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星影の下で、アウナの顔は美しかった。
長い金髪に包まれた陶磁器のような白い肌が、夜闇に冴えざえと映えている。
胴体から引きちぎられた首は、優美な線を描いて頭につながっていた。
アウナの容貌は、繊細かつ可憐な生前の印象のままだった。
まるで地面の下から掘り出された彫刻のように、泥や凝固した血液の飛沫に汚れていながら、アウナはあざやかな美貌を失っていない。
かつては生き生きと笑い、喜び、そして怒り、悲しんでいたアウナは、今は愁いなどすべて捨てて、ただ安らいでいるようだった。
まぶたの下りた目は、夢の名残を追っているかのごとく、うっすらと開いている。
唇は、微笑みでほころんでいた。
呪いによって石にされてしまったかのように、ぼくは微動だにできなかった。
ただ、釘づけにされたようにアウナの首から目を離すことができなかった。
目に映る光景がいったい何を意味するのか、理解することすらできなかった。
こんなのって……ウソだろ?
夢を見ているんじゃないのか?
まだケガにうなされて悪夢にうなされている最中じゃないのか?
何か得体のしれない幻にとらわれているんじゃないのか?
ぼくの指が激しく震え、アウナの硬く冷たい肌に触れた。
初めて、もはやアウナが生きてはいないことを、ぼくは実感した。
……信じられない。死んでいるなんて。
こんなにやさしげな笑みを刻んだまま、もう永遠に目覚めないなんて。
信じられない……。
ぼくは、二度とアウナの声を聴くことはできないのか。
きらめく瞳を見つめることも、柔らかい肌に触れることも。
もはやかなわぬ夢となってしまったのか。
もう二度と、何かを伝えることも、受け取ることもできなくなってしまったのか。
……もう、裏切りを許してもらうことはできない。
せめて、わびることもできない。
…………アウナは死んでしまったんだ…………。
アウナの首を胸に抱き、うずくまる。
全身を震わせる声が、ほとばしった。
ぼくは、頭の中で「ウソだ」と数えきれないほど繰り返しながら、獣のような声を放って涙を流した。
ふと指先に、違和感を覚える。
アウナの紙に絡みついていた布の感触に、覚えがあった。
それは、ぼくのマントだった。
ぼくと出会った時、ほとんど裸だったアウナに貸したものだ。
アウナはなくしたと言ってたのに、隠して持ってたのか。
言えば、あげたのに、きっと、会ったばかりのころだから、ぼくに頼みごとをするのは嫌だったのかもしれない。
でも、どうしても欲しかったんだな。
あの時は、こんなことになるなんて、少しも思ってなかった……。
どうしてこんなことに? なぜ、なぜだ!
いや、わかってる。本当はぼくには十分に理解できている。
アウナが死んだのは、ぼくのせいだと痛いほどわかってるんだ!
あの時、ぼくがアウナを引き留めていれば、アウナは死ななかった!
アウナを殺したのは、ぼくじゃないか!
恐ろしい結論だった。ぼくにはあまりにも耐えがたい事実だった。
塔の上で、アウナとたった二人、つかの間に味わったよろこびは、かつてない鮮烈なものだった。
だからぼくは、アウナと一緒にいたかったのに。
なのに、これから二人で持つことができたはずの未来を、ぼくが壊してしまった。
でも、ぼくの幸福、それだけが消えるならまだよかった。
しかし、アウナまでぼくは、見捨てた挙句、死に駆り立ててしまった。
別れの時、どうしてアウナはぼくに何も言ってくれなかったんだ?
自分を選べと一言あれば、ぼくはアウナを取ったかもしれないのに!
でも、何も言ってくれなかった……。
ぼくがアウナを見放した後だって、アウナはぼくたちを突き放すようなことを言っただけだった。
愉快そうに大笑いして、ぼくを見た目は、明るく輝いていた。
でも、ぼくは心の奥底ではわかっていたんだ。
何も言わなかったのは、ぼくの体を第一に考えてくれたからだ。
笑い飛ばしたのは、アウナを見捨てたぼくを、責めたくなかったからだ。
でも、アウナはそれでも少しだけ、泣きそうな顔でぼくを見た。
悲しかったんだろう。でもぼくのために我慢したんだ。
ラランニャはぼくのことを優しいと言った。
どこが?
アウナを捨てて、ラランニャの優しさに付け込んで手当てをしてもらって、のうのうとアウナを探すぼくのどこがやさしいんだよ!
ぼくは、ノトゥに、あるいはヴェルメーリに、いや、アウナに殺されているべきだったんだ!
なのに、今生き残っているのはこのぼくだ。
本当にやさしかったのは、アウナだったのに。
どうしてアウナが死ななければならない?
”モンスター”だから?
何者かに作られた道具だから?
戦いに負けたから?
魔力を失ったから?
仲間がいなくなったから?
地球人に関わったから?
ぼくを気遣ったから?
”モンスター”にも、ぼくにも、いろんなものに優しかったからか?
ぼくはなんて無様ななんだろう。
自分に咎があるのにもかかわらず、醜態をさらしている。
あまりにも、幼稚だ。今のぼくは、ただ子供のように、泣きわめいているだけだ。
ウソつきめ。
そんなに苦しいなら、いっそアウナと同じように死ねばいいんだ。
今からでも遅くはないんだから。
……そう、だよね。
いまからでも、遅くはない。
もう、ぼくは……死ななきゃならないんだ。
そして、その望みはすぐにでもかないそうだ。
ここへ来た時に、周囲を徘徊していた”狼人間”たちが、舞い戻ってきている。
きっと、奴らがアウナを殺したんだろう。
無力なアウナを……そして、それすらもぼくのせいだ。
ぼくが、力を奪ったから、アウナは身を守れなかった。
次は、ぼくの番だ。
アウナ……申し訳なかった。
みんなぼくが悪かった。
こんなどうしようもないクズが、どうこうしたって、いまさら君には、何の意味もないことだと、わかってはいるけど。
もうこれしか、ぼくにはわびる方法がないんだ。
本当にすまない。
ぼくが引っ張りまわしてしまった人たち、死んでしまったカナ、なんでも世話をしてくれたラランニャ、ついてきてくれたエンカラ。
数えきれないほど殺してきた”モンスター”たち、ヴェルメーリ、ノトゥ。
みんな、ごめんなさい。
ああ、ぼくは生まれてこなければよかったのに!
時間が巻き戻されて、ぼくが存在しなかった世界に変わればいいのに!
ひたひたと押し寄せる”狼人間”たちの足音。
やがて、その鋭い牙と爪が、ぼくをばらばらに引き裂くだろう。
ぼくはアウナの首を強く抱きしめたまま、無残な死の来訪を待ち受けた。




