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「ナイト……さん。遅れてすいませんでした」
――それと先ほどまでの態度も。と頭を下げたゴーシュの姿を見て、ナイトは苦笑を浮かべる。
ミリアやメアとの会話ですっかり毒牙を抜かれてしまい、素直に謝るゴーシュに対して傲岸不遜な態度を取ることが億劫になっていたのだ。
「いや、構わん。わかればいい」
「ありがとうございます。……で、何を話していたんですか?」
「ん? ああ、それは気にするほどのことではない。ただゴーシュ……あぁ、俺はお前のことをゴーシュと呼ばせてもらうが構わんか?」
「はい、大丈夫です」
「うむ。それでだな、あの撤退していく軍の中で二人ほど元気な女が居るのが見えるか?」
言われてゴーシュは目を凝らし、そしてミリアとメアの姿を捉える。
「はい……。って、え!? なんで無力化されてないんですか!?」
「茶髪の方は単純にその場にいなかったからだ。で、問題なのは金髪の方だが……」
ナイトはそこで一度言葉を区切ると、目を伏せ、顔に影を落として真剣な表情で告げた。
「金髪の方は、イーリアを殺した奴だ」
「……は?」
「金髪の方の名はミリア・ルーク。『ガンド帝国』最強の兵士にして神聖兵器『灰燼に帰す陽砲』の使い手だ」
いろいろと説明してくれているが、しかし右から左へとその情報は抜けて行く。
ゴーシュのアメジストの瞳にはすでに金髪の少女、ミリアしか映っていなかった。
彼女がイーリアの仇。イーリアを殺した本人。
「……そう、ですか」
「ほう? 激昂しないのか?」
ナイトの言葉に、ゴーシュは眉根にしわを寄せて、肩をすくめた。
「彼女にだって、家族が居ますから。その激昂と言うのが復讐の事を指すのであれば、俺はそれを行いません」
もちろん許した訳では無く、ただ彼女に対して怒りのまま仇討ちと言うことはしたくないのだ。
人を傷つけるのはロアもイーリアも望まなかった。だから自分もそれに倣う。
「そうか。……よし、だったら俺達も動くとするか」
「ロアとイーリアを生き返らせるためにですか?」
「まぁ、そうだな。兎に角今後のことを話したい。それにまだ互いのことを詳しくも知らないだろう? 成り行きで仲間になった感じだが、その辺ついても互いをちゃんと知るべきだ。どこか話すことが出来る場所はあるか?」
「……なら俺の家があります。ここ一年ずっと妹たちと使っていた教会は壊れちゃいましたからね」
イーリアの肉体を穿つあの砲撃により、近くにあった流転神教会も半壊状態だ。
とても落ち着けるような場所ではない。
「そうか、では案内してもらおう」
「えぇ。……ですがその前に一ついいですか?」
歩き出していたナイトの背に向かって一言声を掛けると、彼は振り返り「なんだ?」と言う。
「イーリアを、ちゃんと埋葬してあげたいんです」
「ふむ……。どこに埋めるかは、決めているのか?」
「はい、ロア――もう一人の妹の死体が埋まっている場所があります。その隣」
ゴーシュは、完全に昇った太陽を憎たらしげに睨み付け、しかし少し悲しそうな表情で呟いた。
「発狂して精神がおかしくっても、記憶はちゃんと刻まれるものなんですね……」
イーリアはゴーシュが自殺しない様に監視しながら、ロアの体をちゃんと埋葬していた。
さすがに研究員たちの遺体はグロテスクな状態で手つかずだったが、それでもロアは腹に穴が開いているだけで、一応の原形は留めていた。
イーリアは泣きながらロアの遺体を埋葬していたのだ。
「本来は兄である俺がするはずだったのに……」
だから、今度はゴーシュがする番なのだ。
寝かせておいたイーリアの遺体をお姫様抱っこの様に抱えると、歩き始める。
やがて到着したのはランペルージュ家。記憶の戻った今、迷うことは無かった。
血が抜け軽いイーリアの遺体をゴーシュは一人で運び、そして庭へ向かうと一か所だけ盛り上がった場所があった。上には木製の十字架がたてられていた。
以前来た時は夜だったので気が付かなかったが、ロアはここに眠っている。
だから、イーリアもここに眠らせる。ロアの横に穴を掘って、イーリアを埋める。
……涙がこぼれた。
……嗚咽が止まらなかった。
淡々と作業をこなし、しかし、作業内容が妹の埋葬だと思うと悲しみが爆発した。
でも、手は休めない。
埋葬を終えるが、ゴーシュはその場から動けない。
ただ涙を流して、子供の様に咽び泣く。
心に、『絶対に生き返らせてみせる』と誓い、泣き続ける。
それは、ゴーシュが妹たちを失い、初めて泣いた時であった――。
★
埋葬を終え、家の中に入ったゴーシュは、リビングへと案内し、自分と対面になるようにナイトに座るように促した。
座ると、お互いに軽い自己紹介をしてから早速本題に入る。
「おそらく難しい話をしてもお前には理解できないだろうから、かいつまんで話していく」
「お、お願いします」
「簡単に言うと、魔法を使って二人を蘇らせる」
「魔法……? でも魔法って遠・近距離攻撃系と、防御系、それと肉体強化系って、それだけしかないんじゃないですか?」
「確かに、一般的にはそうだが……ならゴーシュ。記憶を無くす魔法って言うのはどれに当てはまるんだ?」
「そんなの……あれ? 本当だ。そう言えばそうだ」
記憶を無くしたり、レレック・ノームを封印したり、さらにはロアを降霊させるなんて、普通の魔法では出来ないはずだ。
