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終末世界、キミの救世主  作者: 高倉ポルン
16/30

15

 エドワードは戦況を確認するために、ミリアとナイトが戦っている場所を見下ろせる位置に移動する。

 大勢で来る必要もないので連れてきたのは副隊長の男だけだ。


 岩陰から身を乗り出して様子を伺おうとした瞬間、顔すれすれのところをまばゆい閃光が駆け抜けた。


「おわぁ!」


 堪らずひっくり返り、尻餅をつく。今の閃光が何だったのか、エドワードは一瞬で理解できた。あれは 『灰燼に帰す陽砲』の射撃。

 戦闘の間にミリアが放った流れ弾が飛んできたのだ。


「エドワード様! 大丈夫ですか!?」


「あ、あぁ。ちょっとびっくりしただけだ」


 言って再度岩陰から顔を出して眼下を覗くと、そこでは想像を絶する戦闘が繰り広げられている。


 目も止まらぬ速さで神聖兵器を操り、射撃だけでなくその頑丈さを生かしての物理攻撃や、足場にしての移動を繰り返すミリア。

 そのミリア相手に魔法も使用していないにも関わらず、容易に相手をする高祖ナイト・バロン。


 次元が違う、と理解するのにそう時間は必要なかった。


「にしても、さっきは別にあんなこと言わなくても良かったんじゃないですかね?」


「さっき?」


「ミリア様の身の安全の事ですよ」


 副団長の言葉に、エドワードは「あぁ」と言ってから淡々と告げる。


「ああでも言っておかないと、もしもの時あいつ等が逃げることを躊躇するかもしれない。俺だってこのメンバーとはすでに数か月の間一緒に過ごしている。できれば誰も死なせたくはないんだ」


 二人の間にそれ以上の会話は無かった。状況の把握を終えると、二人は急いでみんなの下へと戻った。



  ★



 鳴り止まぬ爆音と大きな振動。

 まだ薄暗い空に時たま迸る灰燼に帰す一撃。


 ナイトとミリアの戦いは熾烈を極め、すでに二人とも肩で息をするほどに疲労していた。

 そしてその時、ナイトは絶対的強さを持つがゆえに油断を生じさせ、ミリアはその隙を見逃さない。

 己の防御に回していた五台の『灰燼に帰す陽砲』の内、四つを移動させ一斉射撃を行う。


 しかしそれはナイトではなく、彼の後方――防御魔法へと一直線に伸びていた。


 高祖と相対しているにもかかわらず、自分の防具とも言える『神聖兵器』を攻撃に回すのは自殺行為と言えるが、しかしそれは杞憂に過ぎる。


 ナイトにそんな余裕はないのだから。


「……クッ!」


 苦悶に表情を歪めながら目にもとまらぬ速さで三台の射線をズラすことにナイトは成功。


 しかし一台のみ防御魔法への射撃を許してしまった。

 それも先ほどとは比べ物にならないほどの威力を孕む砲撃。

 衝撃で粉塵が舞い上がり、生じた風がナイトの髪を揺らす。


 伸びる一撃は防御魔法に直撃し……僅かに透明な壁にひびが入った。


「よしっ!」


 歓喜の声を上げたのはナイト。

 ミリアは先ほどよりも威力を高めたと言うのに破壊にまで至らなかったことに苦い表情を浮かべた。


「どれだけ頑丈なんですかッ! あんなものどう考えても人間の代物じゃ……」


 愚痴をこぼす彼女に、ナイトは口元を歪める。


「なぁ、戦闘姫……いや、ミリア・ルークよ」


 戦闘姫と口にした瞬間鋭い睨みを向けられ、ナイトは両手を上げながら言い直す。


「なんですか?」


 言い直しても尚不機嫌そうにナイトを睨み付けながら『灰燼に帰す陽砲』の銃口を向けるミリア。


「そんなカリカリするなよ。ちょっとおしゃべりタイムだ。お前も疲れただろ? それに、こっそり俺を倒そうなんて企んでるお前の仲間の為にも時間は欲しいんじゃないのか?」


