第六話 見つかる
ここから話が進むと思います。
「いいかい? よく聞くんだ。きっと薄々周りの皆も君が元王妃だっていうことは勘付いているはずだ。だからもうここは離れた方がいい」
「はい、それは重々に分かっているつもりです」
「だから明後日ここから結構遠くなるけれど治安の良くてきっと親衛隊もそこまで探しにこない距離だから、そこに行こうと思うんだ」
あの後、その喫茶店から少しは慣れた宿に泊まって二人でこれからの事を話しあった。
力強いマリスさんの眼差しに、圧倒されながらも承諾の返事をした。
自分と何も関係なくておまけに私と行動したら私同様に処罰されるというのに、マリスさんは真剣に考えてくれて申し訳ないという気持ちと温かい気持ちがこみ上げてきた。
きっとマリスさんなら……。
でもこれ以上高望みをしてもいけないから。今のままでいいんだ…そう、きっと。
「だから明日までに荷物と…それと君が働いている花屋の店長にしばらく休むって伝えておいてくれ。僕も明日すべての準備を終らせるから」
それからスムーズに話が進んだ。
まさかマリスさんも一緒に行動するなんてのは予想外だけど、兎に角私は明日ちゃんと自分のやるべきことをやらなければならない。
翌日、私は約二ヶ月間お世話になった花屋の前に立っていた。
改めてこう眺めると小さいけれどもこの町の人から愛されている花屋だと分かる。人情味の溢れた店長と心優しい店員さん達と、こういう人柄のせいでいつまでも愛され続ける花屋になったのだろう。
羨ましいなぁ…。
「そんなところで何やってるんだい? 早く仕事を手伝っておくれ」
ぼうっと突っ立ていると、後ろから不思議そうに首を傾げている店長に声をかけられた。
「あの、店長」
本来ならばここで少し雑談をしてからお仕事に取り掛かるはずだけれども、今回はそうのんびりとしていられない。
私は明日、ここから去るんだ。
この町も、ここの人達も、好きだったからちょっと寂しいな。
明日からはどんな毎日が待っているのだろう。
「話しておきたいことがあるんです」
「なんだい?」
「私、突然な話で申し訳ないんですけど……これを……」
そう言って手渡したのは、昨日悩んだ末に書いた辞表。マリスさんは「しばらくの間休む」って言うけれど、私にはもうその必要はないから。
だってもうここには私の居場所があってないようなものなのだ。
この町の人が私の居場所を作ってくれてもすぐさま親衛隊がそれを崩しにくるに違いない。
だからこの町の安全のためにも、私はここにいてはいけないんだ。
「何でっ!」
「本当にごめんなさい。でも、もう決めたことだから」
深く頭を下げる。
店長は相変わらず驚いた表情をして固まったままだ。
そして私はもう時間だから準備に取り掛からなければならない。
もう一度誤りながら店長に背を向けると、寂しいけど、悲しいけど、その場から走り去った。
「いつでも戻っておいで、待ってるから」
後ろでそう聞こえた時は思わず泣きそうになった。
「準備は、もう終った?」
「はい」
その日の夜、マリスさんから電話があった。どうやらマリスさんも、準備はもう終っているらしい。私は、大きな鞄にも満たないほどの荷物の量を見て、溜息を吐いた。
結局、いるものといらないものを分けたら残るのは必要最低限の生活用品だけ。思い出の品なんて、あっちで暮らしていた頃のものしかない。そんな物を持っていったって、意味がないよね。
「それじゃあ、朝早くに門の前で集合ね」
「分かりました」
ぷつりと切れた。
腑に落ちないまま布団の中に潜り込む。
何か、何か嫌な予感がするの。
明日ここから出て行ってはいけないような、何か。
そんな事を考えながら眠れずに夜が明けた。
「おはよう、眠れた?」
「はい」
嘘。本当は緊張して、全くと言っていいほど眠れなかった。
「それじゃあ行こうか」
マリスさんが私の前に立って地図を確認しながら誘導する。
そして、町から出て数分の事だった。
「待て、そこの二人。ようやく見つけたぞ」
野太い聞き覚えのある声がして、私とマリスさんの背中にぽたりと冷や汗が流れた。