カナン山
カナン山は、噴火を繰り返している山だ。噴火口は、全部で6つ。それぞれが、頂を形成している。こここの山の一つ、東のガン山には、土竜人の町がある。すそ野には、雷竜人の町。海側の開けた感じの大きな街グランと、真反対の北側の砦のような町タイラがそれだ。ゼオは、その両方の街を行ったり来たりしている。
今回、その大きな二つの町とは別に、火竜人と雷竜人の小さな村落がいくつもできた。転生者の村である。
竜の幼体は、皆同じような人形だが、個々の特性が現れだすと外見が変わり、大体この四種類に大別される。
水竜:水棲の竜人。進化すると巨大な蛇のような体躯を持ち、神格化すると空を飛ぶ
雷竜:雷属性を持つ竜人。強くなっても人型のままだが、人とは違い竜人の身体能力を持つ。強力になると空を飛ぶ
火竜:火を吐く。主に飛竜がそうなのだが、幼体の時期は人形で、飛べない
土竜:地下世界で独自の進化をする。文化も独自で、他の竜と親交が少ない。とても光物が好きな竜人。普通は、ドワーフ止まり。物作りにたけている。神格化すると、巨大竜になる。
これら竜族の幼体は、すべて、カナン山に散らばるように出現した。
普通人形になるまでは、水の中で進化を繰り返すのだが、転生者は、人形からのスタート。他の種族より、好条件のスタートだった。
カナン山の南側には、大きくて澄んだカルデラ湖が2つあり、水竜の幼体は、この岸辺に現れた。まだ、この湖、サザ湖とミラ湖に入水して、外に出ていないので、ゼオは、放っている。特にミラ湖には、淡水の水龍がいるので、心配ない。
土竜は、住処すら、上空からでは、はっきりしないような連中だ。ゼオの範疇外なので、水竜同様そのままだ。
問題は、雷竜人と、火竜人達である。カナン山の大きな町は、雷竜人の町だ。だが、どちらも街には現れず、近郊に、小さな村落とともに現れた。雷竜人の幼体の方が街に近かったのでゼオは、何人かと話している。彼らは、強い体躯を持っているので、このような想定外の事態が起きても、まだ、ゲーム感覚で、ゲームの続きをやっていた。強くならないと、先がないこともわかるのだが、通常以上に強健な体なので命が一つしかないという認識が薄く、レベル上げに地道を上げていた。
カナン山は、転生者には、酷なフィールドである。初期フィールドとはいいがたい。だから、自分たちが転生した村の周りで地道を上げればいいのだけれど、どうしても、目の前の山が目に入ってしまう。強いモンスターを倒すと、一気にレベルが上がるのは、わかるが、命の危険と隣り合わせで、龍王の心配通り、ぽつぽつ、命を落とすものが現れだした。
―中央山―
カナン山のすそ野は、一つの山の認識で済むのだが、噴火口の関係で中腹あたりから、山が、六つになる。以前、とても標高が高かった山は、一度大噴火で、半崩落し、更にそこから、新たな噴火によって山が形成された。だから、中腹からは、連山の様相を呈している。各山に名前も付いているが、中央の山は、ひときわ高く、そのままカナン山の名前で通る。ただ、それでは、わかりにくいので、「御山」と呼んだり、中央山と呼ぶ。
中央山の根元は、ぐるりと盆地になっており、カルデラ湖がある。カナン山が凝縮されたようなところだ。カルデラ湖は、周りの火山のせいで、5つあり、それぞれ、特徴のある湖になっている。この湖と湖の間に森や砂漠、草原や岩地があり、湖と火山に阻まれた生物たちが独自の進化を遂げた。ここは、生物の頂点に立てるようなモンスターがうようよいる所だ。その中で、生き残りをかけた戦いが、日々続いている。
ビーたちが出くわしたモンスターは、草原と森がある南東側の地帯で、ビーたちが見晴らしの良い草原に入ると、周りの5山の一つ、ミラ山側の森から湧いて襲い掛かってきた。
森は、ワーウルフの住処だ。一匹一匹は、さほど強くないが、集団で狩りをする。群れのリーダーを倒しても、すぐ代わりが現れ、永延と攻撃してくる厄介な連中だ。
ワーウルフの対処は、テリトリーから出ることだ。餌場を荒らさなければ、それ以上追ってこない。ところが、ビーたちは、そうなる前に囲まれた。ビー達なら上空に逃げればいいはずだ。だが、逃げようにも、老獪に人質を取り、出口を閉ざして囲んでくる。腹の赤いワーウルフは、跳躍がもの凄く、一人が捕まり、それを助けようと、みんな地上に降りることになった。そして、活路を見出すまで、戦闘を強いられた。
確かに、ワーウルフは、雑食で、何でも食べるから、ビーたちを餌だと思ったのかもしれないが、得体のしれない執拗な追い込みに、閉口した。あれは、狩りというより、ビーたちを恨んでの攻撃、そんな感じだった。
