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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

トラックミーツガール

 俺はいつものようにトラックを運転していた。

 なんのためかって言えば仕事だからだ。


 結果から言えば……その、油断というか意図的なものではないにしろ、全部俺が悪い。

 いくら仕事が忙しくても、それにくわえて実家の方でいろいろと面倒があったにしても、運転中なのだ。

 居眠りはアウトだし、寝ちゃいけないなんて誰でもわかってる。


 それでも、睡眠は死神のように俺の意識を刈り取って、気がついたら事故っていた。

 いつ寝たかなんてことも気づかないままに、交差点に突っ込んで。


 最後に覚えてるのは女の子の驚いた顔だ。

 あの瞬間すべてがスローになって、ブレーキを踏んで、必死にハンドルを切ったけど間に合わなかった。


 かくして、俺は交差点で女の子を引っ掛け、そのまま壁に激突して死んだ。




***




 目が覚めると、そこは白い空間だった。

 ゲームで言うならテクスチャもいらないし楽だなって感じの。

 それでも黒いよりかは開放的でいいかもしれない。


 そして目の前に、見知らぬ少女がいた。

 白髮の姫カットに、白い和服のすごい豪華な奴着てる女の子。

 しかも可愛い。


 だが、その少女は口を開くなり


「うん、わしゃ神様じゃ」


 と名乗った。


 うわ身もフタもねえな。

 あと、ちょっとネタが古い感じのところが余計神様っぽい。


 運が悪いことに、この空間ではウソかホントか、というのが何故かわかってしまうらしい。


「まあ、うすうす感づいておるじゃろうが、おぬしは死んだ。そしてここはその魂の行き先を決める神聖な場所でもある。と言っても、なにもない。余計なものがあるといらぬことを考えるから、というだけなのじゃが」


「はあ」


「無理もない、まだ混乱しておるのじゃろ?」


 そりゃそうだ。

 死後の世界ってこういうものかというのもあるけど、なにより気分がふわふわしてるし。

 さらに言うなら神様とやらが友達感覚だ。

 幼なじみとでも言うべきそんな感じでアバウトに接してくるし、俺のほうもそうしていい気がする。


「そりゃそうじゃ。おぬし、いまは魂だけの精神体であるからの。ふよふよしておるぞ」


「なっ!?」


 ああ、言われてみればたしかにそうだ。

 体もなければなにもない。ただの光の玉っぽかった。


 すげえロード画面っぽい。

 ちょっとだけ操作できるけど移動しか出来ない感じの。

 ちなみに、移動をやめると勝手に中央へ戻ってくる。

 あと、神様の横までは移動できない。


「それでな、じつはおぬしを見込んで頼みがあるのじゃ」


「いやです」


 うん、悪い予感しかない。

 こういう上下関係ぽいところでの頼みで、内容が良かった試しがない。まるでない。

 だいたいもったいぶっていうことは全部悪い知らせであり、しかも条件が悪いのに飲むしかないってやつだ。


「じつはな、おぬしを頼んで見込みがあるのじゃ」


「逆にしてもいやです」


「やはりダメか」


「ダメです」


「むう」


 そりゃそうだ。

 ウソがないこの世界なら、これがなんだか死刑宣告(解雇通知)みたいなあまり良くないことだというのがわかってるのに、ハイそうですかと素直に承諾するわけにもいかない。


「だめか?」


「だめです」


「世界の半分をくれてやっても良いのじゃぞ?」


「どこの魔王ですか!?」


「だって、魔王になってもらいたいんじゃもの」


 やべえ、神様のプロだけあって手慣れてやがる。

 ゲームとアニメとマンガ脳で構成された、俺の第七世代有機スーパーコンピューターにもすんなりと内容を滑りこませるのがすげえ上手い。

 この微笑以上ドヤ顔未満が妙に可愛いだけに、余計ツライ。


「え、ええと……どの世界にいきなり魔王やれって言われてはい喜んでって受ける奴がいるんですか!?」


「おぬしの世界には結構いそうな気がするのじゃが」


 たしかにその通りな気がする。


「でも、それだって最近はいろいろ変なのもあるでしょう? なんていうか、攻略とかで考えたり、スキルで考えたり、あとせっかく呼ばれたのにヒドイことになったり!」


「わかりやすいからそうしておるだけで、別にそれは個人が自分で便利な形にすれば良いと思うぞ? なんでもかんでもセットメニューでなく、単品で自分で選んだり適当にトッピングなり調味料を使うがよいぞ。だいたい、ヒドイことになっても困らないくらいの実力は保証されてるのじゃ」