 明らかに自分の息を整えるための時間稼ぎ。

 だが、彼が言っていることも本当で、ミリアも少し休息が欲しかった。


 また、エドワードが何かを企んで動いていることにも気づいている。


 気付いていて、そんなことをせず早く撤退して欲しかったからミリアはどさくさに紛れて彼の方向に砲撃を放ったのだ。

 この戦場がどれだけ危険を訴えるために……。


 しかし、おそらくは今も、馬鹿みたいに作戦を練っているだろう。


「……わかりました。要求に応じます」


 言って彼女は一つを残して他すべての神聖兵器を消し去る。


「まぁ全部消せって方が無理な話か」


「当たり前です。で、お話とはなんですか?」


 すると、ナイトは人差し指を立てながら、


「お前に何で防御魔法があれほど強固なのか。その理由を教えてやろうと思ってな」


「知っているのですか!? まさか、あの防御魔法を展開させたのは……」


「いや、それは違う。あれを展開させたのは俺達ではない」


 ミリアは予想を真正面から否定されて不機嫌そうに頬を膨らました。


「だったら、一体なんなんですか? あの強固さは。『灰燼に帰す陽砲』を使用してようやくひびが入ったほどの強度。まさに異常としか言いようがありません」


 答えを急かす彼女にナイトは――。


「そうだな。まず何から説明すればいいかわからないが……なぁ、ミリア・ルーク。お前は旧王国が秘密裏に行っていた実験『現人神計画』と言うのを知っているか?」


「『現人神計画』?」


「秘密裏にやってたから知らないのも無理はないか……。あれはもう十年も昔のことだ。旧王国に居た学者の一人がこんなことを思った。『神を降臨させて戦わせよう』と。神本人が戦うのだから魔法を使い放題の最強の生物兵器。そんな夢物語を吐いた馬鹿な学者は、しかし、研究が進むにつれてそれらは現実味を帯びてきた」


 ナイトの話をミリアは言葉を挟むことなく聞く。


「だが、神本人を降臨させるのは不可能。故に肉体を用意して、魂のみの降臨と言う形で実験は進んでいた」


「魂って……そんなこと」


「ああ、もちろん本当に魂ってわけじゃあない。もともと旧王国の学者連中は神と言う物を生物としてとらえていたわけではなく、世界の魔法と言う現象を管理するシステムのようなものと認識していた。だから、やろうとしていたのは肉体にシステムを書き込み、魔法を自在に操れる人間の誕生」


 つまるところ、旧王都は本来対価を払わなければ使えない魔法を、対価無しで使えるようにすると言うチートを、国ぐるみで編み出そうとしたのだ。


「そして、誕生したのが、旧王国が信仰していた流転神イーリアの現人神。魔法を自由自在に操れる、最強の兵士。だが、それに神としての自覚は無い。現人神イーリアは異常なシステムを組み込まれた、普通の女の子だった」


 最後にナイトは「つまり」と付け加えて一言。


「あの異常なまでの強固な防御魔法は現人神イーリアによるものだ。対価無しに、最強硬度の防御魔法を張ったんだよ」


 聞き終えると、ミリアは「なるほど」と呟いてから顔を上げる。


「……今の話を聞いていくつか疑問が生まれました」


「なんだ?」


「まず一つ。何故、そのような最強の兵士が居たにもかかわらず旧王国は敗北し、名を奪われたのですか?」


「簡単な話だ。ただ相手の方が一枚上手だったってだけだ」


「上手?」


「あぁ。旧王国を侵略しにやってきたのは『天の地』の天使の一人。名前は確か……レレック・ノームだったか? そいつが『天の地』の神聖兵器『俊英なる武翼』を手にして、奇襲したんだ」


