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終末世界、キミの救世主  作者: 高倉ポルン
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7


 ゴーシュとロアが、平和な日々を過ごす旧王都。


「わぁ、兄さん! 雪ですよ雪!」


 それは冬のある日、廃墟の街にしんしんと雪が降り積もった。

 ひんやりとした教会内部だが、何時もゴーシュとロアが寝起きしている場所は地下にあり、故にその寒さは若干ではあるが少ない物だった。


 ガラスが無いせいで凍えるような風や、雪が入り込んでくるので、二人は事前に板を打ち付けて窓を閉じていた。

 おかげで真っ暗であるが、寒さは緩和されていた。


 真っ暗なままでは利便性に問題が生じるので、教会の中はキャンドルで明かりを保っている。

 入り口のドアを開けてキャッキャと喜ぶロアの姿に、ゴーシュは相好を崩した。


「そうだな」


「な、何ですかその温かいまなざしは……。非常に舐めたことを考えていませんか?」


「別に? ただ、歳相応で可愛いなぁって思っただけだ。うん、お前もまだまだ子供だな」


 一年には満たないが、長い間二人で生きてきたからか、ゴーシュもロアを妹としてみるようになってきていた。

 最近では彼女を女性として意識することすらなくなってきている。


「言っておきますが、兄さんは十八、私は十五! 三つしか変わらないんですからね!?」


「はいはい」


「あ! 馬鹿にしていますねぇ……っ! 食らえ!」


 ――ていっ! と声を出して、ロアはいつの間に用意していたのか、雪玉をゴーシュの顔面目がけて投げつけた。

 ゴーシュは慌ててこれを腕でガードする。


「ふははっ、ロアよ! そんなへっぽこな攻撃、兄には効かぬぞ! ……くおっ!」


 意気揚々と格好をつけた台詞を口にしようとしていたゴーシュだったが、それは股間に直撃した雪玉により妨げられる。


 その雪玉も、もちろんロアが投げたものだ。


「ふっふっふっ! 人と言うのは顔を狙われれば自然と顔をガードする姿勢に入ります。しかし、ガードしてしまうと視界は悪く、その隙をついて兄さんを攻撃させてもらいました! 私の作戦勝ちです!」


「くっ、このぉ……。いい度胸だ! 俺も反撃だぁ!」


 ゴーシュは雪の中に突っ込むと、雪玉を大量に用意し、「いざ尋常に勝負!」と言って振り向くと……しかし、そこにロアの姿は無かった。


「あれ?」


 拍子抜けしたゴーシュは、周囲を見渡して、教会の入り口に提げられた『流転神教会』の看板の下に座り込む彼女を発見する。


 近づくと、ロアの目の前には一輪の花。

 真っ白な花びらに、中心は紫色。雪に埋もれることも、寒さに枯れることもなく、雄々しく咲いているその花にロアは見惚れていた。


「……それ、何て花なんだ?」


 戦意がすっかりなくなり、花をめでるロアに心を和ませたゴーシュは、彼女に尋ねる。

 すると、小さく「……ロア」と呟いた。


「……え?」


 聞き返すと、彼女は立ち上がり、頭に積もった雪を払いながら再度告げる。


「だから、この花の名前はロアって言うんです」


「それってお前の名前だろ?」


「私の名前の由来がこの花なんですよ」


「あー、なるへそ。そう言われればどことなく色合いがお前に似ている気が……」


 そう口にすると、ロアはどこか悲しそうな表情を浮かべた。

 どうしたのかと声を掛けようとして、だがすぐにその表情は優しい笑みに変わる――が。


「ロア? なんで泣いて……」


「え? あっ、いえ。気にしないでください。――ただ、少し昔のことを思いだしただけですから」


 言われてゴーシュは閉口。昔のことを自分は知らない。故に何故彼女が泣いているのかを理解してあげられない。


 けれど、当の本人は特に気にした様子も見せずに、次の瞬間には笑みを浮かべていた。


「あと、髪色とか目の色のことを言っているのでしたら、兄さんも同じですよ」


 「確かに」と言って自分の髪を手櫛で梳く。立ち上がった後も、ロアの花を見つめて離れようとしない彼女は、ふと思いついたように手をポンッと鳴らした。


 ロアはゴーシュの方を向き、少し興奮気味にその顔を近づけると――。


「兄さん! 教会の花壇には、まだスペースがありましたよね!?」


「あ、あぁ。ネギとか育ててるだけだからまだ少し残ってる」


 花壇だと言うのに、何故ネギを育てているのか。育てているのはネギだけではない。


 花壇に植えてある物のすべては食用だ。二人で話し合った結果、観賞用にしかならない花を育てるよりも、食べることが可能な食材を育てよう、と言う事になったのだ。


「ロアの花は一年中花を咲かせる強い花です。この一輪だけで良いので、育てては駄目ですか……?」


「そんなにもこの花が好きなのか?」


「はい! 大好きですっ!」


 正直、冬を越したらその余ったスペースにはまた別の食材を、と考えていたのだが……。


 よく考えれば何を植えるかはゴーシュが決めるが、水を与えたり、雑草を抜いたりと世話をしているのはロアだ。

 もともと口出しする権利はない。


「あぁ、いいよ。俺もロアは綺麗だと思ったからな」


 言うと、ロアの顔が真っ赤になる。


「あ、あぅ……。き、綺麗?」


「……あ。違うからな! ロアの花が綺麗なんだからな!?」


「そ、そうですよね! はい、わかってましたから!」


 口ではそう言いつつも、あからさまにしょげている。

 そんな彼女を見てゴーシュは溜息を吐くと、恥ずかしげにそっぽを向きながら……。


「ま、まぁ、お前も綺麗だと思うよ。ほんと」


 かなりクサい台詞を言ってしまったと悶絶しそうになったが、対するロアはその表情に疑問の色を浮かべて。


「……え? なんと言いましたか?」


「な……っ!?」


「すいません。小さすぎて聞き取れなかったのでもう一度いいですか?」


「だ、だから、お前も……綺麗、だと……」


 言っている間に恥ずかしくなって声がさらに小さくなっていく。


「『お前も』? 『お前も』なんですか?」


 だが、容赦なく彼女は言葉の続きを促してきた。


 ――と、そこでハタと気が付く。ロアの口角が僅かに上がっており、口元がヒクヒクしていることに。


「お、お前まさか……っ」


「何ですか? さ、そんなことより早く綺麗なこの花を植えに行きましょう! 綺麗な私と……なんちゃって! あははー、兄さんはクサい台詞が好きですねっ!」


 まさに、花のような笑顔とはこう言うものかと、感心させるほどの笑みで告げる彼女にゴーシュの羞恥心は有頂天を越える。


「お、おまっ、お前っ! やっぱり聞こえてたのか!?」


「あははー、私も綺麗なんですかぁー。でも、私たちは血の繋がった兄妹……。兄さん残念でしたね!」


「う、うるさい! 止めろ! 俺の傷を抉るんじゃない!」


 からかい続けるロアに、ゴーシュは耳を塞いで蹲るしか

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