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異世界で芽吹く遅咲きの恋シリーズ

『じゃないほう』として召喚された私ですが、大型犬のような騎士に愛されるようです

作者: 鯨の仔
掲載日:2026/09/05

仕事を終えた秋塚琴音は、いつものように駅から自宅へ向かって歩いていた。

36歳の地味で事務な会社員で、上司たちよりもPCの扱いには慣れているけれど特別な資格があるわけでも誰もが振り返るような美貌があるわけでもない。

仕事は真面目にこなすし頼まれれば断れない程度にはお人好しな、どこにでもいる平凡な会社員。

それが琴音という人間だった。


ただ、最近少しだけ気にしていることがある。


「……痩せなきゃなぁ」


道中にあるショーウィンドウに映った自分の姿を見て、琴音は小さく呟いた。

髪を耳にかけると、肩ほどまである髪の内側にブルーグレーのインナーカラーがちらりと覗く。

最近思いきって入れたその色だけはとても気に入っていたが、下に続く身体に目を向ければここ数年ずっと変わらないぽっちゃりとした体型が目にうつる。

ダイエットをしようと思ったことは何度もある。

何度もあるけれど。


「……だって、ご飯も甘いものも美味しいんだもんなぁ」


結局、今日もコンビニの新作スイーツを買ってしまった。

今週も仕事を頑張ったのだから仕方がないと思う。

そう自分に言い聞かせながら、琴音はスマートフォンを取り出すと姉からメッセージが届いていた。


『今日、帰り遅い?』

『今駅から歩いてるとこー。新作スイーツ買ったから、半分食べる?』

『食べる!待ってるね』


その短いながらも平和なやり取りに、琴音は少しだけ笑った。

いつもと同じ道。

いつもと同じ時間。

明日もきっと同じような一日がやってくるのだろうと信じて疑っていなかった。

だから自分を支えていた足元の地面が突然消えたその瞬間、琴音は何が起こったのか理解できなかった。


「……へ?」


まるで巨大な落とし穴に落ちたように身体が一気に下へと引っ張られる。


「ちょっ……!」


声を上げた瞬間に視界が真っ暗になり、身体がぐるりと回ったような感覚がして――。


次に琴音が目を開けた時には、彼女は見知らぬ空間にいた。

いや、正確にはそこは石造りの高い天井の何とも重厚感のある部屋だった。


「…………え?」


座り込んだまま周囲を見渡すと、見知らぬ人々が何人もいて漫画やアニメで見るような巨大で複雑な紋様が床いっぱいに拡がり青白い光を放っていた。

彼女はその模様の際、壁と柱の影にいるようだ。

そして人々の視線の先である部屋の中心には、長い髪の可愛らしい顔立ちのどう見ても女子高生な一人の少女がきょとんとした表情で立っている。


「成功したのか!」

「聖女様がおいでくださった!」

「なんと美しい……!」

「陛下と殿下にもすぐに――」


周囲が喜びの声と驚きの声がまじりあった歓喜の声で一気に沸き立つ。

次々と少女の周りに人々が集まっていく光景を、琴音は座り込んだままただ呆然と眺めていた。

誰も琴音を見ていないし誰も気がついていない。

いや、正確には見えているのかもしれないが誰も琴音に声をかけようとはしなかった。

琴音はもう一度ゆっくりと周囲を見回した。

白いローブを着た人、立派な服を着た男性、杖を持った老人に部屋の中心で戸惑った顔をしている女子高生――

その光景を眺めていると、琴音の頭の中にこれまで読んできた数々の小説の内容が一気に蘇ってくる。


――異世界召喚。


――聖女召喚。


――勇者召喚。


――複数人の召喚。


――そして。


「もしかして、これって…『じゃないほう』……?」


思わずボソリと声に出た。

それと同時に琴音の脳裏に、嫌な想像が次々と浮かんでくる。

状況からして物語の主人公は、あの女の子だろう。

なら、自分は何なのだろうか。

巻き込まれただけの一般人

所謂――『じゃないほう』なのでは?