「天使と言えば気分で国を攻めるほどの迷惑極まりない存在ですからね。なるほど……確かにそれでは負けたのも納得です」


 ミリアは何の疑いもなくナイトの言葉に納得した。


 たった一騎で国一つ落とすなど、普通できることではない。

 が、それが出来るのが『神聖兵器』である。今回は天使の身体能力も大きくかかわっているのだが。


 世界最強の生物が高祖であるならば、次に来るのは混血の吸血種ではなく天使だ。

 背に翼を持つその種族は、数こそ少ないが圧倒的戦闘力を持ち、その全員が『神聖兵器』を扱うことが出来る。


 本来、『神聖兵器』の使い手になるには、まずその信徒であると言う事を第一条件とし、最終的には選ばれなければならない。


 だが、天使は全員が使える故に、『ガンド帝国』は早急に『天の地』を滅ぼすためにミリアを戦場へと送っていたのだ。


「じゃあ、負けた理由はわかりました。もう一つのことを問うても構いませんか?」


「今はおしゃべりタイムだ。好きなだけ聞け。俺に不利になること以外なら何でも教えてやる。俺は戦争には興味ないからな。こんな情報は持っていても意味が無い」


「では遠慮なく。と言っても、もう一つの質問はまさにそれ。どうしてそんなことまで知っているんですか?」


 ナイトは記憶の中を探ってどうして自分がこんな知識を手に入れたかを思い出す。


「確か……そうた! 攫いまくった人間の中にそれ関係の人間が居たんだよ。それも責任者とかなんとかって……。あれ? 今思ったけど結構すごい奴だったんだな」


 攫った中に居た。そして凄い奴だったと言う過去形。ミリアは思わず顔をしかめた。


「その人達を、どうしたのですか?」


 ミリアの問いにナイトは「ん?」と振り向いて、平然と告げた。


「殺したにきまってるだろ?」


 聞いた瞬間、ミリアは理解する。

 ……今、少しの間言葉を交わしましたが、やはり和解の道は無いですね。


 この男は私利私欲の為に人を攫い、そして殺す。

 実験と銘打って悪辣な行動を繰り返す様は、まさに悪魔の所業。


「おしゃべりタイムは終了です高祖! 私は今すぐあなたを葬り去ると決めました――『灰燼に帰す陽砲』ッ!」


「おうおう、それは残念。……では、再開するかッ!」


 ミリアは直していた四つを顕現させその瞳に殺意をみなぎらせ、高祖はひょうひょうとした様子で構えを取る。

 彼らの息は、すでに整っている。

 化け物対化け物の戦闘が今――再開された。


  ★


 ナイトの放つ拳は、爆撃にも等しい物だ。

 一撃で地面にクレーターを生み出すほどの威力は、さすがは高祖としか言えない。だがミリアも負けてはいない。

 男と女と言う生物的ハンデに加え、人間と吸血種と言う種族のハンデまで追っているにもかかわらず、彼女が受けた攻撃は先ほどの一撃だけだった。

 それは彼女の持つ才能が計り知れない物であるから――。


 ミリアの生まれた家は決して裕福ではなかった。

 母親はスラムの娼婦。学が無く、教えてくれたことと言えば『粋がっている男ほど租チン』と言う下品なことくらい。


 その家庭で育ったミリア・ルークは昔から感情が顔に出ない少女であった。

 ポーカーフェイスと言えば聞こえはいいが、楽しいと思っているのに笑えない。悲しいと思っているのに泣けない。

 怒っているつもりなのに、怒りを露わにできない。


 人とのコミュニケーションで最も相手の感情を理解するのに役立つのは『視覚』である。

 相手のわずかな動き。視線、表情。言葉は二の次だ。


 だから、ミリアは人と関わり合うことが苦手だった。

 楽しい場に居れば興ざめさせてしまう。

 悲しい場面では周りから嫌悪感を抱かれ、怒りの場では相手に舐められる。


 正直、自分は呪われているのだと思っていた。


 ――だが、ある日のことだ。


 少女ミリアは喧嘩をした。

 相手は街で一番の暴れん坊。

 理由は少年が悪さをしていたからである。

 その時のミリアの年齢は九つ。相手は十二だった。


 誰もが結果は明白である喧嘩であるが故に、ミリアに止めるように言う中、彼女は一歩も引かずに殴りかかった。


 初撃。少女のやわなパンチは効いた様子もない。


 第二撃。彼女のひ弱な蹴りは、やはり効いた様子もない。少年は笑ってミリアを突き飛ばす。


