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 「でも、一言で”モンスター”って言っても、イロイロいるじゃないか。植物型とか、動物型とか」

 「お前は一から十まで説明しないとわからない人なのかな。ヒューマノイド型に決まってるじゃないか。形がそっくりだろう」

 「でも、そんな都合がいいことが信じられるわけがない。別の宇宙で一番最初に見つけた惑星に住んでる生物に、人間そっくりなのがいるだなんて」

 「そこがこの”虹の門”という、中途半端な宇宙の特徴さ。隣接する宇宙をコピーするんだ。そして、”虹の門”のような小宇宙は、隣接した宇宙の間にしか存在できない。さらに、隣接する宇宙はパラレルワールドと称してもいいほどに似ている。これは仮説だが、宇宙同士が直接接触することを避けるために、この”虹の門”が発生するのではないか、ということだ。あくまで仮説だがね。つまり、”虹の門”に存在する惑星、生物は必然的に地球に似てしまうんだよ。同時に隣接する宇宙も同じくだ」

 「隣接する宇宙にはもう行ったの? 話を聞いているとまだ到達してないようだけどさ」

 「今度は察しがいいね。お前の言うとおりだよ。何をするにもやはり莫大なコストがネックでね。少し足を延ばすこともためらわれるほどなんだ。ま、それはともかく、”虹の門”にもともといた”モンスター”のうち、ヒューマノイド型は隣接した宇宙から来訪した生物か、そのロボットだった」

 「それだって原住生物かもしれないだろ。どうして隣の宇宙から来たってわかるんだよ」

 「生物学の権威が分析した結果、他の”モンスター”と比較して、明らかに異質だったからさ。隣接する宇宙の人類、異世界の人間たちもこの宇宙にすでに到達していたってことだ」

 「そんなに似てるんなら、話し合いでもすればいい。おかしな戦争まがいのことをするより、よっぽどましだよ」

 「話し合いか……してどうする? この宇宙を仲良く分けましょうとでも言うのか? しかしそれはできない相談だ。なぜなら、奴らによって、何度か地球の調査隊は全滅してるんだ。奴らが敵対的なのは明らかなんだ」

 「向こうが先客なんだから、あきらめるって考えはないのかな。どうして殺し合いをしようとするんだろう。”モンスター”の死に際があんなに残酷だったのも無理はないってことか。だって僕たちは同じ生き物なんだから……なおさらぼくは協力する気にならないな。だって、そりゃ地球のエネルギーがなくなるのはまずいよ。でもだからって、すでに生き物が住んでるところをいきなり壊してしまうなんて、ひどすぎるんじゃないの? あまりに自分勝手だよ」

 ヴェルメーリの鎧越しに、ため息の気配が伝わってきた。

 「君は電気が使えなくなってもそんなことを言ってられるかな? 止まるのはエアコンやゲーム、電車だけじゃないぞ。今やおれたちの生活に深くかかわってるコンピューターだって動かなくなるんだ。それがどういうことかわかるか? 世界的規模でインフラが使用不可能になるってことは、これまでの設備の一切が無用の長物に変じてしまうってことさ。あっさり言うと、いきなり原始時代になっても今の人類は生き延びることができるのか? ってこと」

 ぼくは問題を突き付けられ、悩んだ。

 敵対的な相手を滅ぼして、自分たちが生き延びるか、何とか対話まで持ち込んで、自分たちは滅びる危機を抱え続けるか。

 どっちがいいかって?

 そりゃ自分たちが生き延びるほうに決まってる。

 誰だって死にたくはないし、日常生活だって当然安楽なほうを選ぶ。

 だが、自分たちにとって有益だからと言って、安易に敵を攻撃してもいいのだろうか。

 苦難の道でも、もっと別の方法を探るべきじゃないか?

 相手は宇宙人(?)と言っても、ぼくたちにそっくりだというし、そんな似た相手を滅ぼすということは、結局自分たちの間でも互いを尊重しない風潮を形作ってしまうのではないだろうか。

 どうしても、”虹の門”をつぶすのが、最善とは思えない。

 それに、これはぼく個人の稚拙な感想ではなくて、倫理的にも正しいはずだ。話によると”モンスター”とぼくたちの体はもとは同じ種族なのだし、同じ種族の間で殺しあうことは許されることじゃない。殺人や戦争が忌避されることでもそれは明らかだ。

 だから、短絡的にならず、ぎりぎりまで努力してみることが大事じゃないのか。

 「まだ、友好的にするよう交渉してみるべきだよ。相手は必ずしも話が通じないわけじゃない。現にぼくは、アウナと行動を共にしているし、けっこう友好的な関係を築いていると思う。疑うなら、ちょっとだけでもアウナと話してみてくれないかな」

 困ったようにヴェルメーリは腕組みをした。

 「う~ん、そういわれてもなあ、参ったなあ。俺の一存だけでは……」

 「なら、G11とやらにアウナを連れていけばいいんだよ。そうしたら偉い人も考えを変えるかもしれない」

 「難しいね。どうやってアウナを連れて行くんだよ? ただでさえ輸送するにはすごいコストがかかるって言ってるだろ」

 「なら、電波で会話すればいい。ぼくたちがここへ来るみたいにさ」

 「それも、ちょっと難しいんだな。もう、隣接している宇宙人たちは敵対的、そして、地球に確実に被害を与えているって結論が出てるんだ。のんびり相談している暇なんかとっくになくなってるんだよ」

