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終末世界、キミの救世主  作者: 高倉ポルン
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16

「戦闘は終了。私が倒したナイト・バロンは現在気を失っているので、そうですね……今のうちに体中の骨を砕きましょう」


 さらっととんでもないことを言うミリア。そんな彼女に撤退していた場所から戻ってきた兵士たちから

「えげつねぇ……」と声が上がった。


「そこまでやるなら、いっそ殺したほうが良いんじゃないですか?」


 兵士の一人が声を上げるが、それに返答したのはエドワード。


「殺せるなら殺したいさ……でも、残念だがそれは無理だ」


 高祖であるナイト・バロンの体を傷つけることが出来るのは神聖兵器である『灰燼に帰す陽砲』だけだ。そのほかの武器を使っても傷はつかないし、ミリアが戦闘中につけた傷もすでに治っている。


「だったら『灰燼に帰す陽砲』を使えばいいのでは?」


 兵の言葉に、ミリアは『灰燼に帰す陽砲』を虚空より顕現させて告げる。


「残念ですが、それは無理ですね。高祖との戦闘で『灰燼に帰す陽砲』は故障寸前。高祖を殺しきるほどの出力で砲撃を行えば確実に修理が必要です」


 ――そうなっては、防御魔法を破壊と言う目標が遂行できなくなってしまいます。


 いくら神から与えられた兵器だからと言っても、現実に存在し、物質として触れることが出来るのであれば壊れてしまうこともある。

 ナイト・バロン戦において蓄積されたダメージは『灰燼に帰す陽砲』を破壊寸前まで追い詰めていた。


 故に殺すことは出来ず、仕方なく動けない様に体中の骨を砕くのである。ただし、それもまた一苦労ではあるのだが。


「じゃあ、エドワード。やりましょうか」


「わかりました」


 皆が何をするのかわからず、その表情に疑問を浮かべているとミリアは唐突にナイトの足を持つ。

 彼女は現在もその身を肉体強化魔法『ハイ・ボルテージ』により強化状態に置いている。

 そんな彼女に倣う様にエドワードもまた、鉄扇を取り出してその身を強化した。


「「せーのっ!」」


 『ガンド帝国』最強と呼ばれる兵士、ミリア・ルークと稀代の天才である鉄扇使いのエドワードは同時にナイトの膝関節を反対にへし折る。二人がかりでようやく一本、と言うほどの高祖の肉体。

