創世時代
エリシウム島南岸に甲殻族の町ロパリがある。北岸は、海が熱湯している。45度といったら、ちょっと熱めのお風呂なので、ヒロは、ちょっとぐらいなら、入るの気持ちいいだろうなと思う。
頑固おやじが、「まだぬるい」とか言って入る温度だよ
だけど、現実に何時間も入水できる温度ではない。ところどころ硫黄も吹いているので、綺麗な海水とも限らない。それでも、天然の温泉だろうなと、その辺りの海岸を散策したくなった。
温泉かー ウラヌス探索のときに、別宅にできる土地探しもしよう
そんなことを考えながら、ロパリの族長に、挨拶しに行った。今日の予定と、創生時代のことを教えてほしいとお願いしなくてはいけない。
ロパリは、白い貝殻で出来た家が立ち並ぶ大きな町だ。その中心には、高い貝殻の塔があり、そこに族長が住んでいる。海王のいる塔と同じように、そこに、ゲートがある。
塔の天辺に到着したヒロたちは、フォブ爺宅に真っ先に向かった。ラヴィは、慣れていて、塔の裏手をトントンと、飛び降りてショートカットする。それを見ていたフォブ爺が、ラヴィを叱った。
「こら、ラヴィ。普通の道を通らんか。ヒロ殿が、この道が普通の道だと勘違いするじゃろ」
「へへへ、ごめんなさい」
ラヴィは、懐かしそうにあたりを見回した。甲殻人の偉い人が雑居している塔は、テラスが広くて気持ちいい。
そのフォブ爺宅の隣の広いテラスで、蟹型の亜人間が、片足あげて、ずっとそのまま動かないでいるのを見つけたラヴィは、その、蟹型亜人間に飛びついた。
「ガイ先生!」
「☆ラヴィか!」
「ヒロ!ガイ先生よ。私の防御技は、みんなガイ先生に習ったの」
ラヴィは、肉弾回転防御を得意としている。その甲殻人は、大きな爪を持っているが人形で、装甲がとても厚そうだ。強い防御力を生かした格闘技を得意としていそうだった。
あれか!
「ヒロです」
「おお、昨日見ましたぞ。ガイです。ガイア人のガイです」
「ごめん、ヒロ。今の笑うところ」
ガイア人? 初めて会ったのにそれはできないだろ。
「ラヴィの師匠か」
「うん」
「ガイ先生。私、人形でも、バトルできるようになりました」
「本当か、では、門下生に混ざって一般組み手から、やるか」
「はい」
「こりゃ、わしの所に先に来んか」
「ごめんなさい。ガイ先生、後でね」
「まっているぞ」
ラヴィは、大きく手を振りながら、フォブ爺の横にいるヒロの所に走った。
「おはようございます。フォブ爺って呼んでいいですか」
「良い良い。ラヴィは、先生じゃぞ」
「えー、フォブ爺は、フォブ爺でしょ」
「まあ、ええ。ノーマもそうじゃが、ちょっと甘やかせすぎたかの。水龍族のしきたりだと、厳しいんじゃぞ。それなのに、なんでか、原初の育て役のモイを思い出してしもうたんじゃ。伸び伸びと育ってしもうた」
「みんないい子です」
「そうじゃの」
「ヒロは、創生時代のことが聞きたいんですって」
「おおっ、長い話になる」
「思い出したの?」
「一昨日じゃったか、急にな」
「よろしくお願いします」
「テラスからじゃが許す。昆布茶を持ってこさせよう。転生者の町は、良いのかな」
「話しが、長いんですね。転生者の街が優先なんですが、少しだけお願いします」
「創生周期は火星じゃが、ヒロ殿は、火星産まれかの?」
「地球です」
「・・・・、とにかく、入りなされ」
フォブ爺の部屋は、とてもシンプルだ。白い壁には、外光を受けて投射する映像が映し出されていて、海の中のようになっていた。
「昆布茶は好きかの」
「飲まないことは無いです」
「はは、飲んでみなされ」
フォブ爺の昆布茶は、梅昆布茶だった。ノーマの所の様に、コーヒーみたいに苦くない。
「わっ、普通の梅昆布茶です」
「梅ではないが、似た味がするじゃろ」
「カキの実よ。これも、海藻の一種なの」
