タオ草原
翌朝、フォブ爺から見るとラヴィもヒロも早起きなのだが、二人は、自分の時差で昼近くまで寝坊してしまった。アリーシャが実家だったから、二人とも、アリーシャに起こされた。アリーシャは、素でゲートをくぐってやってきた。
二人が、フォブ爺の奥さんから、昆布茶を貰って目を覚ましたあたりで、ノーマと海王、転生者の街の代表がやってきた。転生者代表のユウト、コウ、ラジオは、やることが山積で、真っ青な顔をしていたが、オダは、もう、嬉しくって元気いっぱいだ。4人は、海王が作った水球の中で、宙に浮いていた。
「師範、では、徒手空拳の達人が、ここにおるのですな」
「そうだ。ガイを訪ねると良い」
二人は、意気投合していた。
「ヒロさん、フォブ先生を紹介して下さい」
MSIのコウさんは、パグーのことを勉強しなくてはならない。ここで、フォブ爺から習うのが、一番の早道だと海王から教えてもらっていた。フォブ爺は、コウから、先生と呼ばれて、大喜びした。
「フォブさん、昨日言っていたコウさんです」
「先生、コウです」
「ふぉふぉふぉふぉ、こぶ茶でも飲みながら話すかの」
ノーマは、父親が、空中に水球を作っているのを見て仰天していた。フォブに、自分の水玉を見せるのが恥ずかしくなった。それで、海王に、それ、私もやりたいとせがむのである。
「お父さん、いつからそんなことできるの」
「いつからって、けっこうみんなできるぞ。パグーは、水中生活者の方が多い。水中でこんなことやっても意味ないだろ」
「私もやりたい」
「ノーマにはまだ早いかな。わしの道場に通うのなら教えんでもない」
「えー、無理。この後、ヒロと、いっぱい冒険しなくっちゃいけないの」
「ははは、残念」
ノーマは、今日、水筒を二つもぶら下げてバベルの塔探査に意欲を燃やしていた。母親からもらったお弁当もデイバックに詰めて完全装備でやってきた。ラヴィとアリーシャの弁当は、父親が持っている。海王は、ノーマは冒険と言っていたが、遠足の間違いじゃないかと思う。バベルの塔に危険はない。ノーマは、ハンティングスタイル。アリーシャはジーパン。ラヴィは、いつもの短パン。これで、全員、デイバックをしょったら遠足だ。
ヒロは、フォブ爺の奥さんから弁当を貰った。
「バベルの塔は、ゲートから、少し歩くのよ。これを持って行ってね。みんなの分も作ったんだけど、アギトさんが、持ってきたみたいだから。でも、これも食べてね」と、なかなかの肩掛けバックと共にくれた。
三人のファッションを見て、ヒロも、軽い服を着た。フロンティアウエア―というカウボーイスタイルになった。
「それではヒロさん、頼みましたよ」
ユウトに言われて、全員ゲートに向う。ユウトの後ろにいるラジオは、昨日商談交渉で、海王に負けて、自分も精進せねばと腕組みしてヒロ達を見送った。
バベルの塔は、この甲殻族の塔の、もう一つあるゲートと繋がっている。そのゲートは、そのほか、ジラーフの浮島とロックウェルに繋がっている。ジラーフの浮島は、アリーシャが住んでいる浮島。ロックウェルは、南極の氷の都。ここには、水龍族でも、人形に近い種族が住んでいる。
ゲートをくぐると、窪んだところに出た。目立たない祠で、ほとんど人が訪ねていない様な所だった。その、窪んだところから出ると、辺り一面は、草原で、遠くまで見渡せる。草に覆われてはいるが、地面がえぐられた後や大岩が崩れたような跡を見ることができた。
ヒロは、フォブ爺が言っていた。ラヴィの母方の祖父母の話を思い出した。ここは、百年前に、ウラヌス王宮の怪物が出現した所だ。ラヴィの母親の両親は、バベルの塔の上空にあるウラヌス王宮と繋がっていたゲートを閉じるために命を掛けた。ここは、戦場痕なのだ。
「ここは、誰も住んでいないのか」
「そんなことない」
「おじさん、まだいるかな?」
「久しぶりねー」
三人は、3年前にここを訪れている。3人共、リラックスモードに突入していた。
「ここに危険は無いと、聞いたけど。オレは、何か感じるぞ」
ここの凸凹は、100年前の戦場痕だと言いたいのだが、フォブ爺に止められていて話せない。
「いい線行ってるかも。あの後ちょっと調べたんだ」
「何か分かったの」
「教えなさいよ」
「アリーシャは、ここにちょくちょく来ているのか」
「何もないからちょっとね。でも、おじさんが変なこと言ってたじゃない」
「化物の声の話?」
「バベルの塔の奥の話でしょ。私達を怖がらせて喜んでいただけじゃないの」
「それが、そうでもないのよ。龍族より大きな化物の話があるのね。火を吐く牛の話よ。同じ火炎系でしょう。龍族の火流弾が効かないから封印されたんじゃないかなと思ったの」
「何処で聞いたんだ」
「ミアーデ図書館。エルフの浮島にある大きな図書館よ。ロードオブ召喚獣のエネミーって、BOSは、みんな巨大じゃない。だから、ちょっと興味があって、巨大生物を調べて見たらパグーにもいたのよ」
「カナン山に、牛の化け物はいないよ。じゃあ、ここってこと?」
「やめてよ。ロードオブ召喚獣が、パグーに来ちゃったのよ。本当にいそうじゃない」
「でしょう」
「脅さないでよ」
「ふふふっ」
「前来た時は、そんな声、聞かなかったじゃない。やっぱりおじさんの、ほら話よ」
ノーマは、全否定。ラヴィは、ちょっと気になった。
「毛長牛借りに行こ。おじさんに、また、聞こうよ」
ノーマは、一蹴したが、ヒロは、黙ってしまった。本当に有りそうな話だからだ。
「ヒロ、どうしたの?」
「何でもない。毛長牛でバベルの塔まで行くのか」
「歩いているのと変らないけどね」
「背中に乗ると、ちょっと遠くまで見渡せるじゃない」
「牧場主のバロンさんは、雷竜の人で、牧場をやっているのよ。おじいちゃんの知り合い」
「変な人よ。ステーキ食べさせてくれた時は、うれしかったんだけど、その後、屠畜場見せようとするのよ。絶対無理」
「おじさんは、変な人だけど、奥さんは、いい人よ。あの時、おじさん、怒られていたじゃない」
「本当ね」
「本当よ」
暫くバベルの塔がある北に向かって歩いて行くと、西側に黒い大きな毛長牛が、のんびり草を食んでいるのが見えた。それを見た一行は、西にそれ、牧童たちに手を振りながら更に歩いて行くと、大きな牧場に行きあたった。
バロンの牧場とある。
「なんだか、牧場、大きくなってない」
「人も増えてた」
「私たちが来たときは、家族だけって感じだったよね」
「いいんじゃないか。これだけ広い草原なんだ。勿体ないだろ」
家畜小屋も、バロンの家も大きくなっていた。サイロが、4つもある立派な牧場だ。




