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終末世界、キミの救世主  作者: 高倉ポルン
6/30

5

 廃墟であるこの街には食料が無い。


 本や道具などと言った物はあちこちに散乱しているが、食料は別だ。


 ロア曰く、この街ではかつて争いがあり、それから逃れるために人々は街を出た。

 人が逃げると言う事は、食料も持って行くと言う事である。


 なので、ここでの生活のためには、食料調達が必須となる。

 幸いにしてお金はそこら中に落ちているので、それを持ってゴーシュたちは二人で街の外へデート、もとい食料調達に行こうとしていた。


「ふんふふんっ! そーとだ、外だ! 他のひーとに会えるかなぁ! ……あれ? そう言えば何でこの街にわざわざ住んでるんだ? 普通に外で暮らせばよくね?」 


 神様に礼拝するにしても人里で暮らしたほうがよっぽど暮らしやすいのに。と、今更な事を告げたゴーシュに対し、ロアは淡々と答える。


「その答えはもうすぐわかりますよ」


 淡白に言い放ち、数分後、彼女は唐突にカウントダウンを始めた。


 十から始まるカウントは、街の外に近付くにつれ数字を小さくしていく。

 やがて、街の外に出ようとした瞬間――カウントはゼロになった。


「いったい何……ぶがっ!」


 外へと向かって歩いていたゴーシュが突然何かにぶつかる。

 もちろん彼の目の前には何もない。

 ただ道が続いているだけ。

 実際にロアは一歩前に進めている。

 ゴーシュの目の前にあったのは透明の壁だった。


「こういう事です」


「いやいや、訳わかんねぇーよ! 兄貴を壁にぶつけといて何が「こういう事です」だ! 痛いよ! 普通に教えてよ! 意味がわかんないよ!」


 鼻を強打したことによる激痛があまりにもひどく、頭にきたゴーシュは一気にまくしたてる。


「兄さん落ち着いてください。きちんと説明しますから」


 そうして彼女は懇切丁寧に説明してくれた。


 曰く、これは魔法の一種だそうだ。

 魔法には、肉体強化系、近接戦闘系、遠距離戦闘系、防御系の四つの系統があり、この壁は防御系に属する物らしい。


 誰が使用したのかは教えてもらえなかったが『ゴーシュを外へ出さないと』言う魔法と、『ゴーシュとロア以外を中へ入れない』と言う魔法の二つが重ね掛けされているそうだ。


「え? じゃあ何? 俺はこの街から出られないの?」


「そうなりますね。……言ってませんでした?」


「言ってねえよ!? それ絶対言い忘れちゃダメな奴じゃん! 何で忘れてるの!?」


 責めるゴーシュに、ロアはかわいらしく舌を出して。


「大事な事って、結構言い忘れやすいですよねっ!」


 ――最初に言ったって思っちゃいますから!


 反省の色が全くうかがえないロア。

 故にゴーシュも黙っていられなくなり、彼女に掴みかかろうとして――。


「あ! くそ! こっちに入ってこい! ……あ! こら、一人で買い物に行くな! 俺も連れて行けよぉ!」


 叫ぶゴーシュだが、彼女は一歩外へと踏み出すと。


「あははー、ごめんなさいっ兄さん! デートって言った時の兄さんの顔。真っ赤になってて可愛かったですよっ!」


「は、はぁ!? おま、お前! 騙したのか!?」


「騙したとは人聞きが悪いですねぇ。ちゃんとここまでデートしてくれたじゃないですかぁっ!」


 大輪の花の様な笑みを浮かべてからかってくるロアに、ゴーシュは怒りを覚えて叫ぼうとした。

 ……が、彼女の笑顔を見ているとそんな気は失せていく。


 彼女は今、ゴーシュをからかって楽しんでいる。


 ゴーシュ自身それは非常に腹立たしいことではあるのだが……しかし、それでもどうしてだか、彼女が楽しんでいる姿を見るのが、堪らなく、心の奥深くから喜ばしいのだ。


「ごめんなさーい! おいしい物買って帰るので許してくださいねー!」


 呑気に叫びながら手を振るロアに、帰ったらチョップしてやろうと心に決めて、一人教会へと歩いて戻った。



  ★



 ――記憶を無くしたゴーシュ。


 その世話をするのは、少女にとっては嬉しい事であった。

 少女自身はそれ頑なに認めようとしないが、それでもはたから見ていれば彼女のブラコンぶりは丸わかりである。


 食料調達と言う名目でゴーシュと共に街を歩く。

 彼は外に出ることはできないが、記憶を失った兄と少しでも長く居たいと思った故の、このデートだ。


 歩いている彼の表情は晴れやかで、今と言う時間が楽しそうで仕方がない。


 ……兄さんは能天気そうで良いですね。


 ロアにとって、それはとてもうれしい事だった。


 自分の兄が何も考えずにただ笑う……記憶の有った頃の様に笑うゴーシュを見ていると、愛おしくなるのだ。

 もちろんそれは妹としての兄に向ける想いである。


 だが、彼の失われた記憶を知るロアとしては、現在彼が笑ってると言う事がたまらなく嬉しいのだ。


「ふんふふんっ! そーとだ、外だ! 他のひーとに会えるかなぁ!」


 馬鹿みたいな鼻歌を口ずさみながらスキップ交じりに歩くゴーシュを見て、ロアもクスクスと笑う。


「……あ、あれ!? そう言えば何でこの街にわざわざすんでるんだ!?」


 と、そこで何を思ったのかいきなり大きな声を上げる。


 ……そう言えば、まだ兄さんにお話ししていませんでしたね。ですが知るのも時間の問題でしょう。


 ロアは「答えはもうすぐわかりますよ」と告げてから数分後、カウントダウンを開始した。


 それはまさに無意識とも言える行動。

 自分の兄をからかいたいと言うちょっとした妹心。

 今この瞬間を、彼と共に楽しみたいと言う、心の奥底の想い。


 ……この、幻想だらけの今を楽しみたいと言う、ロアの我儘なのだ。

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