高レベル防護服を作れるのは、ノーマだけ
早朝、ヒロだけ目が覚めてしまった。貝の里は、エリシウム島の南海上にある。
ラヴィが住んでいる世界樹中腹のゲートは、この貝の里ではなく、エリシウム島の
南海岸にあるロパリと言う町に通じている。そして、ロパリと、貝の里が、別のゲートでつながっている。ロパリは甲殻族の都である。ラヴィは、ここの族長であるフォブ爺に教育して貰っていたから、貝の里と、ロパリを往復する日々を長く送っていた。
貝の里は、エリシウム島の南側と言うだけではなく、さらに南に位置する大陸との中間に位置している。水浸は浅く波があまりない穏やかな所だ。ヒロは、瀬戸内海沿岸の出身だ。故郷に似ている海を眺めて過ごした。
「瀬戸内海を思い出しているの?」
「ラヴィ!」
「えへへへ、早く来ちゃった。実はね、カエラたちとフィールドに出ることになったの」
「メイドたちだろ。大丈夫なのか」
「みんな戦闘訓練受けてる。素の私より強いかも」
「助かる。でも、無理はするな」
「ホップが、いるもん」
「ホップには、お兄さんがやってた吹き飛ばしのスキルを覚えろと言っといた。だから、レベル上げは急がなくていい」
「わかった」
「そう言えば、カエラと仲良さそうだったな」
「うん、幼馴染。旅人の酒場の向かいの子なのよ」
「旅人の酒場か。ゲームの中に出てきそうな名前だな」
「いい線いってるかも、グランの職人を束ねているギルド長のビエラさんも、ずっと、旅人の酒場にいるし。そこに、竜人の転生者もよく来るんですって」
「だろうな、オレもそうする」
ラヴィが、ヒロの横にちょこんと座った。ヒロは、いつものようにラヴィの頭を撫でた。
「ずっとゲームで一緒だったよな。お父さんに怒られただろ。大丈夫だったか」
ラヴィも、いつものように頭をヒロにすりすりしたかったが、素の状態だと、大胆かなーなどと思い、ちょっとおとなしくした。
「それが、ゲームの謎を解くのが、お母さんの結晶化を解くカギなんだって。だから、そんなに怒られなかった。ロードオブ召喚獣って、お母さんの能力と似たところがあるでしょう。でも、お母さんの能力を超越してる。ヒロがやってるクラフトをお母さんも、たぶんだけど、できるってウエンディおばさんが言ってた。でも、もしやったら、やっぱり、今のように結晶化していたそうよ」
「ラヴィのお母さんのことは、なんにも知らないぞ。最初から話せよ」
「うん」
母親ナーシャの話をラヴィは、まだ、全部聞いていない。だいたい、ナーシャの両親に会ったことがない。ラヴィは、母親側の祖父母のことも、父親に聞かなくてはいけない。父親は、ラヴィには、刺激が強すぎると段階を追って話しているところだった。
「じゃあ、お母さんは、ラヴィを産むために結晶化したのか」
「そう」
「結晶光か、オレは耐性があるそうだ。ムシキングが言ってた」
「ヒロと一緒に頑張ってたら、お母さんの謎が解けるかもしれない」
「わかった、覚えておくよ。バベルの塔には行かないといけないと思っていたんだ。そこに何かヒントがあるさ」
「海底王宮も気になる」
「そうだな、ゲートがバベルの塔と通じていたんだ。海王は、知っているかな」
「フォブ爺が早いよ。おじさんより詳しいと思う」
「そんなにか」
「あの貝殻の中なんだけど、全部脳みそだって。今も成長していて、成長するたびに、一族が蓄えてた記憶が蘇るそうよ」
「古い種族なのか」
「創生時代より前」
「今日会えるよな」
「転生者の街に行くんでしょ」
「行くけど、その前か後に会いたい」
「ノーマにメールしてもらお」
「それじゃあ、転生者の街の後ってことか。ラジオだろ苦手だなー」
「何か商売がうまくいく話ができたら、すっごく機嫌が、いいんじゃないかな」
「それか!」
この三年間、ずっと一緒にいたラヴィが、話すようになったのは、ヒロにとって、とてもうれしいことだ。今までは、孤独だなと思っていたが、今は、三年来の友人が戻ってきたようだ。
「やっぱ、あれかな。ノーマに頑張ってもらうか」
「いいかも」
ラヴィだと、全部話さなくても、話が通じる。ノーマの部屋で「クシュン!」と、咳をする音が聞こえた。二人は、顔を合わせてにっこりした。
「わるい、起こしてきてくれるか」
「まだ早いけど、そうする」
暫くして、ノーマが眠い目をこすりながら、ヒロの部屋のテラスにやって来た。
「なにー 起こすの早すぎるわよ」
「今日、人魚転生者の街に行くだろ。ラジオ対策したいんだ」
「げっ!」
「でもー シンを倒すのに必要」
「私しかいないの?」
「高級な防御力のある服は、ノーマしか作れないんじゃないか。その素材や、レベルの低い服なんかは、今の転生者でもなんとかなるだろうけど。主戦力の人には必要だよ」
「いったい何着作ればいいの」
「いっぱいじゃない」
「ラヴィ、また大雑把なことを ノーマがめげるだろ。とりあえず思いつく人のだけでも作ってくれよ。素材の仕入れは、ラジオってことで。あっ、そうだ。ビーの斥候隊に50着。昨日、約束しちゃった。あいつらのレベルは、20ぐらいだよ」
「勝手に約束しちゃったの!」ラヴィがあきれる。
「もう、目が覚めちゃったじゃない」
「コピー機能があるだろ」
「大きさがみんな一緒なわけないじゃない」
「ハチ以外みんなスリムだったかな。分かった、聞いとくよ。斥候なのに、みんな一緒に戦ってくれたんだ。お礼がしたい。オレも、鍛冶屋スキルが全くないわけじゃないけど、戦った方が、クラフト素材が落ちると思うんだ。服の高級素材だってそうだろ」
「うーー、ラジオさん苦手」
「オレもだよ」
「おじさんに、間に入ってもらったら? 同じ人魚だし」
「そうする」
「どうせ、オレと一緒の時じゃないと作れないから、そんなに忙しくないって」
「わかった」
ノーマは、渋々了解してくれた。
「ラジオにアギトさんの所に行くように言うよ。お父さんに説明してくれ」
「昨日少し話した。お父さんも、交渉は強いよ」
「おだてたら、木に登るって言っとけよ」
「わるい人じゃないのよねー。でも、珉珉さんには、ノーマも会いたいでしょ」
「よけい巻き込まれたりして」
珉珉には会いたい。みんなラジオのことをさんざんに言っている。それは、仕方のないことだった。




