそ、ゴングもパーティに入っちゃえばいいのよ」と、冗談を言われるぐらい仲良くなった。だが、ゴングも、タオ草原の戦いに向けてシャーンたちと戦闘訓練しているのだ。1度、ラヴィ達のために、シャーンたちも駆り出される騒ぎになり、4人は、ガイガイオウに怒られている。
ノーマは、素のレベルで、十分ジオイド(人魚の転生者の町)の服制作に対応できるので、自宅とジオイドを往復することが多かった。また、ノーマは、素の状態でも、アイスを発動できる様になっていた。なので、父親が、そのユニーク系の能力を認めた。水玉しか出ないノーマに、まだ早いが、水系の能力修業を許した。時間が経って成長すればできることなのだが、ノーマは、それに意欲を燃やした。
アリーシャの所にカインが来た。悠久の浮島から、生体ロボットは出してはいけない決まりだったが、ベロニカがこれを許した。古いエルフに、生体ロボットに詳しい学者や知識人が多くいる。ノーマの家は、その人たちでいっぱいになった。しばらくして、近所に家を作って、そこに住んでくれたが、最初は大変だった。ベロニカが休んでいる今、悠久の浮島に住めないのだから仕方ない。おかげで、カインの食事には、困らなかった。カインの首輪は、アリーシャにもカインを呼べるユニークアイテムで、アリーシャのライトボードの中のブリーダーの項目に、カインのスロットを発見した時は大喜びした。
カインは、レベル95のエネミーだ。「カインよろしくね。アリーシャを守ってね」と、母のスーザンもカインを可愛がる。カインは、バウと答えてしっぱを振った。
ヒロは、この2週間、パグーを飛び回っていた。ヒロは、戦闘能力より、クラフトによる、武器や防具制作の方が有名になった。いろいろな人に会って、その人に合った武器を作りまくった。素材が足りなくなると、レディオ商会の倉庫を優先に漁った。ラジオは、服制作で、大儲けしているのに、ヒロが来るたびに、大損したような顔をする。その顔を見るのがヒロの楽しみになっていた。途中から、悪いと思ったので、他のギルドのアイテムも紹介してもらったが、ラジオは、ヒロのクラフトで、一儲けしようと思っていたから、物量が違っていた。つい、レディオ商会に足を運んでしまった。
ヒロは、ウラヌスの調査にも行っている。ここは、1000万の人口を誇った大都市で、人魚転生者の思惑通り、お宝の山だった。普通の家にも、鱗魚族がウラヌスシェルと呼んでいる貝殻の形をした黒真珠のような宝があり、これが、弱い回復効果を持っていた。甲殻族の始祖の能力は、浄化と回復で、その片鱗がここに埋まっていた。そこで、ウラヌスシェルの回収が始まった。低温の場所しか採取できないが、甲殻族が多く駆り出されることになった。一部の地域は、鱗魚族の護衛付きではあるが、人魚転生者にも開放され、多くの人魚もそこに出かけるようになった。これにより、シン対策が進むことになる。1枚しか出ていないが、その中に、白いウラヌスシェルがあり、強い浄化と回復力を秘めていた。今は、エルフが解析をしている。ラジオなどは、目が白いウラヌスシェルになるのではないかというぐらい、ヒロにその話ばかりする。ヒロは、ラジオの話をスルーして、フォブ爺と甲殻人に、始祖の能力が戻ることを期待して、その話をするのであった。
結界解除1時間前
ワイバーン飛翔隊は、タオ平原を囲むように布陣した。ここから、怪物を一匹も逃がさない構えだ。全体指揮をする龍王もここにいる。ここに、テレパシーの強力な水龍も控えている。水龍が、全体の伝令役になる。エルフは、ワイバーン飛翔隊の奥に布陣してサポート体制を敷く。
