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 はじめは物珍しかったリアルな世界に、少しずつ醜い部分が見え始めていた。

 それは、現実的すぎるゆえに存在する、現実世界の陰惨さそのものだった。

 ”モンスター”を狩ると、ちらりと断末魔の瞬間を垣間見せる。死の苦しみを感じているかのように、瀕死の体でもがく。

 もしかして、ゲーム内に資金稼ぎの道具として作られた”モンスター”にも、生きることの楽しさや、死への恐れが根付いているのかもしれない、と思いついた途端、ぼくは狩りや、このゲームそのものに拭いがたい嫌悪を抱いてしまった。

 ”モンスター”の種類はそこそこ豊富で、多数は動物を模したビースト型や、植物に酷似するプラント型が占めているが、希少種に人間そっくりのヒューマノイド型というのがいる。

 彼らの見かけはぼくたちと全く同じだ。服装は似てないけど。

 ただ、中身が違うのか、ぼくたちと違って、彼らは強力な範囲攻撃魔法を連発してくる。

 普通のプレイヤーが出くわすと死を覚悟するしかないけど、ぼくは幸い”組合”からもらったアイテムで何とか対抗できる。

 それで、何人か倒したことがあるんだけど、それが、まあ、実にいやな経験だった。

 だって、これが平静でいられるかい?

 人間そっくりのものが、人間そっくりの動きで、人間そっくりに死んでいくんだよ?

 いやまあ、ちょっと言い過ぎた。人間が実際ケガとかで死んでるシーンは見たことない。

 でも……ぼくは凄惨な光景に耐えられなかった。ゲームと分かってても無理だった。

 その場で気持ち悪くなって、なんとか基地に戻ってセーブした後は、怖くて一週間ほどログインできなかった。

 しばらくして、ゲームを再開しても、ヒューマノイド型に出くわすんじゃないかとビクビクしてたよ。

 でも、一匹狼のプレイヤーだった頃はまだよかった。狩りたくなければ、逃げてしまえばいいんだから。

 ヒューマノイド型を何度も狩るハメになったのは、戦争が起こって軍団長に任命されてからだった。

 現実世界にそった設定と言うか、はっきり言って想像力に欠けていることに、動物や植物に比べてヒューマノイド型は頭がいいらしい、”虹の門”の世界でも。

 連中もぼくたちのように”モンスター”の集団をひきつれて、戦闘を挑んでくることもしばしばだった。

 ぼくはなるべく配下のキャラクターから被害を出さないように、戦闘を長引かせるのを避けて、敵のボスを素早く倒すように心がけていた。

 どれも、嫌な経験だった。でも一番ぞっとするのは、だんだん慣れてきて、嫌悪感がなくなっていることが、怖い。

 ……自分が自分で無くなっていくみたいで、うんざりする。

 ぼくはこんなもやもやした気持ちを抱えたくて、ゲームをやってるわけじゃないんだ。

 日常生活とは違って、でもただたんにキレイなだけのいかにも作り物じみた世界じゃなく、独自のリアル感があるこの世界が好きだったのに……。

 でも、与えられた任務を途中で投げることはできない。

 多くの人がぼくに期待してくれている。人の期待を裏切ることはできない。

 だから、気分が悪くなっても、毎日が憂鬱になっても、実生活を犠牲にしてもこのゲームを続けているんだ。

 今だって、もうすでに十日も連続ログインしていて、体力的にも限界が近づいている。

 正直、今すぐにでも日常生活に戻りたいよ。そして、もう二度とこのゲームはやらない。

 気の合った友達とくだらない話で盛り上がったり、家族とゆっくり一緒に食事したり、おさななじみの隣の子と他愛ない話をしたり……そういった普通の生活に戻りたいんだ!

 

 だが、そろそろグチはおしまいにしよう。


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