背中を冷たい汗が伝った。

物語の展開ならば、主人公ではない異世界人は邪魔者扱いされるのが鉄板ネタのひとつだ。

良くて保護という名の飼い殺しだし悪ければ――。

琴音は、そこまで考えてぞっとした。


「……いや、いやいやまさかそんな」


小さく首を振る。


「あれは小説だから、フィクションだから」


分かっている。

こんなことを考えること自体が非現実的だと分かってはいるけれど、今自分がいる場所も状況もどう見ても小説に出てくるような世界としか思えなかった。

ドクドクと脈打つ心臓に抗えず、悪い想像で頭が埋め尽くされる。


もしかしたら――


「逃げよう」


誰にも聞こえないほど小さな声でそう呟くと、琴音はゆっくり立ち上がった。

幸い全員が中央の少女に夢中になっていて、誰もこちらを気にしていない。

その隙に意識を扉の方へと集中させる。


「……警備、杜撰過ぎじゃない?今はその方が助かるけど…」


こんな重要そうな召喚の場なのに、出入口には誰もいないようだ。

琴音はそろそろと後退した。

一歩。

また一歩。

心臓の音がうるさいけれど、姿勢を低くしたまま足を止めずにどうにか扉まで辿り着き、そっと手を伸ばして人ひとり通れるほどだけ扉を開ける。


「……よし」


小さく息を吐いて部屋から出たが、外へ行くためにはもう一つ大きな扉を通らなければならないようだ。

琴音は慎重に扉へ近づいて先ほどと同じように少しだけ開ける。

その瞬間。


「止まれ!」


低い声が飛んできた。


「ひっ……!」


琴音は反射的に扉を閉じようとした。

しかし。


「待て!」


静止の声と同時に外から扉を押さえられ、無情にも声の主と対面することとなった。

力の差は歴然であっさりと先ほどよりも開かれたそこから現われたのは、ふわふわとしたアーモンド色の髪とは裏腹に鍛え上げられた大きな身体をした一人の男だった。

騎士らしい装備を身につけ、腰には剣を帯びている。

深みのあるブルーグレーの瞳は、琴音の髪に入れた色と偶然にもよく似ていた。

男は琴音を見るなり、驚いたように目を見開いた。


「……え?」


それから、琴音が先ほどまでいた部屋の方向と彼女を交互に見る。


「あなた、もしかして召喚された方ですか?」

「……たぶん」

「たぶん?」

「私も、よく分かっていなくて……」


男は状況から察して、琴音が逃げようとしていたことに気がついたらしい。


「もしかして、ここから出て逃げようとしていました?」

「うっ……はい…」


正直に答えてしまった。

男は一瞬固まったが、琴音を責めるようなことはなく、困ったように眉を下げたながらも、少し屈んで目線を合わせて安心させるように柔らかく笑った。


「大丈夫ですよ」


その笑顔は、先ほどまでの緊張感のある騎士の姿とはまるで違っていた。

ふわふわの髪に合う人懐っこい微笑みで、琴音の張り詰めていた何かがほんの少しだけ緩む。


「……大丈夫?」

「はい。少なくとも、俺はあなたをどうこうするつもりはありません」

「……本当に?」

「本当です」


即答だった。

彼はそう言って、琴音へ手を差し出した。


「それに、ここから一人で出て行かれるのは危険です」

「でも、あの部屋に戻っても……殺されたりしませんか?」

「え?」

「私、『じゃないほう』なので……その…」

「…………」


困惑した男は数秒黙ってから


「……とりあえず、戻りましょうか」

「やっぱり殺されるんですか!?」

「違います!」


思わず大声になった男に、琴音はびくっと肩を跳ねさせた。


「す、すみません」


男は慌てて声を落とした。


「殺したりません。絶対に」

「……本当に?」

「本当です」

「飼い殺しにも?」

「しません」

「虐めたり…拷問みたいなとか、ヤバい森に着の身着のままで捨てられたりとか」

「なんですかそれ。そんなことしないですし、させませんよ」


そう言われても琴音は警戒心を緩めることができず、目の前に差し出された手と男の顔を交互に見つめた。

目の前の男は急かすことも無くただじっと待ってくれている。

大きな姿なのにどこか犬を思わせるのは、風がふわふわの髪をなびかせているからだろうか。

それとも小柄な自分を怯えさせないように膝を折って、目を合わせてくれているからだろうか。

絆されてしまったのかもしれないし、殺したり虐めたりしないしさせないとはっきり言葉にされて少しほっとしたのかもしれない。


「……信じていいですか?」


琴音の発した言葉に男は少しだけ驚いたような顔をして、柔らかく笑った。

またもや人懐っこい笑顔に不覚にもきゅんとしてしまう。


「はい。少なくとも、俺はあなたの味方です」


その言葉と表情にずっと強張っていた肩の力がまた少し抜けるのを感じ、琴音の指がそっと彼の手に重なった。

大きくて、温かい手だった。


「……ありがとうございます」

「いえ」


自然な動作でエスコートされながら来た道を引き返す。


「俺は第三騎士団所属のアルフレッド・ヴィルヘルムです」

「……秋塚琴音です」

「アキツカ……コトネ」

「はい」

「コトネさん」


名前を呼ばれただけなのに、琴音は少しだけ安心した。