特に、リーダーが異様だった。腹には、大きな赤い出来物ができており病気かと思われたが、戦ってみると異常に強い。目は血走り、爪も、他のワーウルフより長く、体も頑健で、ビーの針攻撃が、最初は通らなかったほどだ。
ビーの斥候部隊は、応援が来るまで草原を遠巻きに監視していた。あの、ワーウルフのリーダーだけは倒さないといけない。ここで襲われた全員が感じたことだった。
ワーウルフは、斥候部隊がテリトリーから出たにもかかわらず、いまだに草原をうろうろしている。普通なら、もう、森に帰っているはずだ。尋常ではないと、監視の目を緩めることができない。
そこに、ゼオとヒロがやってきた。二人は、戦闘の打ち合わせをしている。
「じゃあ、何か、ラヴィにこっちに来いと強制的に呼べるのか」
「はい、でも、体力が回復していなかったり、魔力が、弱っていたら呼ばないほうが早く回復します。でも、ラヴィは特別で、そんな状態でも守りが強護ですから、戦いながら回復します」
「あいつら、なんか難しい話をしているんだろ。わし等だけで、やろう。その復帰サインというのが来たら、参戦させろ」
ヒロは頷きながら平野にいるワーウルフを遠目に見た。
そこに、斥候隊リーダーのハチがやってきた。
「ゼオ!」
「おお、ハチか。こいつは、カナン山と世界樹の連絡役だ。ハチ、ヒロだ」
ハチは、ヒロのことを、さっきの世界樹の戦いで知っているが、知っている風な顔をすると、ゼオが「わしより先か?」と、怒るので、初めて会ったように対応した。
「助かる。ハチだ」
「ヒロだ」 ?見た顔だけど
ハチが目で合図しているのだが、種族の違いで、細かな表情はよく読み取れない。ハチが、ゼオを見た後、首をかしげて、やっと言いたいことを理解した。
「よろしく頼む」
ハチは、ほっとしながら「こちらこそ」と、握手してきた。
「どうなっている?」
ゼオは、もう、戦闘態勢に入っていた。
「今は、森にさがっている。でも、ワーウルフのリーダーが異常だぞ。腹に、大きな出来物を付けたやつだ。異常に強いし、しつこい」
「赤い出来物、そこが弱点だ」
「効いている風に見えなかったぞ」
「そうなのか?」 そうか、シン用の武器が必要だということか
ロードオブ召喚獣をやっているプレーヤーの武器は、シン対策ができているということだ。今まで、クラフトしていたのは、それを更に特化したものだったのだろう。
オレは、武器を掛け合わせて作るクラフターだから、ハチの疑問に、早い理解をした。
斥候部隊が、続々と集まってくるのを見回しながらハチの疑問に答えた。
「その赤いのは、シンだ。そいつ用の武器が必要だ。オレが作るしかないが、素材に限りがある。みんなは、待ってくれ、今ゼオのを作る」
「専用の武器がいるんだな」
ハチは、ヒロがクラフトしているのをじっと見ていた。あの、光る剣がほしい。
ヒロは、主力のゼオを見た。ほとんど黒ずくめな感じだが、装甲は、自分のうろこが、固まったように見える。雷を使う関係で、普通の武器や防具が装備できないでいるのだろう。
「ゼオは、雷系か」
「まあな、殴りながら、電撃を打ち込むのが好きかな」
「今、武器を作る。戦うのは待ってくれ」
「さっきやってたやつか」
ハチが、思わず声を上げた。ゼオが、腕組みしてハチをにらむ。
「あわわわ、隊長から聞いたんだ」
おれは、ニコニコしながら、素材のナックルと、オリハルコン。スロット素材のレッドグローブに雷結晶を出した。レッドグローブを3つも出して3穴にする。オリハルコンも、2つ使って、とても重いカイザーナックルを作ることにした。
ゼオ用カイザーナックル
こぶしから手の甲にかけて伸びた、超硬金のナックル。手甲で、腕までをカバーしている。腕と、こぶしの間は、可動する。だから、腕の防御と、裏拳の攻撃コンボも、視野に入れたナックルになった。手甲の内側にスロットが3つある。
だが、ここ迄重くすると実用的とは言えない。ゼオに装着してもらうと、しっくりくる重さに、大満足してくれた。ゼオは、試しに電撃を撃っていた。
「ワハハハハハ、わしは、武器など、持ったことがない。だが、これはいい。手になじむ」
クラフターの特質だ。使用者が使いやすいようにカスタマイズする。触媒の雷結晶のおかげで、ゼオが得意とする電撃も、普段通りだ。
「シンと戦うときは、これを装着してください。仲間を救うこともできます。今度説明しますね」
「行くか!」
「オレたちは?」
「すまん、今度な」
残念そうな顔をするハチ。それでも、戦いぶりを見ようと、後に続くことにした。




