【殺】か【不殺】か。
『……3人しかいないな、、、。』
『まぁ先輩方来るから、もう少し待ってみよう。』
眼下に広がるのは、犯人たちが立て篭っている銀行。23人の人質と3人の犯人の姿。
彼らがいるのは、占拠されている銀行の天井裏。電気系統の通り道なのか、大量の機械がある。
そんな場所は掃除されるわけなく、ホコリまみれで、動けば自分たちが覗いている格子からホコリが落ちてしまいそうだった。
「おいっ。」
「っ!」
後方から突然声をかけられ、とっさに銃を向ける。
「何やってんだ?見えてんのか?」
「せっ、先輩方!?」
「聖真も航平も、後方にも気をつけてね。」
後方から声をかけたのは、合流に来た先輩と呼ばれる咲良と古関だった。
「(全く、気づかなかった…。)」
少しでも動けばホコリが舞うような現場。そんな現場で、一つも気配を感じないとは…、
「さすがっすね。」
「あぁ?何がだ?」
「何でもないっすよ。」
流石エースと呼ばれる、2人だ。
「航平も広貴も、話してないで集中してよ。」
「すいません。」「わりぃ。」
ここに入れば、誰もが咲良と古関のことを目標にする。2人も例外ではない。
航平こと福嶋航平。現在21歳。
聖真こと横山聖真。現在22歳。
2人とも特隠課所属の、咲良と古関の部下だ。
「聖真、状況は?」
「はい、負傷者が1名。銃で足を撃たれました。犯人たちからの要求は、相変わらずありません。犯人の1人は、爆弾のスイッチを持っています。」
「そっか…、源と違うのは?」
源というのは、現場入りする前に内が調べ、伝えられた情報のことである。
「人数が少し。犯人は3人しかいません。人質は少し多く23人います。」
「……今は21人しかいないね。犯人も1人少ないかな。」
「撃たれた人物と、医者だと名乗る人質の2人が、手当に消えました。犯人の1人も、そちらについて行っています。」
「なるほど。」
横山と咲良が話している後で、福嶋と古関は話していた。
「ほんとっ、愛友先輩ってすごいっすね。広貴さんもすごいっすけど。26人の人数把握が一瞬って…。」
「愛友はうちのエースだからな。」
「広貴さんもでしょ?」
「あいつは、頭一つ抜けている。」
「まじっすか…。」
そろそろ動くぞ、と古関が言ったのに対し、福嶋も気を引き締める。
「愛友、どっちを取る?」
「内先輩。」
「了解。」
短い、最低限の会話を交わし、後輩に合図する。
「犯人は後2人潜んでいるものとして、突入する。
古関と横山は上で待機。私の予想だと、人質の中に犯人がいると思う。見つけしだい連絡。」
「「はい。」」
「福嶋は、私が合図したら一緒に突入。人質の保護が優先だから、麻酔銃を使って。」
「了解っす。」
作戦実行が近づくと、咲良は班長としての顔つきになる。
『準備できたか?咲良。』
「完了です、内先輩。」
『光弾使うからな。横山と福嶋!気をつけろよ。』
「はい。」「大丈夫っすよ。」
「始めます。作戦番号444番。」
あぁ、もうそんなになるのか。
『5!4!3!2!』
「またな。」「またね。」
『1!』――――パーンっ!!
