ワーウルフ
ヒロとゼオは、平野部が見渡せる丘の上から、ワーウルフたちを見下ろした。後ろには、フォバーしている蜂族たち。
さっきだと、この距離で、襲い掛かってきた。しかし、二人の気に押されて、ワーウルフたちは襲ってこない。そこに、森から、リーダーが現れた。結晶核付きが、3匹に増えているではないか。シンは、仲間に感染して増える。
おれは、今までにないぐらいマジな顔になり、殺気を放った。
「ハチ、雑魚は任せるからな」
ゼオの覇気が上がる。
おれは、まだ、クラフトしていないのに、お気に入りになったブラックソードを出した。
ハチ達は、先行して、雑魚と相対する。あの侵食核付きを倒してくれる猛者が二人も来たのだ。元気いっぱいに戦う。
「シンになりたての奴は、弱い」
「そうか、じゃあ、わしは右だ」
「左で」
そう言ったかと思うと、二人とも、ドンと丘から結晶核付きに向かって飛び出した。
バイン
バスッ
2匹は一瞬でやられた。これを見たリーダーのワーウルフが吠えた。しかし、仲間は、ハチ達に阻まれてやって来ない。
「わしがやるか?」
「ですね。レベルは、25です。結晶核に一発当たれば勝てますよ」
「いいね。こいつらの親玉が来る前に終わらすぞ」
「まだいるんですか」
「当たり前だ。ワータイガは、こいつらの10倍は、あるぞ」
「嫌な予感がする」
ワーウルフは、自分と同じ大きさしかない。10倍と言ったら、象と変わらない。それで、あの俊敏性を持っているのか。とにかく、動きをよく見ることにした。
「すいません、動きが見たいんで、結晶核は、なしってことで」
「婿殿は、こいつら初見か」 ゼオが楽しそうな顔をした。
ヒロでいいのに
「お願いします」
「見てろ。少し遊んでやる」
ワーウルフは、自分の周りを回って逃げるでもなく、ゼオに興味なさそうなしぐさを取ったかと思ったら、急に飛びかかって来た。
ゼオは、少し避けて、軽く横腹をなぐる。結晶核にかすり、ワーウルフは、痛がるのだが、戦意を消失するどころか、更に怒ってゼオに噛み付こうとする。ゼオは、初めての武器を試したくて、それを避けずに腕でカバーした。ワーウルフは、手甲に牙が通らないと分かっても、そこに噛みつく。その開いた口を手甲で押し切った。
ギャフン
ワーウルフは、悲鳴を上げるのだが、手は違う行動をする。
爪でひっかこうとするのを避けたゼオがヒロにアドバイスした。
「こいつらの爪は汚いんだ。小傷を負わされると、そこが、膿む」
そう言いながら、脳天に鉄槌を振り下ろした。
ヒロが頷く。
おれは、ゼオは、ワーウルフが、戦意を失うような攻撃を何度もしているのに、体が違う動きをしていることに、目を離さなかった。
脳天を打ち付けられて、意識は、もうろうとしているはずなのに、敵は、すぐ飛びかかって来た。ゼオが避けることができないタイミングだ。
ゼオは、本気を出して結晶核を殴るしかなかった。
ゼオは、ワーウルフのリーダーだった躯を見ながら、冷や汗を拭く。
「なんだ、あれ、あいつ、わしを見ていなかったよな」
「結晶核です。そこを破壊したから、分かりにくいと思いますが、目みたいなものがあるんです」
「先に言ってくれ」
ワーウルフを見ると、爪が、さっきの倍ぐらい伸びていた。
「じゃ、何か、こいつは、結晶核に意識をのったられたうえ、体まで変化させられていたのか」
「体はそうですが、意識は、負の感情が拡大したもので、自分の意識なんです。だから、厄介なんだ」
そこに、アリーシャから連絡が入った。
― ヒロ、大変。森から、シン反応。巨大よ
「まだ森の中か」
― うん。でも、もう森から出そうなの
「どうした?」
おれは、ゼオに振り返ってアリーシャの伝言を伝えた。
「森から、シン反応。たぶん、こいつらの親玉です」
「ワータイガだ。気を付けろ、2匹で来るぞ」