自分が誰なのか、ちゃんと見てくれている人がいる。

それだけで、張り詰めていたものが1枚ずつ剥がれ落ちるように確かに少しずつ緩んでいくのが分かった。




***




先ほどの部屋へ戻ると、少女の周囲に集まっていた人々がようやく琴音の存在に気がついたようだった。


「あ……」

「もう一人いたのか」

「まさか、巻き込まれたのか?」


予想していたような冷たい視線や怒鳴り声などは無かったものの、先ほどとはうってかわった視線の数々に、せっかく緩んだ琴音の身体が再びこわばる。

やっぱり怖い、そう思って一歩後ずさるが、隣にいたアルフレッドが琴音へ小さく笑いかけた。


「安心してください。俺が傍にいますから」


出逢ったばかりだと言うのに、彼の声とその言葉に琴音は安心感を覚えて少しだけ息を吐いた。

それからの説明は、思っていたよりずっとまともだった。

召喚された少女は、どうやら本当に聖女として召喚されたらしいが、案の定、琴音は巻き込まれてしまった存在のようだ。


「申し訳ありませんでした」


召喚を執り行ったらしい魔術師が、深々と頭を下げた。


「本来はお一人だけを召喚する予定だったのですが、どうやら召喚魔法の余波に巻き込まれてしまったようです」

「余波……つまり、私はこの世界に必要ないということですか?」


確認すると、説明役の男性が申し訳なさそうに頭を下げた。

召喚された少女とは異なり琴音には特別な力が確認できず、やはり巻き込まれ事故の『じゃないほう』だったのだ。


「誠に申し訳ありません」


琴音は乾いた笑いを漏らした。

けれど、説明を聞けば聞くほど、少なくとも自分を害そうとしているわけではないことは分かってきた。

そして――。


「……元の世界に帰る方法は?」


琴音が尋ねた瞬間空気が静まりかえり、たったそれだけで答えは分かった。


「……現時点では、確認されておりません」

「そうですか…」

「過去に他国含めて召喚の儀は確認されていますが、元の世界へ戻れたという記録は――」

「ないんですね」

「はい」


琴音は胸の奥がずしんと重くなり、思わず唇を噛んだ。

怒鳴りたいし、泣きたいし、何で勝手に呼んだのかと叫んで責め立てたい。

家で待っていた家族だっていたのだ。

けれど琴音はグッと気持ちを押し込んで、泣くこともせず虚勢を張る為に背筋を伸ばした。


「分かりました。では、私がこの世界で生活するために必要なものを用意してください」

「え?」

「最低でも住む場所、当面の生活費、こちらの金銭感覚を含めた生活に必要な知識についての説明、それから仕事の斡旋を希望します」


相手がぽかんとする。


「仕事の斡旋……ですか?」

「はい。私は働いて生活していましたし、今後生きていく為には必要でしょう?」


琴音は淡々と続けた。


「いきなり異世界に連れてこられて、帰る方法もありません。それなら、少なくともこの世界で一人で生きていけるようにしてもらわないと困ります」

「もちろん、こちらとしても可能な限り――」

「それと、慰謝料についてもお願いします」

「慰謝料……」

「当然ですよね?」


琴音の内心は怒りと絶望で感情がぐちゃぐちゃだったが、大人の矜持を保つため笑顔で粛々と話を進めた。

何が聖女召喚だ。

36年生きてきた会社員を舐めるな。

突然連れてきたなら、せめて生活保障くらいしっかりしろ。

琴音はその場で必要な条件を一つずつ整理し、最後には書面にしてもらうところまで話を進めた。

琴音は出来上がった書類を確認してから、ようやく肩の力を抜いた。

すると、それまで黙って様子を見守っていたアルフレッドの上司だろう一人の騎士が声をかけてきた。


「ヴィルヘルム」

「はい」

「彼女の護衛を任せられるか」


アルフレッドが目を瞬く。


「自分、ですか?」

「ああ。彼女の存在に気が付いたのはお前だろう。それに、彼女もお前と話している時のほうが明らかに緊張が和らいでいる」


そう言われて、琴音は隣に立つアルフレッドを見上げた。

確かに、召喚された直後からずっと張り詰めていた身体が、彼が傍にいてくれている間だけは少しだけ楽になっている。


「でも……護衛って」


琴音は戸惑った。

騎士が一人、常に自分の傍についてくれることは心強い反面、自分は聖女でもないし特別な力があるわけでもないただの一般人なのでどうにも落ち着かない。

何よりそんな自分のために、誰か一人の時間をずっと使わせてしまうことが申し訳なかった。

そんな私の気持ちをよそに、団長は少し考えるように顎へ手を添えた。


「そうなると、住む場所も近いほうが都合がいいな」

「え?」

「ヴィルヘルム、お前の家でいいんじゃないか?」

「……俺の家ですか?」


目を丸くするアルフレッドに、団長は悪戯心を隠すことなく続ける。


「騎士道にかけて、不埒な真似などしないだろう?」

「当然です!」

「家も新しいし、どうせ部屋も余っているんだろう?」

「それは……まあ」

「なら、ちょうどいい」


まるで何でもないことのように言われ、琴音は目を白黒させた。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