古関が格子の僅かな隙間から撃った銃弾は、犯人の持つ爆弾の起動スイッチに当たった。
――――パーンっ!!『0っ!!』
「行くよ、福嶋。」
「はいっ。」
目も開けられないほどの光が、部屋を覆う。
直後に聞こえるたくさんの悲鳴、怒号、悲鳴、悲鳴。
「動くんじゃねェ!!」――――パーンっ
「おいっ、コーラム!!」――――パーンっ
「くそっ…何も見えねェ!!」――――パーンっ
的確に射抜かれていく、犯人。まぁ、麻酔銃なので死ぬ訳では無い。
「さすが、大智さんの作った麻酔銃っすね。」
「象でも眠るから大丈夫、って渡されたから。」
「それ、逆に大丈夫なんすか?」
「さぁ?」
後輩といえど、さすが特隠課の刑事。例え何も見えなくても、1発で撃ち抜く。
…サングラスのおかげでもあるが。
『咲良、奥だ。やっぱり、けが人と医者が犯人グループの奴らだ。』
「了解。横山と一緒に人質の誘導に移って。」
『わかった。』
「福嶋、奥。」
福嶋は頷いて、扉の前に立つ。
開こうとした瞬間……『咲良!!』
「!!福嶋、ストップ。」
突然、内から連絡が来た。
『犯人から要求が来た。とりあえず、その扉を開けるな、だ。』
「人質は全員、開放したと思いますが。」
『愛友!人質が19人しかいない!』
「!?」「まじっすか…。」
『とられてる人質は8歳の女の子だ。』
「…それで、もう一つの要求は?」
内が黙る。
その理由を読み取ったかのように、咲良は続けた。
「私ですか?」
『!?!?』
「はぁ?なんで、愛友先輩が!?」
「さぁ?犯罪者の考えてることなんて、知らないし、知りたくもない。」
『銃や無線機、その他すべて捨てて入れ。それが要求だ。』
「わかりました。」
「ちょっ、愛友先輩!?」
咲良の早すぎる決断に驚く部下。
「ここで時間をとるわけにはいかない。人質は、まだ幼い、耐えれる時間は短い。」
“8歳”という言葉が、咲良を動かしていた。
『愛友、X-Ⅱをつけて来なさい。』
「…わかりました。」
「大智さん…っっ。」
『航平くんは扉の外で待機。広貴と聖真くんも合流してください。』
「了解です。」
「…………では。」
咲良の代わりに、大智が指揮をとる。
『さーて、特隠課エースの腕の見せどころだぜ、咲良。』
2発の銃弾の後、突然光った現場に混乱するそこで、妙に落ち着く2人。
「隼人サン、どうしてあんな怒鳴ってまで、動くなって指示だしたんすか?」
部下が聞いた。
「あぁ??いつもの事だろっ。」
「まぁ、確かにいつも怒ったようなブサイクな顔してますけど…、隼人サンのあの顔はマジの時にしか見れないんでね。」
「お前の目に写る俺はなんつー顔してんだ?っつーかお前…、よく見てんな。」
「そりゃあ、どーも。」
さすが、23の若さで捜査一課に配属されただけある、と言うべきか…。
「伊藤、オメェは知らねぇだろうが、特隠課のやり方は、そんぐらい危険なんだよ。」
「……そんなにですかい。」
「よく見とけ、俺らの仕事取りやがっやつらを。
今回は、【サツ】か【フサツ】か。どっちか、わかんねぇがな。」
「??」
――『どうして、撃ったんだ、咲良ァ!』
――『撃たなかったら、先輩が死んでました。』
――『撃たなくても、よかっただろ!コイツは生きれた、生きて罪を償えたんだぞ!』
――『綺麗事で回るほど、世の中は素敵にできてないんですよ、隼人先輩。』
「テメェは、変わったんだよな?咲良。」
~自己紹介【パートⅡ】~
・横山聖真
22歳。警視庁刑事部特殊隠密課に所属。古関と咲良の部下。福嶋とは同期。
・福嶋航平
21歳。警視庁刑事部特殊隠密課に所属。古関と咲良の部下。横山とは同期。
・隼人サン
咲良と過去に何かあり?
・伊藤
23歳。隼人サンの部下。
・咲良 愛友
“8歳”というワードに敏感。現場では班長として動く。
・大智さん
象も眠らせる『麻酔銃』、小型無線機『X-Ⅱ』の製作者。
・コーラム
強盗犯の1人の名前。