草原中央には、戦闘能力の高い雷竜人と、肉弾戦を得意とする甲殻人がいる。その中にヒロ達もいる。
ヒロは、身内と組むことになった。一戦士に戻れて喜んでいるゼオと、ノーマと一緒に戦いたいアギトとパーティを組んだ。アギトは、ノーマに仕込んだ、氷牙を出させて、まだ打ち合わせをしている。ゼオは、ラヴィとやる気満々。アリーシャは、カインに守られて、パーティ全体のサポート。ヒロが、ポップと組むことになった。MP回復薬は貴重だ。しかし、ジオイドの人魚たちから大量に貰っている。今は全員ジャスト召喚の状態だが、ヒロの判断で、全員バトル召還になる。ポップは、吹き飛ばしを覚えていた。ポップと組んだヒロは、ポップが防御をしてくれるので、主戦攻者になる。
タオ草原の主、バロンは、雷龍人の将軍になっていた。雷竜人の戦士は、ゼオにこれでもかと言うぐらい鍛え上げられている。カナン山での実践も豊富だ。元々将軍だったバロンは、ものすごい統率力を見せた。それは、甲殻人にまで及ぶ。バロンには、甲殻人のガイがついた。二人とも主攻派で、守りは考えていない。その分ワイバーン達にも仕事が回ることになる。一部のワイバーンも、バロンの枠にいる。その中には、ヒロと戦ったヒューガ将軍を見ることができる。敵には、飛ぶことができる怪物がいる。ヒューガ将軍が、その怪物と戦う。
エルフの実力者たちは、バベルの塔を守るために結界を張ることになっていた。まず、始祖様が結界を解き、そののち結界を張る。タイミングも大事だ。十賢人も出張って、その時間を待つ。
アギトとノーマは、新技の名前で、もめていた。ずっと、素のノーマで氷攻撃の修業をしていた。アギトが、氷牙と名付けたその技は、氷の硬度を上げつつ先端をとがらせて敵に牙を突き立てるような技だ。ところが、召喚獣になったノーマのそれは、爪どころか、超巨大な氷柱になり、牙と呼ぶにはあまりにもスケールが違う。それで、名前を替えようとしたのだが、ノーマが反対。今更、名前を変えられても困るともめていた。
アギトの新しい武器も試さなくてはいけない。ヒロが様子を見に来た。もう開戦まで時間がない。
「アギトさん、龍甲剣は、試しましたか」
「すまん、取り込んでいてまだだ」
「ヒロ、お父さんに言ってよ、もうすぐ戦わなくっちゃいけないのに、やっと、できるようになった技の名前を替えろって言うのよ」
「実践で感覚を覚えたら、もう改名なんかできないさ。これは、牙じゃないだろ」
「名前を叫んで、気合を入れるのが、大事だって言ったのお父さんじゃない。実践で気合が入らないほうがまずいわよ」
「氷牙だったっけ。それ、アギトさんの命名?」
「そう」
「いい名前じゃないですか。ノーマは、確か最高3本出せるんだよな。重量もありそうだし、一本遅らせて、下から出したら噛み砕くって感じになるんじゃないか。すぐにできないだろうけど」
「いいね」
ヒロは、アギトが、褒められるのに弱いと、奥さんのサーヤさんから聞いていた。ノーマが肩の力を抜く。
「それで、龍甲剣、試してみませんか。そこに、地面に食い込んだ、格好の氷柱があるじゃないですか」
「そうだな、ノーマ、一本空中に出してくれ。空中と氷柱の二段でやってみる」
「わかった。氷牙」
空中に水が竜巻のように舞い上がり、先端部分から、キンキンと、凍っていく。
「海撃」
アギトが、上段と下段の衝撃波を撃つ。それに、海水が乗った。スラッシュの海水版だ。空中の氷牙と、地上の氷柱が、見事に二つに切れる。
開戦前のエキシビションというわけではないのだが、周りから、「おおっ」と、歓声が漏れる。パグーの歴戦の勇者たちに力を示した海王親子であった。