 「また、新しい情報か。早く言ってくれないかな」

 「悪い。”最終戦争”が”龍脈”の奪取にこだわってるのは、単純に”モンスター”の魔法を警戒しているだけではないんだ。”モンスター”は”龍脈”に何らかの細工を施すことで、”虹の門”に接している宇宙、つまり俺たちの宇宙にダメージを与えることができるんだ。そして”虹の門”がコピーしている地球に、その攻撃は大地震や津波といった自然現象と言う形で起こる」

 「そんなこと、どうしてわかるのかな。突飛すぎる話だと思うけど」

 「”龍脈”の調査をした時、そのエネルギーの脈動が地球の大規模な自然災害の多寡に一致することがわかったんだよ。はじめは部分的だったけど、七つの”龍脈”が地球のどの部分に対応するかまでだいたいわかっている。キミの住んでいる日本だって、何度も”龍脈”による攻撃を受けてるんだぜ?」

 たしかに、ここ数年、日本のみならず世界中で突如として自然災害が激増していた。超巨大台風、大津波、火山の噴火……日本でも、富士山が活動を開始して静岡で被害が出たし、三陸海岸では毎年津波が発生している。東京では群発地震のせいで下町が壊滅状態、近畿、四国、九州は夏になると立て続けに襲来する巨大台風によって、莫大な損害を受けている。

 ぼくの住んでいる近所にしても、ここ数か月、地震が頻発している。毎日一回か二回は震度4程度まで揺れるけど、今は何となく慣れてしまって何とも思わなくなった。だが、いつそれが壊滅的な災害にまで発展するかは、わからない。

 「それも、”龍脈”を操っているのはヒューマノイド型、つまり別の宇宙の連中だ。やつらはおれたちの技術をはるかに上回っている。ひょっとすると”虹の門”を作ったのさえ、奴らの仕業かもしれないな。そんなやつらが、こちらを敵とみなしているんだ。弱者は争わずに死を覚悟するか、死に物狂いで反抗するしかない。そして、それは向こうがまだこちらが手ごわいと知らないうちに攻撃を仕掛けるのがベスト。つまり奇襲と言うわけさ。準備されたら、勝ちは到底おぼつかない。だから、”最終戦争”を急いだんだよ、ゲームに見せたりして、偽装して人をかき集めたのはそのためさ」

 「そうか……じゃあ、もう塔の閉鎖はやめられないのか」

 ぼくは愕然としてつぶやいた。

 「そう。わかってくれたか」

 ヴェルメーリは安心したように声を和ませた。

 が、ぼくはどうしてもあきらめることはできなかった。

 このままでは、アウナの存在が確実に消えてしまう。それは耐えられそうにない。アウナを見捨てたら、ぼくは一生後悔するんじゃないのか。彼女には何の罪もない。なのに、消えさせられてしまうんだ。それも、ぼくたちが自分の都合を押し通そうとしているからだ。

 でも、一方でやはり地球のことが気にかかった。地球全体なんて、大きすぎる。アウナやましてぼくの思惑なんか、塵みたいなものじゃないか……。

 いや、待てよ。地球は確かに人も多いけど、それはアウナの世界も同じじゃないのか? アウナやプレーテだって、彼らの住んでいる惑星の期待を背負って何かをやろうとしている。それは、ぼくたちと同じじゃないか。

 それに、ぼくが大切に思っているのは地球と”虹の門”のどっちなんだ?

 ……それは、決められない。決められないからこそ、今、塔を閉鎖するのは、やめさせるべきだ。

 そうだ、それで間違いないんだ。ぼくの考えは、おかしくなんかない。

 「どうだ? もう覚悟は決まっただろ。なら、お前も手伝ってくれ」

 「ううん。だめだ。ぼくは手伝わない」

 「じゃ、別に横で見ててもいいよ。まあ、嫌がってたのに手伝うなんて無理だよな。悪かった」

 「そうじゃない。ぼくは塔の閉鎖には反対だ」

 ぼくはおびえを残しつつも、何とか宣言した。

 「それは、おれの、いや、地球の方針に反対するってことになるぞ?」

 言うことを聞かない幼児を叱るような口調で、ヴェルメーリは言った。しかし、もはやぼくは自分の意見をひるがえすつもりはない。

 「悪いけど、そのとおりだよ。ぼくは地球の方針には従わない」

 「あのさ、今までの話がアホらしいのはわかるけど、だからって自分の常識内で嘘だって決めつけるのはよくないぞ?」

 「信じてるよ! だからこそ、逆らってるんだから」

 「まあいい。これだけ言ったんだから、もう決心は固いんだよな。なら、いいだろう」

 ヴェルメーリはあきらめたようだった。

 面倒そうなしぐさで剣をとり、体を揺すった。かすかに鎧の鋼鉄が触れ合う音が響く。ふわりと切っ先がぼくを指した。

 

 

 「どうしても止めたかったら、腕づくでやりな。だがな、お前がおれに勝てるとは到底思えないぜ」


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