ポケットちゃぷちゃぷ
おれは、エルフの神官イルマに頼んで、ゲートを使わせてもらうことにした。十賢人の一人、若手のジェイドが案内を引き受けてくれた。彼の羽は、丈夫で、相当重い物まで持ち運べる。ジェイドが、浮き島の中央のゲートに連れて行ってくれることになった。
「ええっ、世界樹に繋がっているのは、この浮き島のゲートではないのですか」
「ジラーフの浮き島のゲートは、別の場所と繋がっているんだ。中央に本島があるから。そこに、世界樹につながるゲートがあるよ」
まさか、島上空ではなく、空を飛ぶ羽目になるとは!
ノーマが、本島を見たいと言うので、ノーマをジャスト召喚した。
いつものマスコットのような人魚が現れた。ノーマは、肩ではなくノーマ専用ポケットと共に現れる。そこで、ちゃぷちゃぷしながら、顔を出している。
「ラヴィの奴、アイテムがドロップして、体が大きくなったぞ。ノーマも、いつまでも、ポケットってわけにいかないぞ」
「えー ここが楽」
空中ちゃぷちゃぷを使うしかないかと思う。人魚が肩あたりをふよふよするオプションに、一緒に波がちゃぷちゃぷするエフェクトがある。とっても恥ずかしいエフェクトだが、人魚のノーマには向いた環境だ。
ラヴィばかり使っていたから、ノーマのレベルは、68しかない。たぶん強敵と戦うと、一挙にレベルが上がるだろう。アリーシャは、52とノーマより低い。それなのに、ステータスは、76もある。エルフの特質なのかと思う。
実際は、それだけ、ヒロの知らないうちに、アリーシャが、勝手にゲームにアクセスしていたということだ。いずれ、ばれるだろう。
スーザンとアリーシャに見送られて玄関から、飛翔してもらった。
「転生者の町の上空を飛びますね」
ジェイドの興味がそうさせるのだが、これから、話をしに行くイルマや、仲間の話がスムーズにいくようにとのデモンストレーションでもある。
大勢の者が、自分とジェイドを仰いでいる。なんだか連行されているみたいで、ちょっと恥ずかしい。ノーマが、それを言い当てる。
「ヒロって、連行されているみたいね。みんな、アッチャーって顔してる」
「言うなよ」
今日は、目立ってばかりだ。ゲームを始めて、こんなに目立ったのは、初めてだ。
「この島にあるゲートは、どこにつながっているんですか」
「バベルの塔と雷竜人の町グランだよ」
「いつから、あそこにあるんですか。自分から見ると、さっきあんな感じになったんですが」
「それが、分からないんだ。古い遺跡だよ」
「龍王様だと知っているかも」
やはり龍王に会わないといけないか
ラヴィのこともある。それにこの世界のことも心配だ。プレーヤーも大勢ここに巻き込まれているが、対処できないレベルになってしまっている。
「ジェイドさん、自分たち以外のことで、何か異変を感じましたか」
「いや、感じていない。でも、すごく嫌な予感がする。なんだろうね」
「そうですか・・」
やはり負の感情に侵食されるんだろうな
「ノーマ、サーチしてくれ。シン(罪)の発現を感じるかい」
「感じないけど、ここにも来るの?」
「ゲームが生きているんだ。そうなるだろ」
「だって、ここ、私たちの世界よ」
「一度、バベルの塔を調べに行くか」
「うん」
ノーマが、サーチ範囲を広げた。シンに侵食されると召喚獣にサーチされる。シンは、仲間を侵食して、勢力を広げようとするから、早く対処しないと厄介だ。主要な人たちは、ラヴィやアリーシャからゲームの話を聞いているだろうから、現実になれば、惑星ぐるみで対処するだろうが、浸食した者は、早期発見でないと助けることができない。仲間同士で戦うのだ。凄惨なことになるだろう。だが、最初に侵食されるのは、モンスターたちだ。エルフも人魚も、龍族も聖なる生きものだ。それでも、用心に越したことはない。龍王に警告せねば。
「ヒロ君、ノーマ、見えるかい。あそこが、本島だよ」
中央のゲートがある山を越えると、急に目の前が開けて、浮き島の島々が目に飛び込んできた。下に見える雲もある。本島は、巨大な浮き島だった。
「わーーー奇麗」
ノーマが、ポケットから落ちるのではないかというぐらい体を乗り出した。実際のノーマの時間帯は夜中だ。翌日は起きれないだろうなと思う。
「あんまり乗り出すなよ。落ちるぞ」
「私、浮くもん」
勝手にポケットの中を水浸しにして、ちゃぷちゃぷしているが、召喚獣になった時のノーマのエフェクトは、とても美しい。素体の体質に文句を言う気は、ない。
浮き島本島の上空に差し掛かりエルフの都市が見えてきた。建物が真っ白い。空の青とよく調和している。「上空から見るのは、初めて」と、ノーマの興奮は、冷めることがない。
「ちょっと、エルフ王に挨拶していきます?」
「ちょっとで、いいんですか」
「私達と、情報共有をしていましたから、ヒロさんたちのいきさつは知っています。ノーマはそのままでいいよ。エイブラハム様が喜ぶ」
そう言われて、ノーマがポケットに隠れた。
浮き島本島のゲートは、世界樹、貝の里、カナン山北の裾野の3か所と繋がっている。世界樹は、ワイバーンの住処。貝の里は、陸に上がった人魚の里。カナン山は、雷竜人たちや冒険者がいっぱいいる砦の町だ。ここは、カナン山から降りてくるモンスターたちを山に追い返している防衛の町だ。
十賢人ジェイドと一緒に嬉しそうにノーマをゲートまで見送りに来たエルフ王に二人は、手を振って別れた。ゲームだとゲートに入ると画面がすっと入れ替わるのだが、ここに入ると緑のバブルが、ほわほわしていた。
「ここに入るのか?」
「そうよ」
「ノーマは、世界樹にも行ったことあるんだよな」
「そっか、イメージできないもんね。大丈夫よ」
ノーマが、このフィールドで、世界樹をイメージすると、緑のバブルが、プルンと動いた気がする。
「いいわよ」
「そんな感じだな、どうなっているんだ」
「えーっと、ゲートは、ゲートよ」
「もっと具体的に話そうよ」
「一度行った所だと、イメージすれば、そこに行けるのね。だから、世界樹をイメージしたの」
「ありがと、貝の里がノーマの家がある所だろ、そこもよろしくな」
「本島の建物も真っ白だったけど、貝の里も、貝の家が真っ白で奇麗なの」
「いいね。それで、ラヴィの家は、世界樹の中腹っだったか」
「飛んでく?」
「高いのか」
「10キロメートルぐらい」
「それだと、最高峰クラスの山だから」
ノーマのは、ゲームの距離。実際の高さで、3300メートル。これでは、富士山だ。
「パグーの大気を維持している樹なのよ。これでも、まだ若い樹だって」
「ほかにもあるのか?」
「別の星にね。パグーには、この1本だけ」
とにかくゲートから出て、世界樹を見ることにした。