 そして、第三撃。

 近くに落ちていた木の棒を手に取ると、ミリアは彼の鳩尾を突いた。


 殴る蹴るの攻撃では効果が無い事はわかったので、突いたのだ。


 結果、少年は怒る。技術も何もないただの攻撃だが、当たればただでは済まない。


 普通なら恐怖に泣き出してもおかしくは無い状況で、ミリアは生まれて初めてその口元に笑みを浮かべていた。

 齢九つの少女は、怒りに任せて攻撃を行う少年を見て勝ちを確信したのである。


 乱雑な攻撃はよく見れば前動作で何が放たれるのかが予測できる。

 攻撃を回避し、がら空きの足に棒を打ち付けて転ばした。

 痛がる少年の上に跨ると、ミリアはその目に歓喜を浮かべて殴打を行う。


 もはやそこに正義感は無かった。


 彼女が少年との喧嘩の中で思ったこと。

 それは……表しようのない『興奮』。


 すべてが終わったときには、少年は意識を失い重傷だった。

 周りがやりすぎだと言う中、ミリアは興奮に燃え尽き、そして確信した。


 ……自分には戦闘の才能があると言う事を。


 ただ、これだけでは終わらない。

 ミリアの才能はただ単の戦闘だけでなく、武術、剣術と言った技術の面に関しても潜在していたのだ。


 そんな彼女は数多の戦場を駆けて未だに無傷。

 人々は戦闘時にのみ笑うことから敬意と軽蔑を込めてこう呼んだ。


 ――戦闘姫。


「――はぁ」


 数度の攻防を終え、自分たちの実力が五分五分だと悟ると、ミリアは短く息を吐き、同時にポケットに手を入れ、その中の物を握りしめる。


 ……これを使うのはあまり気が進まないのですが、しかし高祖相手に出し惜しみもしていられませんか。


「何だ? 今度は何を見せてくれる?」


「これは自分の力ではないので本当は使いたくはないですが――殺すためには仕方がないです」


「ほう?」


 ミリアの挑発に口角を上げるナイトをしり目に――。


「――『求めるのは力。己が肉体を強化する力』」


 ナイトはその言葉を聞いて眉根をピクリと動かした。


「――『岩をも砕き、大地を割るその力。対価が見合うのならば、どうか我に授けたまえ』ッ!」


 告げると同時にポケットから出した彼女の手には輝く美しい宝石。

 欠片で家が買えるとまで言われている最高級の鉱石をミリアは天に掲げた。


 瞬間、鉱石がブレたかと思うと、すでにその手から消失している。


「対価を支払ったか……つまりお前は……ッ」


「えぇ、魔法なんて本当は使いたくはないのですがね。魔法――『ハイ・ボルテージ』ッ!」


 ミリアの華奢な体を黄金の光が包み込む。それはまるでエドワードの時の様で……。


「だが、いくら肉体強化の魔法を使ったとしても、それは人間の域は出ないぞッ!」


 ニヒルに笑い、ナイトは叫ぶ。


 だが、その笑みは徐々に信じられないものを見るかのように戦慄の物へと変わる。


「実はですね。私は……と言うよりは『神聖兵器』使いと言うのは神の武器を持つが故に、神のお気に入りでもあるのです」


「だから……」と言葉を続けるミリアの体を包んでいた黄金の光は緩やかに赤く変色していく。


「だから、私が魔法を使うと、通常の数倍以上の効果が出るんですよ」


 ――だが、それではこちらが強すぎて戦闘を精一杯楽しめない。


 告げるミリアの表情。赤い光と髪の毛に隠れて見えにくいが、しかしわかる。


 感情が大きく動いた時以外、その表情に変化を表さなかった彼女が戦闘について語る時、笑みを浮かべるのだ。

 まるで鬼の様だと、ナイトは思う。


「行きます」


 短く吐くと、瞬間ミリアは『神聖兵器』をナイトの視線上に移動させ、自らの姿を一瞬死角へと移し、死角が無くなったときにはナイトは彼女の姿を見失った。


「……早いッ!」


 一瞬の焦りを浮かべるナイト。彼は落ち着けと己に自己暗示をかけると、その目を閉じる。隙だらけの姿に、高速で移動していたミリアは躊躇いなく仕掛ける。


 円を描くようにナイトの周りをぐるぐるとまわり、『今だ!』と思うと一気に接近。

 ナイフを構えて背後から突き立てる。

 先ほどとは違い、身体能力が大幅に上昇した今ならば『神聖兵器』の補助なしでも容易に切り裂くことが出来る。


 ……狙うは首の後ろ。後頭部の少し下。


 振りかぶり、薙ぎ払おうとして……ナイトがこちらを向いた。


