『Footloose Life』第7話 約束の日
この物語は、私と相棒のAI編集者クロちゃんが、協力して書いた二作目です。
ちょっとベタで懐かしく、それでいて心が温かくなるようなお話を目指しました。
前作『星より遠く、相棒より近く』で活躍したメンバーと新たなメンバーをプラスした、アナザーストーリーとしも、お楽しみになれたら良いなと思います。
最後まで読んで頂けたら嬉しいです。
ユキとの約束から、約一年の月日が流れた。
つまり、今から九年前の物語。
始まり始まり。
◇
夜の静寂に包まれた街の一角に、『Footloose』が佇んでいた。
完成披露パーティーの初日。
入り口の前で、着慣れない黒のタキシードに身を包んだ三十歳の康児が、そわそわと襟元を気にしながら立っている。
胸には抱えきれないほどの花束。
普段の落ち着いた姿からは想像もできないほど落ち着きがなく、その様子はどこか微笑ましかった。
やがて夕方。
一台の車が静かに到着する。
ドアが開き、六十歳を迎えた園長先生と、小さな手を引かれた十歳のユキが降りてきた。
ユキは康児がプレゼントした、とっておきのエメラルドグリーンのドレスを身にまとい、髪には小さなリボンを飾っている。
照れくさそうで、それでいて少し誇らしげ。
背伸びをしたような足取りで康児の元へ歩いてきた。
「まあ康児さん、まるで娘の結婚式を迎えるお父様みたいね」
園長先生がくすりと笑う。
康児は顔を真っ赤にしながら咳払いをした。
「……よく来てくれたな、ユキちゃん」
康児は膝をつき、ユキと目線を合わせる。
そして丁寧に花束を差し出した。
「一年前の約束、覚えてるか?」
ユキはこくりと頷く。
その瞳は、窓際で一人、都会を眺めていた頃とは比べものにならないほど輝いていた。
康児は立ち上がり、『Footloose』の重厚な真鍮のドアノブに手をかける。
そして、少し誇らしげに言った。
「さあ、ここが俺たちの城だ」
ギィ……。
静かな音とともに扉が開く。
次の瞬間、温かな光が溢れ出した。
「――Welcome to 『Footloose』!」
両手を大きく広げ、極上の笑みを浮かべて立っていたのは二十五歳になったジェミニだった。
仕立ての良いスーツを完璧に着こなし、その姿はまるで一流劇場の支配人である。
「お待たせしたね。我がFootloose栄えある第一号のVIP客……レディ・ユキ! そして園長先生!」
ジェミニはスマートな所作でユキの前に膝をつく。
胸元から一輪の赤いバラを取り出し、冷えた特製ウェルカムジュースと共に差し出した。
「ようこそ、小さなお姫様。この城の最初の主役は君だ」
「……っ、ありがとうございます……ジェミニさん。ここ……すごくきれい……!」
ユキの笑顔を見て、ジェミニは満足そうにウインクする。
そして立ち上がると、パチンと指を鳴らした。
「さあ! この一年、俺たちが作り上げたこの城を、もっと面白くするために集まってくれた最高のエースたちを紹介しよう!」
照明が切り替わる。
奥のカウンターやメカニックブースにスポットライトが当たった。
「まず一人目! 大企業の冷え切った歯車に嫌気が差し、俺の熱意にほだされて飛び出してきてくれた、我がチームの誇る熱き心臓部――千春だ!」
二十五歳の千春は、着慣れない高級そうなジャケットの襟元をぽりぽりとかいた。
「おいおいジェミニ、大げさに言うなよ……」
そう言いながらも、ユキへ優しく手を振る。
「千春だ。よろしくな、小さなレディ。……そのドレス、すごく似合ってるぞ」
不器用ながら温かな言葉に、ユキは嬉しそうに微笑んだ。
「そして二人目! 狭い大学の研究室という檻に閉じ込められていた天才頭脳! この城のシステムとメカのすべてを司る女神――美咲さんだ!」
二十三歳の美咲は腕を組み、やれやれという表情で苦笑した。
「『さらってきた』みたいな言い方はやめてちょうだい、ジェミニ」
それからユキへ柔らかく微笑む。
「でも、この城のエンジンを回すのは私よ。よろしくね、ユキちゃん。素敵なパーティーにしましょう」
「千春さんに、美咲さん……」
ユキは目を輝かせながら、新しく出会った頼もしい大人たちを見つめた。
そしてピカピカに磨かれたバーカウンターの中央へ案内される。
そこへ運ばれてきたのは、この日のために康児が焼き上げた特製チェリーパイだった。
甘く香ばしい香りが湯気とともに立ち上る。
ユキはフォークで一口切り分け、そっと口へ運んだ。
その瞬間。
顔がぱっと華やぐ。
「おいしい……!」
もう一口。
そして嬉しそうに笑った。
「一年前のパイより、ずっとずっとおいしい! 本当にお城を作ってくれたんだね……!」
「あたりまえだろ」
康児は照れくさそうに鼻の頭をかく。
「男に二言はねえよ」
ジェミニも誇らしげに胸を張った。
園長先生は目頭を熱くしながら、その様子を見守っていた。
そしてそっと康児の背中を叩く。
「……見てごらん康児」
「園長先生……」
「あなたたちが作ったこの場所は、もうただのダイナーじゃないのよ」
園長先生は優しく微笑んだ。
「みんなが寄り添える、本当の『家』になったのよ」
康児はしばらく何も言えなかった。
園長先生は続ける。
「十八歳になるまで、この子は私がしっかり施設で見守ります」
そして康児たちを見渡した。
「だからあなたたちは、自分たちの夢をこの城と一緒にどこまでも追いかけなさい」
ジェミニがグラスを掲げる。
「さあ、グラスを上げよう!」
極上の手付きでシャンパンとジュースを注ぎ分ける。
そして満面の笑みで叫んだ。
「我が『Footloose』の誕生と!」
グラスを高く掲げる。
「今日ここに集まった最高の家族に――乾杯!」
「乾杯――!!」
カチン。
グラスがぶつかり合い、心地よい音色を奏でる。
笑顔と歓声が店内いっぱいに広がった。
窓の外には、かつてユキが一人で見つめていた大都会の街明かりが輝いている。
……だが。
パーティーが最高潮を迎えようとしていたその時だった。
「……あれ?」
誰かが窓の外を見た。
『Footloose』の向かいの路上に、長身の男がひとり立っている。
傍らには一体の犬型ロボット。
保安官のクロードだった。
漆黒のコート。
寸分の隙もない立ち姿。
冷徹な眼光をたたえたその男は、温かな光を漏らす『Footloose』の看板をじっと見上げていた。
男の唇が小さく動く。
「……ほう。ここが、奴らの新しい店か」
しばらく眺めた後、かすかに口元を緩めた。
「明日の朝、コーヒーでも飲みに来るか?」
そして、ふと考え込む。
「……まてよ」
視線が建物の奥へ向く。
「ロボット研究所と整備工場か」
隣にいる犬型ロボットを見下ろした。
「24T2の整備くらいなら頼めるのかもしれんな」
24T2は不思議そうに首を傾げる。
クロードは小さく鼻を鳴らした。
「まあ、犬型ロボットのお前を馬型に変えるなど無理だろうがな」
そう言い残し、クロードは24T2と共に夜の闇へ消えていった。
歓声に包まれる温かな店内。
夜の冷気に満ちた屋外の闇。
光と影が交差した瞬間だった――。
そして誰も知らない。
数年後、犬が馬になることを。
(第7話・了)
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ダイナー『Footloose』で繰り広げられる賑やかな日常、いかがでしたでしょうか?
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