アギトの龍甲剣なのだが、素材集めで、ラジオが、がっくりしたアイテムで出来ている。これは、バージョン2の時のスカルドラゴンからドロップした竜骨が、原形で、そこにヒロの逆鱗を使って、硬度を上げたものだ。今回触媒は、海王と相性の良い海露結晶を使うことになった。実は、この海露結晶の在庫がない。惑星サガで取れるものなので、そこに大量にあるが、今回、海なので、いらないだろうと持ってこなかった。自分たちのレベルが低いのもあって、入荷がない。ヒロに渡すのを渋りたくても、相手は海王だ。だれが考えても、この結晶石と相性がいいのが分かる。渋々、在庫をさらってヒロに渡した。ヒロは、他のギルドの倉庫からもそうして、巨魚族や、鱗魚族の武器を作っている。
「婿殿、文句なしだ」
「良かったです」
海露結晶の性なのか、逆鱗の鋼のような質感の性なのか、龍甲剣は、剣でも、日本刀のような出来になった。オダだと、口から手が出そうなぐらい欲しがる一品だ。クラフターは、相手を見る。これは、海王のステータスがあって出来上がったものだ。オダが、アギトを目指して精進するのが目に浮かぶ。
ワイバーンたちに気合を入れていた龍王が、バベルの塔に戻ってきた。
水龍の族長、丹人が、龍王のカウントダウンを受け、開戦が近いことを知らせた。
丹人にリンクした龍王が檄を飛ばす。
「皆の者、気を引き締めろ。敵は、タオ草原の中央に現れるぞ。海火牛ムロは、ゼオ、アギト、ヒロのパーティに任せる。空は、ヒューガ。地上は、バロンの指示に従え。一匹たりとも、此処から逃がすな」
ドオンと、巨大な歓声が上がる。
四方は、ワイバーン千竜将が守る。北と、東は山になっている。北を守は、ショウギ将軍。東を守るは、ハガラ将軍。西には、谷があり、ここを守るのは、グワン将軍。南は、地続きで、竜人の住む町に通じている。ここを守るのは、最古参のサラマンダー将軍である。
バロンは、この将軍たちに自分の獲物を渡す気はないのだが、東西で緩急をつけている。西の谷に逃げられるのは、やばい。なので、グワン将軍との打ち合わせが一番長かった。バロンは、双剣の使い手。グワン将軍は、鉞のような巨大な槍の使い手。
怪物たちのBOSの名前は、ムロ。ムロは、火を吐く超巨大牛だ。そこで、ヒロが疑問に思って、ゼオと、バロンに聞いた。
「怪物たちは、ウラヌス王宮のゲートを通って来たのでしょう。大きさがおかしくありませんか」
「それ、今、俺らに聞けて良かったな」
「わし等は、その疑問を口に出す暇もなかったぞ」
ヒロは思う、ゼオは、レベルが120以上だ。アギトも、サイモンもそうだ。それほどの強者が手を焼く怪物が、急に出現したのは不自然だ。
「学者が言うには、あれら怪物は、海底生物だそうだ。水圧と重力の軽い地上に出て来て巨大化したと言っている」
「重力もですか」
「ヒロは、アウターリムだろ。ここは、インナーコアだ。普通の惑星の3倍の質量がある」
「はい、自分がいた地球と同じ重力です。なのに表面積は、1/3しかない」
「だから、ちょっと重力が、歪んでいるところがあるんだよ」
「ウラヌス王宮のゲートは、王宮の地下にあった。そこが、ヘスカテ山の噴火で、海底ともつながったんだ。ヘスカテ山は、元々、活火山だ。その劣悪な環境の中で生き残っていた怪物が、重力と水圧から解放された。まあ、これが学者の説だよ」
「説って、検証していないんですか」
「そりゃそうだろ、誰が、ウラヌス王宮に行ける。BOSのムロだが、海牛に似たのがいる。わしは、戦ったからわかる。あれは海牛が進化したものだ。樋爪と、角は固かったが、体には、打撃が通らない。電撃もだ。海綿体が膨れたものだってことだろ。だから、怪物の中で一番巨大だったんだ」
