第四話 冴えた頭
遅くなってごめんなさい。
そして短くてごめんなさい。
読んでくださった皆様すべてに感謝です。
「そういえば、お腹の中に赤ん坊がいるんだろう。そんなに働いて大丈夫なのかい?」
お弁当を買い終わり皆に配り終えた後、店長が心配そうに私に聞いてきた。
すっかり忘れていた。
私のお腹の中には思い出したくもないけど、陛下と私の子がいるんだ。
でもほとんど私が働く内容は荷物詰めとかだし、そんな激しい運動もないからきっと大丈夫だろう。そんなことをよりも一番心配なのは、私が王宮の者と気がつかれてしまうこと。
まぁいい、今日も何事もない様に祈りながら生きていくために働くだけ。
夜にはまたマリスさんと会う約束しているし。何て嬉しいことなんだろう。
やっぱり持つべき友達はいるわよね。
「それでさ、ついさっき腰に剣を吊るした男が『妃はいないか』って尋ねてきたんだけどどうしたんだろうね。そういえばあんた王妃に似ている噂があるんだけどまさかそんなことないよね」
「……あははっ、そんなまさかこんな地味な私があの王妃なんてありえないですよ」
「だよね。そんなことあるはずがないもの」
今の私の内心はものすごくドキドキしているだろう。
自分でもうるさいくらいに心臓の音が聞こえる。
でもまさかもう噂に流れているだなんて。
そろそろ別の場所に移る事を考えた方がよさそうだ。
何て考えながら淡々としていたら、もう日が暮れてふと外を見ればにっこりと微笑んでいるマリスさんを見つけた。迎えに来てくれたんだ。
「あの何かすみません」
「いや、いいんだ、僕がしたくてしている事だし迎えに来るって約束したでしょ」
町外れにあるこの町からすれば立派な食事所。
いつもお世話になっていて自分は何もしてあげられないから、『何もしてあげられなくてごめんなさい』という意味で頭を下げた。
けど案の定、困った顔をしたマリスさんが頭を上げるように促した。
「それであのさ、王妃様が逃げ出した件についてなんだけど」
「……はい」
「何か最近あちらこちらで逃亡した王妃様を探しているらしいんだ、親衛隊が」
まさかマリスさんがそんな話をするなんて思ってもいなかったから、びっくりして思わず大きく目を見開いた。何も言い返せない。
だって私は――元王妃なのだから
「それで親衛隊の発表からすると姿とか変わっているようだから、もし似ている人がいたら親衛隊本部まで連れてくるようにってね。でも、まさかそんな事はないよね?」
あぁ、いつから私は自分を偽るようになったのだろう。でも、偽らないと生きていけないって知っていたから。だからこれから先もずっとずっと、私は嘘をついて自分を偽って一生を終えるのだろう。
でも果たしてそれでいいのだろうか。もしかしたら答えは一つだけじゃない、もう一つあるのかもしれない。それにこんなにも心配してくれているマリスさんに申し訳ないけど、果たして嘘をついたままでいいのだろうか。
この先ばれてしまうことの方が可能性が高い今。
もし取り返しが付かなくなった時にばれてしまったら、私はどう世にマリスさんに顔を合わせればいいのか。
手遅れになってしまうならばもういっそのこと――
「もし私が王妃だったら、マリスさんはどうしますか?」
今の私の頭の中は嫌に冷え切っていて冴えていた。