 たしかにその通りな気がする


「だからってホイホイと安請け合いしたらえらい目にあったりしません?」


 うん、俺もなんだかんだでこういう話そのものは嫌いではないからなあ。

 他人事なら。

 でも当事者になるとたしかに慎重になるな、これ。


「まあ、話はもっと単純でな。おぬし、魔王になって勇者に倒されてほしいのじゃ」


「は? いきなり倒されろとか言われましても」


「勇者がいる世界には魔王が必要でな」


「なんですかその、RPGを自作するときのような配置は」


「世界を作るとかだいたいそんなものじゃ。おぬしだって黒歴史ノートにそういう設定書いておったじゃろ」


「ぐふっ」


 あまりの精神的ダメージに俺は死んだ。

 死んで転生する前にさらに死んだ。

 精神体は生まれたてのひよこくらいにひよわなので、心にダメージが入るとさっくり死ぬのだ。


「よく死ぬのう」


「誰が殺したと思ってるんですか」


「どうせ戻ってくるのここなのだし、何度死んでも問題ないし、心置きなく死ぬがよいぞ」


「死にすぎじゃないですかそれ」


 輪廻転生が死んで死んで死んで死んでまわってまわってまわってまわりすぎではないだろうか。


「どうせ魔王になるのじゃ、死ぬことの一つや二つ問題無いじゃろ」


「いろいろ問題あります! って言うかなんで既定路線!?」


「そりゃ、おぬしが女の子を轢いたんじゃ。その子が勇者なら、おぬしが魔王になるしかないからじゃろ」


「……っ!?」


 やばい。

 たしかにそれを言われるとどうしようもない。


 事故を起こした俺はどうなってもいいが、事故を起こされたあの子はもっと幸せになるべきだと思う。

 なら、俺は魔王でしかるべきだった。


「うむ、大体のところは理解してくれたようじゃの」


「……」


「なんじゃ、いまさら責任を感じておるのか。気にせずともよい」


「そりゃ気にしますよ」


 気にするなってのは無理だろう。

 流石に気まずい、気まずいという言葉では申し訳無さが埋まらないくらいには。


「気になるなら魔王になってから本人に直接聞いてみればいいじゃろ。それに彼女の運命はおぬし次第なのじゃ」


 もっとも過ぎてぐうの音も出ない。ぐう。


「……わかりましたよ、俺が魔王になって彼女を幸せにすればいいんですね?」


「おお、自発的にやってくれるか。その気になってくれるとうれしく思うぞ」


「誰がやらせたんですか!?」


「自分からじゃろ? チャンスを与えただけじゃもの」


 たしかにその通りな気がする。

 俺は責任を取らないといけない気がするからなのだし。


 神様のいいように言いくるめられてる気がするが、流石にプロだけあってやる気にさせてくれる。

 魔王ってのはこう、仕事で考えるとあまりうれしいと思わないけど、それでも俺は責任を果たさないといけない気がする。


「もうそういうことでいいですよ、まったく」


「そうかそうか。まあ気にするな、魔王はあまり細かいことを気にしていては身が持たぬぞ」


 たしかにその通りな気がする。

 この神様、絶妙にそれっぽいことを入れ込んでくるのが上手い。

 さっきから、たしかにその通りな気にさせられ過ぎだ。

 プロの勧誘員というのはこうして人をその気にさせていくのだろうか。


「で、魔王って結局どんなことするんです?」


「トラックを運転する」


「は?」


「トラックを運転する」


 ちょっと待って、理解が追いつかない。

 精神的にいろいろ伝わるはずなのに追いつかない。


「どういう理屈ですか」


「おぬし、トラック運転手のプロなのじゃろ。ならそれを生かさない手はないではないか」


「理屈はわかりますがどういう理屈ですか」


「なに、簡単なことじゃ。そもそもトラックというのは特別強力な宝具でな、様々な世界に影響をおよぼすほどの力を持っておる」


「待って」


「そのプロドライバーであるおぬしが魔王となってトラックを操るのだ、問題があるわけがなかろう」


「いやだから待って」


「なので、トラックを運転すればよい」


「すごくよくない気がします」


 ごめん、いろいろ出来る気はするけどダメな気がしてきた。

 神様の笑顔、コワイ。


 こうして、俺は女の子に対する責任を果たすためにトラック魔王になった。

 個人的には、もう少し普通の魔王のが良かったと思わざるを得なかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ゆるいなー神様... さて、これからどうなる?と 想像の膨らむ終わりかたなのもいいですね。 [一言] 普段は語られないサイドのお話で 新鮮でした。 トラック魔王... 勇者とどう戦うんだ…
[一言] トラック転生で、引いた方のトラック運転手どうなるのってことはよく思います。 本編では語られてないことですが、おそらくみんなこうなってるんですね。
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