「じゃあ、ウラヌス王宮の中を探査するのは大変てことか」
ヒロがボソッとつぶやく。
「ヒロ! 行けるのか」
バロンが驚く。
「今度探査しようっと思っています」
「たぶん、中の奴には打撃が通じる。だがな、重力が桁違いにかかってくると思うぞ。こちらも動けなくなる」
「自分はそうですけど、ラヴィ達は、たぶん大丈夫です。召喚獣はもともと宙に浮いていますから」
そんな話があって、アギトも加わって、ムロ攻略の話になった。アギトが、海綿は、斬撃に弱いと言う話しをした。それで胴体は、アギトとヒロが担当。アギトにはノーマがつくので、火炎攻撃のカウンターもできる。アギトが正面になった。なので、ヒロは、他の戦場も、サポートして良いという。それぐらい、ムロは、縦横無尽に草原を走り回って、他の戦場を混乱させる。攻撃に使っているが、角と樋爪は、中が空洞だろう、壊してしまえば、それに振り回されることもないと、ゼオが、それらを破壊すると宣言した。
ムロの他に、9体、面倒な怪物がいる。特に、飛びムカデと、バウンティクラブが、やっかいである。
飛びムカデは、2匹いる。羽はないが、空を飛ぶムカデである。まるで、泳ぐように空を飛ぶ。口が鎌のようになっており、これに挟まれたら、まず助からない。その上、胴体に無数に足が有り、胴体に攻撃させない。空が飛べるため、どう、挙動するかわからない。
ワイバーンのヒューガ将軍が飛びムカデに立ち向かう。ヒューガ将軍の武器は、アックス。胴体を切り落とせることができれば、敵の戦力は、落ちるとみている。ガイガイオウとシャーンは、ヒューガ将軍のサポート。
バウンティクラブは、甲殻類。獲物のターゲットを決めると、信じられない速さで移動し、それを捕獲する。超重量のある蟹だ。甲殻族は、皆そうだが、表面が、防弾チョッキのようにかたい。なので、関節部分を狙うことになる。担当は、甲殻族のガイになる。問題は、バウンティクラブの足止めだ。ワイバーンから一人、聖戦士から一人、雷竜人から一人、甲殻族から一人、選抜されている。聖戦士は、ゴングが選ばれた。ゴングは、ライトセーバーで、ジャストガードを狙う。
残り6体は、雑魚モンスターになるのだが、雷系で、すぐ電撃攻撃をしてくる。大きさもさほど大きくないが、それでも、雷竜人と同じ大きさがある。電気クラゲと深海魚が合体したような生き物で、触手を何本も出している。ナマズクラゲは、雷竜人が、対峙する。ナマズクラゲは、ふわふわ浮かんでいるが、高く飛ぶわけではない。打撃をフワンと避けたり、吸収したりする厄介な怪物だ。
前回、これに集中していると、ムロの、突撃攻撃で、交通事故にあったように、大量の兵士がやられた。今回、戦闘の行方は、ゼオとアギトが、ムロの足止めができるかが焦点で、戦士の被害もそれによって変わってくる。
ヒロは、基本ムロなのだが、すべての戦場を見ることになった。なぜなら、敵の弱点をライトボードで分析できるからだ。その為、飛翔アイテムも装備している。すべてという意味では、アリーシャもそうで、アリーシャは、兵士を一人も殺させない気でいる。実際は、同族に任せるので、一番気にかけるのは、シャーンということになる。シャーンにとって、アリーシャの援護は、とても大きい。それも期待して、飛びムカデ組に組み込まれた。ヒロとアリーシャは、敵の弱点を見つけて、みんなに知らせる役割を持っている。それによって、戦場の体制が動くこともあるだろう。今は、一番無難な戦闘隊形になっている。




