出立
出発の時間が来た。みんな居住区の講堂に集合した。
サジタリウス号の内部構造は変わっていて、人がいる空間は、球状になっている。その玉のようなバブルがいくつもあって、中の床が回転する。その方が、重力制御をするより動力に負担が少ないからだ。回廊内は、とても危険な所なので、動力の確保に余念がない。
回廊内を進むときは、最初、加速し続け、中間から、減速し続けるという航法なので、バブルの中にいる人は、最初、頭の方に向かって船が進み、中間から、足の方に向かって船が進むことになる。艦橋とエンジンルーム、その周辺の重要部署は、通常航行目線の方に向かって進む。ここは、しっかりと重力制御がされている。回廊を出ると普通の宇宙船のように居住空間も重力制御下に入る。
艦内のバブルの中で、一番大きなバブルが居住バブルである。バブルは、メカニックで、重力をずっと足元にあるよう調節する。
そんな構造なので、講堂の席には、シートベルトが付いている。
ラヴィ達は、「窓の外見たい」「ドキドキするね」「オープンパネルがありますよ」などと言って、喜んでいる。
「みんな、いいか。最初は反重力を使ってパグーを離脱する。離脱すると一瞬無重力になるから、椅子に座ってしっかり安全ベルトを締めるんだ」
オープンパネルに、外の様子が映し出された。そして、発進のカウントダウンが始まった。ブリーフィングにも使うこの講堂は、艦橋と同じオープンパネルを使っている。控えのクルーや、職員が、多くここに集まってきた。
3,2,1,0 発進
艦が発進すると「イエーイ」とか「OH==」とか、結構、奇声を発している。理知的なエルフも、非番だと、普通に興奮するんだと思って、一緒にエンジョイすることにした。
みんなもすごいことになった。ラヴィは、万歳しているし、アリーシャは、「キャー」と、奇声を発しているし、シールケなどは下を向きながら、片目で、オープンパネルを見ている。それもそのはずだ。反重力のせいで、実際は、重圧がかかるところを、ふわっと、浮いている。それもとんでもないスピードで、パグーを離れて行く。オレなんか、ガクガク、ガガガガと、わけのわからない衝動にかられた。その中で、元々浮いているノーマだけは平常心。やっぱり、生で体験しないとダメなんだと実感していた。
艦橋から、航海士のお姉さんが、居住バブル向けにアナウンスしてくれた。ここには、クルーの家族も生活している。
「皆さん。サジタリウス号は、パグーを離脱しました。一挙に航海速度をあげます。安全ベルトを確認して下さい。それでは、艦長お願いします」
「出立!」
ドオンーーーーン
居住バブルは、進行方向に向かって垂直になった。
「オ、オ、オ、オ、」
一人で、この重圧に興奮して気合を入れた。でも、周りを見ると、シールケがちょっと下を向いているぐらいで、みなさん平然としている。変な気勢をあげなくてよかったと思った。アリーシャとラヴィは、光点になっていくパグーをずっと見ている。
「宇宙空間の起点速度に達しました。安全ベルトを外してください」
周りを見ると、ほかの人達もみんな、パグーに見入っている。
そうか、パグーは、故郷だもんな
自分だけ、傍観者的に見ていたのだろうなと思う。
「シールケも初めてなの?」
「宇宙に出るのも、そう」
ノーマが残念な感想を述べる。
「私たちって、召喚獣の時は、重力を感じないのよ。今度、生身の体で体験したい」
「ヒロの宇宙艇があるよ」
「これから、操縦を覚えるんだけどな」
土龍王が、おれにくれた船だ。凄まじい性能にしたと、エンジニアのディックが言っていた。まだ実物を見ていないので名前を付けていない。
この後、医務室に行って、簡単な健康診断を受けた。全員健康そのもの。Drマライヤは、ノーマに、「召喚獣は幻獣なんでしょう。幻獣を診断するのは無理ね。少し研究させて」と、ノーマの口の中を見ながら、「健康ね」と、言っていた。
Drマライヤに、もう、エンジンルームに行っても平気ですよと、言われ。おれは、テンションMAXになった。自分の宇宙艇に会える。アリーシャは、シールケたちに「男の子は、こういうので喜ぶのよ」と、言ってあきれていたが、おれは、昨夜から、ディックがくれた説明書をめちゃめちゃ勉強していたのだ。
エンジンルームに行き、エンジニアの、ザザムさんに、案内してもらって、格納庫に向かった。宇宙艇の操縦を覚えるのは、実物でシュミュレーションするのに限る。
そこに、ファイター乗りのグエンがやってきた。グエンは、雷龍族。カエラが、超人だと蜂族のハチに教えられ、カエラを探していた。ザザムさんに、宇宙艇のことをもっと聞きたかったが、出航直後だ。点検をしなくてはいけないということで、ここでお別れになった。
「カエラ探したよ。ファイターに乗らないか」
グエンは両手を広げて、カエラに抱き着かんばかりに迫ってきた。
「私は、ラヴィさまのメイドよ。そんなことしないわ。これは龍王様のご命令よ」
「なんだってー」
グエンもハチと一緒で、奔放な人だ。がっかりして、でも、速攻で立ち直って、仕事でなくてもいいからファイターの操縦を覚えないかと カエラに話していた。
一人で盛り上がって、一人で落ち込んで、ヒューベースのファイター詰め所に帰って行った。そのグダグダな感じの後ろ姿で、「カエラ、興味があったら、おれらのところに来い」と、男前に言ったが、みんなげんなりしていた。
アリーシャが、「男の子って、機械好きは、あんなのばっかりよ」と、みんなに教えていた。
90%合っているけど、おれはグエンさんほどじゃないと思う。一応、音楽も少しわかる。
「カエラは、ファイターに乗るの?」
「乗ってほしいですか?ラヴィ様」
「今のところは、オレの宇宙艇の操縦を頼むよ。ラヴィ達もそうだぞ。この宇宙艇は、3人で操縦するんだ」
「そうする。みんなも覚えるでしょ」
「我々もそうしますね」
「私も宇宙艇に乗りたいです」
シールケが、オレたちの話に食いついてきた。
「ごめんね」
「多分、行くと過酷な旅になると思うんだ」
「私、癒しの歌が歌えます」
宇宙艇の冒険はともかく、歌を聞きたくなった一行は、居住バブルの講堂に帰って、シールケの歌を聴くことになった。
オレは、その優しい歌声に、癒されると、思っただけだったが、アリーシャは、この歌に力があると観測していた。
「すごい。シールケの歌声は、癒し効果があるだけじゃない。シンを攻撃できる。エルフは、ある程度、そういう波動を出せるのね。その効果範囲が、とっても広いわ。シールケ、私にも癒しの歌を教えて」
「一緒に歌う?」
アリーシャが、シールケの歌に合わせて歌いだした。その歌声は、この居住バブルに響いた。一人、また一人と観客が集まりだす。いつの間にか、戦艦サジタリウスが発進した時ぐらい人が集まった。エルフの中には、その歌を口ずさむ者も現れた。いつの間にか、講堂は癒しの歌で満たされた。
オレたちは、エルフの船いいなーと、歌に聞きほれた。後に、アリーシャが、この歌をよく口ずさむようになる。