思わず声が上ずる。


「アルフレッドさんの家って……その……奥さんとか、恋人とか……」


そこまで言って、琴音はさらに慌てた。


「――あっ!それか婚約者さんとかもいるんじゃないですか?」

「いません」

「でも!」

「本当にいません」


アルフレッドが苦笑しながら否定をしているが、琴音は首を横に振った。


「駄目です、駄目です。そんなの……お相手の方を不安にさせるなんて言語道断です」

「だから、相手はいませんって」

「でも、これからできるかもしれませんし!」


琴音は必死だった。

見ず知らずの異世界人である自分が、見た目からして年下であろう若い騎士の家に住み込むなんて、もし恋人や婚約者ができたら絶対に迷惑になる。

そんなことを考えてしまうと、とても頷けなかった。


「私、一人で大丈夫です」

「コトネさん?」

「この世界のことを教えてもらえれば、一人で頑張れます。住む場所だって、用意していただくのが難しいのなら自分で探しますから」


そう言いながら、琴音はぎゅっと自分のスカートを握った。

本当は知らない世界で一人になることも、何も分からないまま自分だけで生きていかなければならないことも怖いけれど、それを口にするのは躊躇われた。

琴音の性格上、親切にしてくれた人にこれ以上の迷惑をかけたくないと思ってしまうのだ。

そんな琴音の様子を見たアルフレッドは、安心させるように膝をついて彼女の手を取り顔を覗き込みながらゆっくりと言葉を紡ぐ。


「……そんな相手はいませんから、大丈夫ですよ」

「でも……」

「本当にいません」


アルフレッドは、今度ははっきりと琴音に言い聞かせるように続ける。


「俺は独身ですし、恋人も婚約者もいません。因みにもう間もなく行き遅れの仲間入りです」

「……」

「だから、コトネさんが気にするようなことは何もありません」


琴音は、まだ迷いは消えないまま困ったように視線を落とす。

するとアルフレッドは、少しだけ間を置いて琴音をまっすぐ見つめながら静かに続けた。


「それに……」

「え?」

「もしコトネさんが嫌じゃないのなら、俺の家に来てほしいです」

「……私が?」

「はい」


その声には押しつけるような響きはなく、ただ琴音を安心させようとするような優しさがあった。


「知らない世界で、いきなり一人で暮らすのは大変でしょう。俺の家なら部屋も余っていますし、分からないことがあればすぐに聞いてもらえます」

「……でも」

「あなたが嫌なら無理にとは言いません」


アルフレッドはそう言って、少しだけ笑った。


「ただ、俺はコトネさんが一人で不安な思いをするくらいなら、傍にいてあげたいと思っています」


琴音は何も言えなかった。

胸の奥が、じんわりと熱くなる。

一人で大丈夫。

そう言い聞かせていたはずなのに、本当は誰かに「一人じゃなくていい」と言ってほしかったのかもしれない。


「……本当に、いいんですか?」

「もちろんです」


アルフレッドは迷いなく答えた。

琴音はしばらく俯いたまま考えていたが、小さく息を吐いて、ゆっくりと頷いた。


「……では、お世話になっても……いいですか?」

「はい!」


アルフレッドの表情が、ぱっと明るくなる。


「よろしくお願いします。コトネさん」


まるで褒められた大型犬がふさふさの尻尾を振っているような、そんな嬉しそうな顔を見て、琴音の口元にも思わず自然と笑みが浮かんだ。


「ふふ…よろしくお願いします」


こうして琴音は、この世界での最初の居場所を得ることになった。

それが後に、自分にとって何より大切な場所になることを、この時の琴音はまだ知らなかった。




