はじめまして。
連載中
【死神様がいるセカイ】
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音もなく、色もない。
そんな世界に、私は今、存在している。
目は開かない。
ここはどこだろうか? と手を伸ばしても、すぐに指先に壁が触れる。
それは柔らかく、少し暖かい。
身体を包み込んでいる液体を掻き分け、私は身体を反転させる。
すると壁の向こうで、微かに騒ぐ声がした。
なにごとか? と、また腕を伸ばす。
ついでに足も伸ばすと、すぐに指先が壁にあたった。
その壁を少し蹴り上げてみる。
すると、また、壁の向こうで声がした。
高い声と低い声だ。
私の知らない人達の声。
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あれからどれだけの時間が経ったのだろう。
もう足を伸ばす余裕もなくなった。
不意に、頭の上の方に穴を見つける。
ここから出られそうだ。
私は、その細い道に、身体を無理矢理に押し込んだ。
外で悲鳴が聞こえる。
動物の呻き声にも似たそれは、断続的に続いている。
助けなきゃ。
そう思った。
ただその一心で、前へ前へと進んだ。
悲鳴がやむ。
代わりに、時折、力を入れるような声がする。
それと、この間からずっとしていた、男と女の声じゃない声も、いくつかする。
不意に、光が、私の瞼を貫いた。
まだ目は開けられない。
だけど、その眩しさに、私は叫んだ。
『元気な女の子ですよー!』
そんな声が聞こえた。
何を言っているのかは、まったくわからない。
私は止まることなく叫び続ける。
体が宙に浮く感覚に捕らわれる。
体の周りを包んでいた液体は、もうない。
不安だけが私のそばにいた。
『ほらー。ままだよー』
誰かが、誰かに、私の身体を渡した。
『……よかった』
そう言いながら、私を包む、なにか。
今まで感じたことのない、温もり。
それはなぜか、私に心地よい安心を与えた。
不安が私に背を向ける。
『はじめまして』
その言葉と同時に、頬に指が触れる。
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いつか、あなたの言ってることが、わかるようになったら。
わたしも、あなたに挨拶しよう。
あかちゃんが生まれるまでのお話でした。