表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界、キミの救世主  作者: 高倉ポルン
5/30

4

「と、ようやく到着しましたね」


「そうだな。何と言うか……遠かった!」


 冒険者ギルドから出て、数時間も歩かされながらもようやく到着したのは、僅かに『流転神教会』と読めるプレートが下がった場所だった。


 教会のステンドガラスは砕け、しかし骨組みなどがしっかりしていたからかそれ以外にあまり損傷は見受けられない。

 汚れこそ目立つが、掃除すればそれなりの外観を取り戻せるだろう。

 中に入ると、砕けたガラスや埃でいっぱいなのでやはり掃除は必須の様だ。

 木製の長椅子が綺麗に並べてあり、中央の道をたどるとそこには一人の女神像。


 この教会が祀る、『流転神イーリア』の女神像だ。


「掃除は必要だけど、結構いいとこだな」


「もちろんです。井戸水もありますし、教会奥には地下へ続く階段があって、そこにはちょっとした部屋があります。そちらは比較的綺麗なので寝起き、並びに食事をする場所にするつもりです」


 ――それは良かった。とロアに返すと、彼女は教会から一度出てその周囲を回る。


 周囲には芝生が生えていて、青々としていた。

 教会の裏手に回るとロアが言っていた井戸を見つける。


 手押し井戸ポンプが取り付けてあり、苦労して水をくむ必要はなさそうだ。

 本当は水道を使いたいが、街はこの有様。水道は止まっているのだろう。


「……本当に、綺麗な場所だな」


 芝生の中に井戸。

 まるでどこぞの田舎のような雰囲気すら感じる情景を目にし、本当にここが廃墟の一部なのかと疑いたくなるほどだ。

 呟くゴーシュは、さらに花壇まで見つけた。


「花でも植えるのか?」


「あ、こんなところに花壇なんてあったんですね」


「知らなかったのかよ……」


「一度ちらっと来ただけでしたので、細かいところまでは知りませんでした」


「ふーん」


 返事をするゴーシュの横では、花壇を見ながら「何を植えようかな、どんな花が綺麗かな」と語尾に音符でもついていそうな程に楽しげなロア。


 彼女はもしかすれば園芸が趣味だったのかもしれない。


 ……それも、忘れてしまったのだが。


「兄さんも、一緒に育てましょうね!」


「あぁ、いいよ」


 可愛いところもあるじゃないか、と再認識しながらゴーシュとロアの教会での生活は始まった。



  ★



 ――夜。


 教会内の、特に寝泊りをする場所だけ掃除を完了させ、早速床につこうとしたのだが、そこでゴーシュはハタと気が付いた。


 ……隣に美少女が居る。


 ロアが眠るのも、ゴーシュと同じ教会の奥の部屋。

 つまり一つの小部屋に今日初めて会った少女と一緒に寝ると言う事なのだ。


 ……なんだ、この展開。どこのエロ漫画だよ。


 ゴーシュの胸中は興奮に煽られていた。

 チラ、と隣を見て見れば、わずかな窓から差し込む月光に照らされたロアの顔が見える。

 彼女からすればゴーシュは兄であり、故に警戒する必要が無いため、すでにその慎ましい胸が上下していた。


「……ゴク」


 思わず生唾を飲み込んだ。

 しかし頭では分かっている。これはいけない。

 もしここで問題を起こせば記憶を取り戻した時に酷い罪悪感を受けることとなるだろう。


 それに、もしバレたら唯一出会えた知り合いを逃がしてしまうかも知れない。リスクが大きすぎる。


 ……よく考えろゴーシュ! お前はこんなところで寝ている自称妹相手に興奮して襲うような変態魔人なのか?


「……ダメだッ! 記憶が無いからまったくわからん!」


 小声でもやもやとした胸中に対する葛藤を零すゴーシュ。


 うんうん、と悩んでいるとロアが寝返りを打つ。


「……んっ。兄……さん」


 長いまつ毛。

 愁いを帯びた唇。

 月光に照らされ美しい白髪。

 寝巻きからすらりと伸びた肢体の肌はとても肌理細やかだ。


「…………」


 ……これは、もう誘っているんじゃないだろうか?


 ゴーシュが記憶を無くしていると言う事を彼女は知っていた。

 それを承知の上で同じ部屋で無防備に眠りこけている。

 今だってへそが丸出しだ。

 据え膳くわぬは男の恥などと言う言葉がある位なのだ。

 これはロアの方が誘ってきている。

 自分は悪くない。


 そっとゴーシュは手を伸ばし、指先が上下する乳房の先に触れそうになった瞬間――。


「んっ、んあ……」


 小さく声を漏らしながら彼女が反対方向へと寝返りを打った。

 と、同時にゴーシュは腕を引いて立ち上がり、部屋を後にする。

 まだ掃除しきれていないガラスが飛び散った教会内をすたすたと歩き、外へ。

 大きく広がる夜空を見上げて息を吐いた。


「あっぶねぇぇ……」


 一体自分は何を血迷っていたのだ。

 どう考えれば「誘っているのでは?」と言う発想に至るのだ。彼女はただ信用していただけに過ぎない。


 兄であるゴーシュがそんなことをする人間ではないと、そう考えていたに違いない。

 だと言うのにここで手を出してしまえば、一気に信用を無くしてしまう。


 ……性って、怖いなぁ。


 等と考えつつも、だが発散はしなかった。


 ロアですると言う事は、彼女をそう言う目で見てしまうと言う事で、一度そのタガが外れてしまえば後戻りは出来ない。


「諸行無常、明鏡止水」


 煩悩が無くなるようにと祈りながら胡坐を組み、ゴーシュは瞑想を開始。


 結局、太陽が昇ってくるまでその瞑想は続いた。


「……兄さん、こんなところで何してるんですか?」


「気にするな。我が妹よ」


 起きてきたロアが声を掛けてきて、それに対するゴーシュの表情は酷く落ち着いた物だ。

 ……ふっ、この煩悩を消滅させた兄を見よ。

 ロアは今にも羨望の眼差しで俺を見て来ることだろう。


「なんか……キモいです」


「キモい!?」


 その容赦ない言葉に、ゴーシュは膝をついて首をたれる。

 見かねたロアは、クスクスと笑いながらゴーシュの耳元に口を持ってきて、呼吸音すら聞こえるほどの近くで囁いた。


「兄さん、お昼にデートしませんか?」


「……え?」


 ゴーシュは理解に時間を要した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