***




「ここが俺の家です」


連れてこられたのは、王都の一角にある庭付きの一軒家だった。

豪邸ではないけれど、1人で暮らすには十分すぎる広さがある。


「綺麗だし大きいなお家ですね」

「騎士爵をもらった時に買いました」


アルフレッドは少し照れくさそうに頬を掻いた。


「その…嬉しくて、勢いで」

「勢いで家を?」

「はい」

「……すごい」

「使っていない部屋もあるので、正直ちょっと広すぎたかなとは思ってます」


男らしく散らかっているのかと思い込んでいたけれど、玄関を開けると意外にも中はきちんと整理されいた。


「使用人はいないので、家事は自分でやっています」

「全部ですか?」

「料理も洗濯も掃除も、一応」

「すごいですね」

「いえ、その……普通ですよ?でも褒められると嬉しいですね」


褒められたことが照れくさいのか、ほんのり耳を赤くして口元が緩んでいる姿に琴音は思わず笑ってしまった。

先ほどよりも柔らかい雰囲気で接してくれる彼に、どんどん緊張がほぐれていく。


「私もできますよ」

「え?」

「料理も洗濯も掃除も。実家暮らしでしたけど、普通にやってましたから」

「でも、コトネさんは客人です」

「お世話になるのに、何もしないほうが落ち着きません」

「……」

「それに、誰かと一緒にやるほうが早いでしょう?」


少しだけ迷ってから、アルフレッドは頷いた。


「では……一緒に分担しましょう」


その日から二人の生活が始まり、料理は琴音が担当することになった。

異世界の食材は知らないものも多かったが、基本的な調理法はあまり変わらない。

野菜を煮込み、香草と塩で味を整え、焼いた肉を添える。

決して特別な料理ではないけれど


「……美味しい」


アルフレッドは、毎食目を輝かせて喜んでくれた。


「こんなに美味しいものを毎日食べられるなんて!」

「普通の家庭料理ですよ」

「俺にはご馳走です」

「大げさです」

「大げさじゃありません」


琴音が笑うと、アルフレッドも嬉しそうに笑った。

その笑顔を見ることが、いつからか少し楽しみになっていた。

朝には「いってらっしゃい」と送り出して、夜には「おかえりなさい」と迎える。

そんな穏やかな生活が、静かに琴音の中へ馴染んでいった。


「アルフくん……あ」


琴音は口にしてから慌てて口を押さえたが、しっかりと聞こえていたらしいアルフレッドが振り返る。


「はい?」

「……何でもないです」

「今、アルフくんって呼びました?」

「呼んでません」

「呼びましたよね?」

「気のせいです」


アルフレッドが楽しそうに笑っているから、誤魔化すことが急に馬鹿らしくなる。


「……呼びました」

「もう一度」

「嫌です」

「お願いします」

「そんなに嬉しいんですか?」

「はい!」


即答だった。

琴音は吹き出してしまう。


「……じゃあ、アルフくん」

「はい!」


嬉しそうな満面の笑顔に、ブンブンと嬉しそうに揺れる尻尾の幻覚まで見えてくる。

そして少し迷ったあと、彼はおずおずと伺うように言った。


「俺も、コトネさんじゃなくて……コトネって呼んでもいいですか?」


琴音の胸が、くすぐったくなる。

アルフレッドに呼ばれるその響きは、不思議と嫌ではなかった。


「……いいですけど」

「コトネ」

「はい」

「コトネ」

「2回呼びましたね」

「呼びたくなったので」


彼の蕩けるような表情に琴音は頬を熱くした。

長年恋人もいなかった彼女にとって、このようなやりとりに免疫がないのだ。


「コトネももう一回呼んでください」

「嫌です」