ミリアは表情に出していないが、エドワードは『同じ生物とは思えない』と言った表情だ。

時間をかけて両手両足の肘、膝関節を全てへし折り終わる頃には二人とも額に汗をかいていた。


「高祖って言うのは、どこまで化け物なんですかねぇ」


 愚痴を言うエドワードに、汗をぬぐいながらミリアが答える。


「少なくとも、同じ生物とは考えたくないですね……あっ」


「な、何ですか!? どうかしましたか!?」


 いきなり声を上げた彼女を心配するが、それは杞憂に終わる。


「すっかりキャラ付けを忘れていたにゃあ。むむぅ……、やっぱり猫耳も付けて雰囲気を出さないと私は個性無しのままなのかにゃ……?」


 馬鹿な事を言うミリアに、その場にいた全員が心の中で思った。


 ……あんたは個性の塊だよ、と。

皆が呆れ返る中「まぁ、いいにゃあ」と呟くと、彼女は顕現させた『灰燼に帰す陽砲』に命令を送る。


「『収束』。『エネルギー充填用意』……」


 狙うは戦闘途中の攻撃でひび割れた場所。防御魔法の内部に到着してから戦闘が無いとも限らないので、全エネルギーでは攻撃しない。言うなれば中レベルの攻撃を行うのだ。

 充填が完了すると、ミリアは呟く。


「穿て――『灰燼に帰す陽砲』」


 すると高出力のエネルギー波が射出され、その光りは朝焼けの空を裂き、一直線にヒビの中心へ。間違いなく破壊できると誰もが確信した。


 ――が、その軌道上に突如としていくつもの防御魔法が展開された。


 その数は二十。一つ一つの強度はそれほどではないのか一枚目は用意に破壊することが出来た。しかし、それがいくつも重なるとなると……。


「今度は一体なんですか……」


 十六枚目にしてエネルギー波はその威力を無くし、四散する。愚痴るミリアは「補足」と呟くと、防御魔法のその先を見やった。


 人知を超えた神聖兵器、『灰燼に帰す陽砲』の能力の一つである補足は対象を狙うだけではない。

 神の祝福を受けたと言っても過言ではないその肉体は人外の域に達し、単純な視力で言えば数キロ先まで見ることが出来る。


 ミリアは退廃した街の中にこちらを睨み付けている人影を見つけた。そして理解する。


 その人影が、今の多重防御魔法を展開したのだと……。


 確かに防御魔法の内部には二人ほど人が居ると聞いていた。だが、それでも人だ。


 魔法を使用するには対価が必要で、同時にあれほどの魔法を使用するなど神聖兵器や神器を使用しても不可能。魔法の多重展開など『世界の理を逸脱している』。


「一体……あれは……」


 戦慄するミリアに対し、周りは未だ状況についていけていない。「どうする?」と頭を抱えて脳をフル回転させる。

 自分は知将ではないので思考は苦手としているが、この中で最も状況を理解しているだろう。だから足らない頭で考え――ふと頭をよぎったのはナイト・バロンの言葉だった。


「『現人神計画』……」


 あの強固な防御魔法を作ったのは現人神イーリアだとナイト・バロンは言った。そして現人神は魔法を自在に操れるとも、彼は言っていた。


 ……どうして私はこんなことにも気が付いていなかったのですか。


 ミリアはその表情を苦々しい物へと変える。


 防御魔法を使ったのが現人神と言う事は、つまり、防御魔法を使った人間は死んでいないと言うこと。

 帝王ガンドの会話と命令から防御魔法を使ったものは死んで、壊せば任務は終了と先入観が思考の邪魔をしていた。


「死んでないのですね?」


「ミ、ミリア様、いったいどうなって……」


「皆は避難してください。今から本気を出しますので……」


 あの強力な防御魔法を作った現人神。そんな彼女が今どこにいるのか? そんなの決まっている。

 実際にミリアはその目で人知を超えた能力を見た。見てしまった。


 異常とも言える魔法操作……つまり――。


「現人神討伐……神殺しは初めてですね。最大出力充填……完了ッ!」


 防御魔法は、実力行使で粉砕することも可能だが、対処法はそれだけではない。

 術者を殺害すれば、魔法は消失する。

 だが、この一撃を放てば『灰燼に帰す陽砲』は故障してしまうことだろう。


 そうなれば一度『ガンド帝国』に戻り修復の必要があり、その間は国最強の兵器が使えなくなるわけで……これはとてもリスクのあることだと、理解していた。


 だが、いや、だからこそ。


「血が騒ぎます……」


 ……危険であるほうが楽しい! スリルが無いと生きていけない!


 やはり自分は他人のことを考えない化け物だなぁ。と思いながらミリアは叫ぶ。


「穿て――『灰燼に帰す陽砲』ッ!!」


 放たれたのは、その場にいる誰もが見たことのない威力の攻撃。

 その名に恥じない、否、それ以上の、見たものすべてが息を飲む一撃だった。


 世界が砲撃の光で真昼のように明るくなり、衝撃波は嵐を錯覚させる。

 寸分の狂いなく射出された攻撃は、追加で展開された防御魔法を、水に濡らした和紙を破くかのように破いて、一直線に突き抜けていく。

 それは――白髪の少女へと向けて。


 狙われたロア――いや、現人神イーリアはその口元に緩やかな弧を描く。


 それは当初の作戦時刻から十五分遅れた五時三十分のことであった。

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