表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

兄妹との出会い

 おばちゃんの家の裏手にある、小さな路地。その路地の突き当たりに、川があった。コンクリートで固められてない、石ころと草の匂い。

 川には小さな橋がかかってる。その上からのぞいて見ると、すごく水が澄んでいて、川底の様子まで良く見える。

 なのに、何だか深そうで、不思議な感じ。それでも気持ちがイライラしているアタシには、太陽を反射して光って流れる川のキレイさなんて、ちっとも心を動かされるモノではなかったんだけれど。

 橋を渡ると、土手に転がっていた小石を蹴飛ばし、手近な草をむしり取って川へ放り込んだ。

「来なきゃよかった。全然、楽しくない。すっごく、つまんない」

 妹なんか、欲しくなかった。赤ちゃんなんて、大キライ。パパもママも、赤ちゃんの方がいいんだ。もうアタシの事なんか、いらなくなっちゃったんだ。

 そう思ったら、悲しくて、くやしくて、涙が出てきた。

「もう、ヤダ……」

 自分の怒りをぶつけるようにして、アタシは手当たり次第に雑草をちぎっては、川の流れに投げ込んでいた。

「そんな事してると、川を汚すなってカッパが出てくるよ」

 後ろから急に声をかけられて、アタシはビックリして川に落ちそうになった。

「キャア!」

「わあぁ!」

 アタシに声をかけてきた誰かも、驚いてアタシの服のすそをつかんで引っ張ってくれた。強い力で後ろに引かれて、そのまま土手の上にしりもちをついてしまった。

「いったぁ~い!」

 スカートじゃなくて良かった。でも、せっかくのお気に入りのジーンズが、泥だらけ。

「大丈夫かい?」

 オシリをさすって痛がっているアタシの目の前に、誰かの手が差し出された。見上げると、同じ年くらいの知らない男の子が立っていた。

「──誰よ、あんた? 急に声かけてくるから、ビックリしちゃったじゃない」

 ムカついたから、足手がせっかく差し出してくれていた手を払いのけると、アタシは自分で立ち上がってオシリをはたいた。

 んもう。草と泥がくっついて、キレイになんない。

「ごめん。そんなに驚くと思わなかったんだ「

 陽に焼けた顔をした男の子。良く見ればその背中には、妹らしき小さな女の子がかくれている。

「君、この辺りの子じゃないだろ?」

 両手についた泥に顔をしかめながら、アタシは男の子をにらみ付けてやった。

「だから、何? 聞いてんのは、こっちなんですけど」

 思いっ切り機嫌の悪いアタシの声に、ビクッとして女の子は、男の子の背中にますますかくれてしまった。

 何よ。人の事、鬼かなんかだとでも思ってるワケ?

「そんなに怒るなよ」

「川に落ちそうになったのよ。怒るに決まってるじゃない」

「だから、謝ったじゃないかよ」

 ふん。あんなの謝ったうちに入んないわよ。

「オレ、リュウって言うんだ。『流れる』って書いて、リュウ。そんでコイツが、ミギワ。『さんずい』に『丁』って書くのさ。オレの妹。君は?」

「はあ? 何でアタシまで、名前言わなきゃいけないのよ?」

「オレ達は、ちゃんと名乗ったじゃないか。次は、君の番だよ」

 アタシは二人から目をそらすと、ふてくされた感じで答えた。

「──メグミ」

「メグミちゃんかぁ」

「気安く呼ばないでよ!」

 さっき会ったばかりの子に、どうして『メグミちゃん』なんて呼ばれなきゃいけないのよ!

「じゃあ、なんて呼べばいいのさ?」

 流と名乗った男の子の背中から、ようやく顔を出した女の子──みぎわ、だっけ?──が、オズオズと口を開いた。

「メ、メグミちゃん……」

 メグミちゃぁん? 気持ちがそのまま、視線に出ちゃったんだろう。

「ふぁっ……」

 泣きそうな表情になって、あわてて流の背中にしがみつく。

 あーあ、もうカンベンしてよぉ。

「分かったわよ……。『メグミちゃん』でいいわよ」

 ため息をついてそう言うと、汀、汀ちゃんは安心したように、ちょっと笑って見せた。

 まあ、確かにアタシも態度、悪かったしね。


 出会いは最悪だったけど、アタシは流と汀ちゃんの兄妹と一緒にいる事が多くなった。

 別に待ち合わせをするワケでもないし、お互いの家を知ってるワケでもなかったけど、毎日、小川に行けば二人に会えた。

 ここにはアタシの知ってる人なんかいなかったから、二人と話ができるのは、正直、うれしかった。

 おばちゃん家にいても、アタシはする事がなかったし、パパもママもアタシがどこに行こうと興味がないみたいだったし。

 流はアタシと同じ十歳で、妹の汀ちゃんは六歳。体の弱かった汀ちゃんは、あまり外で遊んだ事がなくて、友達がいないんだって。

「へっただなぁー。こんなの、簡単だろ?」

「そんな事言ったって、アタシは初めてやるのよ。うまくできるワケないじゃない」

「だから、教えてやったじゃないか」

「あんな説明じゃ、分かんないよ」

 言い合いをするアタシと流の間で、汀ちゃんがオロオロと二人の顔を見比べている。

 何を言い争っているのかと言うと──。

「こうやるんだって。見てろよ」

 流は足元の平べったい石を拾い上げると、勢い良く腕を振った。

 その手から飛び出した小石は風を切り、小川の水面に触れたと思ったとたん、大きく弧を描いた。

 連続した波紋を残し、小石は水面を踊るように跳ねて行った。

「すご……」

 思わず見とれちゃったアタシに、汀ちゃんがニッコリ笑って自慢げにアタシに言った。

「お兄ちゃんは、水切りがすごく上手なんだよ」

 汀ちゃんを見てると、本当にお兄ちゃんの事が大好きなんだなあ、って思う。流の方も、そんな汀ちゃんがカワイくて、仕方がないみたい。

「ほら、メグミちゃんもやってみなよ。腕を振る時は、水平になるようにな」

 さっき流が拾ったのと同じような、平べったい小石を選んで、アタシは教えられた通りに川に向かって投げてみた。

 小石は水面に当たると、そのまま沈まずに連続して跳ねた。

「ヤッタ!」

 たかがこれだけの事なのに、柄にもなくアタシはハシャいでしまった。

「やったね、メグミちゃん」

 汀ちゃんが両手を叩いて、喜んでくれる。

「やるじゃん」

「まあね」

 TVゲームも何もない。オシャレなお店も何もない。だけど、流と汀ちゃん達二人といると、そんな事はどーでも良かった。

 二人はちゃんとアタシの話を聞いてくれた。愛想笑いや、付き合いで話を合わせてるんじゃないって分かるから。

 三人で土手に座って、川の流れをながめた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