「お願いします」

「やです」

「コトネ」

「……なに」

「もう一回」


甘えるような声音に困り果てた琴音は、視線を逸らしたまま小さく言った。


「……アルフくん」

「はい!」


はじけるような満面の笑みに、やっぱり大型犬みたいだと思いながら彼女は火照る顔をパタパタと手で仰いだ。




***




琴音は帰れない事実を少しずつ受け入れ、ギルドの裏方として帳簿や依頼書の整理を手伝う仕事を始めた。

数字や書類を扱う仕事は、元の世界での経験が意外なほど役に立ったし、職場や街の周囲の人たちにも恵まれた。

確かに生活は少しずつ整っていったけれど、ひとりになるとどうしても寂しくなり元の世界のことを考えてしまう日々は続いていた。

仲の良かった家族はどうしているだろう。

自分が消えたことで、どれほど心配をかけただろう。

考え始めると、止まらなかった。

アルフレッドが帰宅するまでの時間は、ネガティブな思考ばかり考えてしまい特に時間を長く感じることが多かった。


「ただいま!」


玄関から聞こえる明るい声。


「おかえりなさい」


そう返すと、彼はいつだって嬉しそうに笑った。

その笑顔に救われていた。


***


「……帰りたい」


言葉にすれば、堰が切れたように涙が溢れた。

もういい歳なのに情けないと思うけれど、一度溢れ出た涙は止まらない。


「お母さん、お姉ちゃん、会いたいよ……」


頼ればいいのかもしれない。

寂しいと、アルフレッドに言えばいいのかもしれないけれど、琴音にはできなかった。

そうじゃなくてもいい大人で年上の自分は、もう十分過ぎるほどお世話になっているのだ。

これ以上、彼の優しさに甘えてはいけないと思ってしまう。

そんな日は、扉の外で足音が止まったことに気が付かないまま声を押し殺して泣いていた。


アルフレッドは、夜に琴音が一人で泣いていることに気がついていた。

けれど、扉を叩けなかった。

元の世界の家族を失った痛みを、自分が簡単に慰めていいのか分からなかったからだ。

ただそんな日の翌朝は、いつもより明るく笑う。


「おはよう、コトネ」

「おはよう、アルフくん」


その笑顔が少しでも本物になるようにと、そう願いながら。






***






とある日のことだった。

琴音は買い物の帰り、偶然同僚らしい騎士たちと話しているアルフレッドを見かけて声をかけようとしたところで、会話が耳に入ってくる。


「例の女性、まだお前の家にいるんだろう?」


琴音の足が止まる。


「……ああ」


アルフレッドの声。


「このままってわけにもいかないだろ。お前だっていい歳なんだし」

「……ああ、まあ、そうなんだよな」


心臓が、嫌な音を立てた。


「最初は保護だったとしても、いつまでもこのまま一緒に暮らすわけにはいかないだろ。ちゃんと考えた方がいいぞ」

「それも分かってる」

「彼女だって大人なんだから、もうこの世界で一人で生きられる。だからこそ、お前が曖昧なまま傍に置くのはよくない」

「……そうだな」

「出て行って貰うなら早めに言った方がいいんじゃないか?」

「例の御令嬢との話だってあるんだろ?」

「で、どうするんだ?」


アルフレッドは少し黙ってから、低い声で答えた。


「……そうだよな」

「俺も、そろそろ真面目に――」


そこから先を、琴音は聞けなかった。

耳の奥が熱くなって、息が苦しくなる。


――このままってわけにもいかない。


――ちゃんと考えた方がいい。


――曖昧なまま傍に置くのはよくない。


――出て行って貰うなら早めに。


それはきっと、自分のことだ。


「御令嬢……」