「なッ!?」


「いくら高速で動こうと、足音でバレバレだぁ!」


 ナイフを弾かれ、しかしミリアは一瞬驚きこそした物のすぐに平静を取り戻す。


「魔法を使っても俺には勝てない! もう底が知れたなぁ! 」


 勝利を確信し、笑うナイトは手を振り上げて打撃を行う。


 ――が、ミリアはとっさに後方へと仰け反ることで何とか回避。


 ……貧乳でよかったと思ったのは今日が初めてですね。


 胸が有ったら即死だった。そんなことを考えながら距離を取り、ナイトに向き直る。


「ふははっ! よくぞ避けた! 見事! 見事な貧乳!」


「……縊り殺してやりましょうか?」


 ……いや、今ここで怒るのは良くない。


 怒りは洗練された動きの邪魔でしかない。むしろこちらが怒らせる勢いで行かなくては。


「ナイト・バロン。私の母が言っていました。――粋がる男ほど、租チンだそうですね。つまり、貴方のそれは、きっと豆粒以下でしょう」


 にっこり笑顔で挑発すると、ナイトの顔が固まった。


「……ぶっ殺す。この洗濯板」


「それはこっちのセリフです。ミクロサイズ」


 二人は睨み合い……同時に衝突した。拳と拳が交じり合い、だが、どちらの攻撃も当たることは無い。

 超常的感覚を持つナイトと鬼才ミリア。二人の攻防は五分と五分。


「この無い乳! 胸骨を陥没させてマイナスにしてやるッ!」


「ハッ、やれるものならやってみたらどうですか? あ、小さすぎてヤれないですよね。無理言って申し訳ありません」


 ミリアの言葉にさらに怒り心頭のナイトは、顔をゆでだこの様に真っ赤にさせて、遂にはその攻撃に斑が生じ始める。

 それはほんのわずかな物。

 ミリアも怒り状態ではきっと見過ごしていただろう程の攻撃の斑。

 しかし、見逃さなかった。


 相手を高祖と見込み、すべての感情を戦闘に集中し続けていたからだ。


「この租チン高祖。さっき私の底が知れたと言いましたね?」


「黙れッ!」


 ミリアの問いに、だが、ナイトは怒りでそんなことは聞いていない。


「はぁ……」と溜息を吐くと、冷たい目で見つめて……。


「底が知れたのは貴方の方です、高祖」


「何? ……がっ!?」


 ナイトは後頭部に強い衝撃を受ける。

 それはミリアが動かして超高速でぶつけた『神聖兵器』による物理攻撃。

 頭部を殴られてよろけているナイトの顎をミリアの強化された拳が穿つ。

 すると脳が揺れて彼はその場に転げた。


「未知数の能力を見せれば油断しない様に私に集中する。私に半分以上の集中力を裂いた状態で、常に動き回る『神聖兵器』には対応しきれなかったでしょう?」


「く……ッ! だが、これくらいで……ッ」


「いや、終わりだ」


 諦め悪く起き上がろうとしたナイトの脳天に天から降ってきた一人の青年がかかと落としを食らわす。青い髪を振り乱しながら鋭い目で敵意を剥きだすのは『神器』の使い手、エドワード。

 奇襲を受けたナイトは意識を失った。


「ミリア様。よく御無事で」


「美味しいところだけ持って行きましたか。……いえ、別に嫉妬をしているわけではないですが、それでもどうせなら決着が着くまで見守っていて欲しかったですね」


「それはできません。貴方のその慎ましいお胸を馬鹿にしたナイト・バロンは何としても倒したかった。その為にせっかく立てた作戦を放棄し、何とか理性で最善のタイミングで飛び出したのです」


 どうしてこのタイミングで現れたかを説明するエドワードの瞳はいたって誠実のそれだ。


 ミリアの軽蔑の色で染まった瞳とは大違いである。


「大丈夫です、ミリア様。報告はきちんとミリア様が倒したことにしておきますから。ミリア様は少しでも休んでください」


「あの、あのあの。ずっと思っていたのですが……」


 淡々と話を続けるエドワードに遅れてミリアが声を掛ける。


「なんです……か? え? ちょっと、『灰燼に帰す陽砲』の銃口を向けないでください! 俺はただミリア様のちっぱいを……」


「ちっぱいとか言わないでください」


 エドワードの脳天を『灰燼に帰す陽砲』の本体が直撃した。


 ……砲撃しないだけ感謝して欲しいものですね。

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