おれは、バトルフィールドの広さをさっきのワーウルフの戦闘ぶりで推し量っていた。このままでは、ハチ達も襲われる。ハチ達は、自前のニードルを使っていて武器を持っていない。防御もあまりしていないようだ。だから、強すぎる敵が来たら、いいカモになってしまう。鍛えればレベルは、上がるだろうが、その暇はない。斥候が主な仕事なのだろうが、これからは、そうはいかない。
この十倍だよな バトルフィールドは、この平野一帯になるぞ
ヒロが叫んだ。
「ハチ、こいつらを引き付けて丘の方に連れて行ってくれ。ワータイガが来るぞ」
それを聞いたビーの斥候部隊は、戦慄した。少し敗けるところを見せながら、徐々に丘の方に移動する。
「普通、あいつらは、森から出てこないんだがな」
ゼオが腕組みする。
「戦闘好きなんでしょう。爪が伸び縮みするのを試したいかもしれない」
「奴等と、意志疎通をしたことは無いが、そうかもな」
「意思疎通できるんですか」
「わからん。スーザンに聞いてみろ。幻獣とは話しているみたいだ」
シンに侵される前に会いたかった
そう思ったが、とにかく勝たねばお終いだ。ヒロは、森をにらんだ。
そいつは、飛んできたのではないかというぐらい、地表に沿って跳び出してきた。
ワータイガだ。山のように大きな虎で、指がそのまま爪になったのではないかというぐらい太い爪を持っている。
だが、結晶核がない。では、まだ森の出口付近にいるやつがそうか。
「こいつを今のうちにやっておかないと2匹同時に相手することになるぞ」
二人は、早い決着を目指して、この、ワータイガに突っ込んだ。
さっきのワーウルフの爪攻撃は、振り下ろしと横殴りだった。ヒロは、真正面に立ちはだかって、この2連攻撃を受けきる。剣だけによるジャストガードが決まり、攻撃のようなダメージを相手に与えた。
ゼオは、ヒロの後方からジャンプして脳天を殴り電撃を流す。
たぶん、脳天は、硬いところで、ここにダメージを与えたら、戦意を喪失して、森に帰ってくれていたのだろう。しかし、この、ワータイガは、こんなことでは、全く戦意を喪失しなかった。ゼオが、いつものように決まったのに、いぶかしがる。
「効いて無いのか? こいつ、結晶核がないのにおかしいぞ」
「やるしかないです。結晶核を持つ奴が現れたら周りの奴も感化される」
その辺が解っているヒロが叫ぶ。
一族がシンに侵されだすと、結晶核を持った強いやつが、他の奴を戦闘に駆り立てる。尋常では、なくなるのだ。
ゼオが腹をくくった。
「爪を砕け。戦力が落ちる」
二人は、パッと左右に散ったが、距離を置かないで肉薄したままだ。なんせ、さっきの跳躍を見せられている。ハチ達は、丘近くまで後退していたが、まだ平野部にいる。隙を見せるわけにいかなかった。
おれは、こういう破壊できる個所を攻撃するのが得意だ。1足ずつ破壊していく。逆に、ゼオは、こういう細かい作業が苦手だ。だから、自然と、ゼオが正面で戦い、おれが爪を砕いていった。
爪をなんとか全部破壊できそうな時だった。ゼオが森を背にしている時、結晶核付きの奴が、ゼオの背中を襲った。結晶核付きの奴は老獪になる。ゼオは、吹き飛ばされたが、バグンと飛び上がるように起き上がり、戦意を喪失することは無く、すぐ体制を整えた。
爪を壊された方は、踏ん張りがきかなくなって動きが遅くなっていた。しかし、その仲間を利用して結晶核付きは、ゼオを攻撃していく。
こういうきっかけがあると、ダメージを負った者が、ターゲットにされる。ゼオは、爪のない決死のワータイガに動きを止められ、何度も結晶核付きの奴に背中を襲われた。ゼオは、それをちゃんと避けているのだが、結晶核付きの奴の爪は、さらに伸びてゼオを追い詰める。
伸びた爪がゼオの背中に届きそうになったとき、ヒロが、その爪をガードした。ヒロはソロばかりやっていたが、剣士は楯役で、こういう時頼りになる。
「すまん、左後足は破壊できなかった」
「十分だ。何だあの結晶核付きの爪は、折れなかったぞ」
「わかった。ラヴィを呼ぶ。踏んばってくれ」
ゼオとヒロが入れ替わる。
2匹は、ゼオばかり狙っている。ゼオは、ここから離れて2匹をヒロから遠ざけた。