「……あ、あれか。古代魔法とか言う」
「ほう、知っていたか」
「いえ、その偶然と言いますか、イーリアがロアを降霊させた時の記憶が流れ込んできて、その際ロアが『イーリアの古代魔法で降霊してもらってるけど……』的な事を言ってたんです」
記憶のことを話すと、ナイトは不意に口元を歪める。
「そうか。なら理解しやすいはずだ。――俺はその古代魔法を使えばできると思っている。それも、今お前が言った降霊を使って、だ」
「降霊を使って?」
「ああ、まずお前の妹たちの新しい体を作る。そして、その肉体に降霊の魔法を使って魂を入れて……はい、お終い」
「そんな簡単に!?」
驚いて声を上げるゴーシュに、ナイトは一瞬だけポカンとした表情を浮かべた。
「……簡単? フハハッ!! 笑わせるなよゴーシュ・ランペルージュ!!」
「何を……」
「お前の中ではまったく同じ人間を生み出すことが簡単だと言うのか! いやはや、凄い頭脳だ。俺が長年研究し続けて、ようやく成功するかも? と言うところまでこぎつけた物を簡単……フハハッ! 笑わせてくれる!!」
「それは……なんというか、すいません」
知らなかったとはいえ、彼の長年の研究を馬鹿にしてしまったことに対し、ゴーシュは謝罪する。すると、ナイトは「構わない」と未だにくすくすと笑いながら言葉を続けた。
「それにな? ゴーシュ・ランペルージュ。古代魔法と言う物は本来使えないものなんだ。何せ誰も知らないものだからなぁ。それに、知っていたとしてもまず使えない」
「でもイーリアは……」
「そう、『現人神イーリア』は使えた。だがそれは彼女が神だからだ。魔法を発動するシステムである神。古代魔法はその神でないと使うことは出来ないものなんだ」
「神じゃないとって……てことはもう一度現人神を別に作れば……っ!」
神でないと古代魔法は使えない。ならば使える現人神を作れば問題は解決だ。
一度は成功しているのだから、時間はかかるだろうが作ることは出来るかもしれない。
だが、ナイトの言葉は冷たい物だった。
「無理だ。現人神何て代物、俺には作ることは出来ない。昔に研究内容を聞いたことがあるが……わけがわからん。人間特有のぶっ飛んだ話だから特に集中して聞いていたわけでもないしな。だから、現人神は作れない。今思えばアイツらは本物の天才――いや、鬼才だったのかもしれないなぁ」
過去を懐かしむように目を細めたナイト。
「そ、それじゃあどうやって古代魔法を使えば……」
不安げに表情を歪ませたゴーシュに、彼は人差し指を立てながら言った。
「神は作れなくても、神が作った物が世界には七つある」
「え……?」
「神が作った物には、神の魔法発動のシステムが少しずつ加わっている。だから、すべてを集めて研究すれば……古代魔法を使うことも可能だろう」
「その七つって、まさか――」
「そう、『神聖兵器』だ」
「で、でもあれは世界中の猛者たちが手にしていて、戦争が起こっている今借り受けることなんか……」
そこまで言って、ナイトは口元を歪める。
「だれが、借りると言った?」
「まさか奪う気ですか!?」
「なんだよ。もうすでに世界に戦争売ったんだから、気にすることもないだろ」
一瞬そんなことは無理だ、と思ったが、目の前に居るのは高祖。不可能を可能にするなど容易なことなのかもしれない。
「……確かに、それもそうですね」
「わかればいい」と傲岸不遜な態度をとるナイトに、今度はゴーシュが尋ねた。
「でも、どうしてナイトさんは俺に手を貸してくれるんですか? ロアとイーリアが生き返っても特にあなたにメリットは無いと思うんですけど……」
「それは簡単な話だ。お前を助けると言う事は神聖兵器使いを仲間に引き込めると言う事。それでいて、お前の望みを叶えると言う事は他の神聖兵器使いを倒すと言う事。他の神聖兵器使いが居なくなれば俺らの住む国『冥府』が『神聖生存戦争』を勝つ確率が高くなる。そして無事勝ち残れば……」
そこでニッと口元を歪めると。
「俺を含めた高祖が、世界を治める事となる! 世界が俺のモノとなれば実験し放題! まさに天国だ!!」
「お、おう……まぁ、そのアレです。なんかナイトさんは悪役みたいですね」
「ふむ、素直だな。まぁいい。第一、本当は世界を治めるとかは正直どうでもいい。とにかく神聖兵器使いが居なくなれば、俺の国の王様が喜んで実験費をがっぽりくれるから、と言うのが本音だ」
「ナイトさんは実験が好きなんですね」
「そうだな。肉体的強さを得ているせいか、知力をどうしても欲してしまうんだ」
「じゃあ、その知力で二人の肉体を作り出してくれるのを期待してますね」
はにかんで見せると、彼は愚問とでもいいたそうに口元を歪めた。
二人は一度固く握手し、棘の道を歩き出す。
★
――世は戦争が多発し、人々の命が軽く失われていく。
『教典』に記された終末まで残り十九年をきったことで、それらはさらに加速していることだろう。
人々は、言いようのない緊張に身を振るわせる。急いで戦争すれば死、戦争を回避し続けても死。
けれどそんな狂った世の中でゴーシュは、妹の為に世界に宣戦布告した。
終末を迎える世界でこんなこと意味がなのかもしれない。
それなら、終わりがあるのなら終わる前に己の目的を終わらせる。
ロアとイーリアを生き返らせて、そして二人に謝罪して残りの時間を生きる。
世界中のだれもがこれからどうすればいいかわからない中、ゴーシュだけは残りの人生を考えて動き始めていた。