フォブ爺は、これをきっかけに創生時代のことを話し出した。
「創生時代とは、火星黎明期をさす。火星が、海王様によってテラフォーマされ、そこで、多くの氏族が生まれたんじゃ。鱗魚族のマイアに会ったじゃろ。鱗魚族は、この時産まれた。この昆布茶は、火星原産じゃぞ」
「自分の時代は、入植はしていますが、荒れ果てた赤い砂漠の星です」
「宇暦は、分かるかの」
「250年の7月でした」
「そうか、宇暦499年7月にそうなった。今は、それより地球暦で言うとじゃな・・」
「いっぱい時間が、経ったんでしょ」
「こりゃ、ラヴィ。おおざっぱなことを言うでない。約700万年じゃ。詳細を聞いても意味ないじゃろう。じゃが、パグーの暦も時間も地球暦と同じじゃ。それは、ここの発祥と絡んでくる」
「700万年・・ここは、銀河なのですか」
「そうじゃが、アウターリムじゃないぞ。インナーコアじゃ」
「道理で、夜空が明るいと思いました」
パグーは、銀河の中心に位置する。フォブ爺は、早い理解をするヒロが気に入った。
「重力は、火星と同じ。惑星規模は、地球の1/3になるかの。じゃから、世界樹が必要になる。放っておくと、空気が宇宙に逃げる」
ゲームの尺度と同じだ。
「人類は、まだ、いるのですか」
「とても少数じゃし、アウターリムの片田舎じゃが、いるぞ。いまでは、希少種じゃ。じゃが、ノーマ達を見たじゃろ。人形が多いと思わんかったか。みんな、発祥は、人間じゃからな」
「フォブ爺もですか」
「そうじゃ」
「ほかの惑星も、こうなんですか。ノーマが、世界樹は、惑星に一つずつ生えていると言っていました」
「詳しく聞きたいじゃろうの。海王様は、テラフォーマの天才じゃ。わしらが入植した惑星は、10万を超える。巨星の爆発の影響で滅んだ惑星もあるが、海母様は、天文学者じゃ、ほとんど、順調に推移しておるぞ」
「あのね、海王様ってアギトおじさんのことじゃないよ。ガイア人の海王様」
「ガイア人! さっき、ガイさんも、そんなこと言ってたよな」
「わしらは、人と、惑星生物との混血じゃ。じゃからガイア人。今は、始祖様ぐらいにしか使わんがの。エルフもそうなんじゃが、エルフは、最近現れた種での、一番古い種族の竜族、人魚族、甲殻族が付き添っとるんじゃ」
「とっても少ない種だと聞きましたが」
「3千年であれだけじゃ。エルフの転生者は、何人じゃラヴィ」
「ヒロ、7千人だったっけ」
「7千24人」
「大事にせんといかん」
「人魚も龍族の転生者も、仲間です」
「そうじゃな。まだまだ、話したいことはあるのじゃが、概要は、分かったじゃろ。人魚の転生者の所に行ってあげなされ」
「ありがとうございます。当分は、ウラヌス探査になりそうなんです」
「フォブ爺、泊めて」
「昔語りに、花が咲きそうじゃ。終わったら、ここに帰って来なされ、待っとるぞ。人種については、もう少し語らねばならん」
「ありがとうございます」
ヒロは、フォブ爺から、ここは、現実世界だと教えられたようなものなのだが、未来だと認識出来なかった。今、自分が、惑星パグーで、生きていると言うのが、現実だ。ラヴィは、素の状態なので、控えの部屋に移動することになった。ラヴィが、フォブ爺の奥さんの所に向かうのを見ながら、もう一つだけ、フォブ爺に質問した。
「バベルの塔のことは、分かりますか」
「通り一遍はの。エルフ族と、ここに来たときは、もう有った。じゃが、100年前のことじゃ。塔の上空から怪物がいっぱい現れた。その時、ラヴィの母方の祖父母は、亡くなっとる。まだ龍王は、話しておらんでの。ラヴィのおらん時に、せんか」
「はい・・ウラヌスの崩壊と関係あるかと思ったんですが」
「ある。とにかく、待て」
思ったより、きつそうな話に、首を縦に振るしかなかった。