アルフレッドは、誰か貴族の女性と結婚することを考えているのかもしれない。

その時、自分が家にいたら邪魔になるけれど優しい彼は私に出ていけと言えなかったのだろう。

琴音は、逃げるようにその場を離れた。


一方、彼女が先ほどまで近くにいたことすら知らない彼らの話は続いていた。

アルフレッドは同僚へ向かって、照れと緊張で声量を落としながら告げていた。


「……実はそろそろ、コトネにプロポーズしたいとは思っていて」

「はぁ?なら早くしろよ」

「何だよやっぱりそうなのか」

「ただのリア充かよ、心配して損した」

「いや、それが…コトネが俺のことをどう思ってるのか、分からなくて」

「は~~~?贅沢な悩みだな」

「あんなに仲良く一緒に暮らしててそんなこと言うのかよ」

「これだからリア充は」


そんな賑やかな会話が続いていたが、彼女はもう立ち去った後だった。




***




息を切らしながら急いで家に戻った琴音は、玄関を閉めた瞬間に泣き出した。


「……私、馬鹿だな」


玄関に座り込んだ途端、涙が落ちた。

あまりにも幸せ過ぎて、自然とずっとこのままこの家で一緒にいられると思い込んでいた。

朝に「いってらっしゃい」と言って、夜に「おかえりなさい」と言うそんなあたたかい日々がこれからも続くことを、いつの間にか望んでしまっていたのだ。


「……好きだったんだ」


ぽろりと涙が落ちる。


「アルフくんのこと……好きだったんだ」


気が付いてしまった。

いつからかなんて分からない。

いつも自分を助けてくれたから、この世界で初めて自分の名前を呼んでくれたから、帰れない現実を知った時も隣にいてくれたから。

好きな理由はいくらでも思いつく。

いつの間にかアルフレッドが帰ってくる時間が一日の中で一番楽しみになっていて、くだらない話をして、一緒にご飯を食べるそんな毎日が愛おしくて幸せで、そんな日々をくれる彼を好きにならないほうがおかしかった。

けれど、好きだと自覚したからこそ自分の愚かさが嫌になった。


「私、36歳のおばさんじゃん……アルフくんはただ哀れだった私に優しくしてくれただけなのに、何を勘違いしてたんだろう。思い違いも甚だしい。」


彼は32歳で4歳も年下だし、騎士爵まで持っている上に実家は男爵家。

対して自分は異世界人で、この世界の住人ですらなかった上に特別な能力もない言わば平民で、少し痩せたとは言えぽっちゃり体系は健在なのだ。


「私みたいなのが、いつまでも居座ってたらそりゃあ駄目だよね」


泣きながら、琴音は机へ向かった。

何度も涙を拭いながら手紙を書き上げた。


――今までありがとうございました。


――助けてくれて、ありがとうございました。


――勝手に甘えて、ごめんなさい。


――いつまでも居座ってしまってごめんなさい。


――私なんかがこの世界に来てしまって、ごめんなさい。


――どうか、幸せになってください。


最後に「さようなら」と書き、琴音はペンを置いた。

残っていた給料も封筒に入れて手紙の傍に置いた。


「少ないだろうけど……今までの生活費の一部として、お返しします」


誰もいない家を見渡す。


「……ありがとう」


琴音はマントを羽織り、静かに家を出た。




***




勢いのまま家を飛び出したものの、行く宛てなどなかった。

早く出ていかなければ、そのことしか考えていなかった。

ふらふらと歩いているうちに、以前アルフレッドに連れてきてもらった王都が一望できる高台にたどり着いた。


「嫌なことがあった時は、ここに来るといい」


そう言って、笑っていた彼を思い出しながら琴音は高台の端に座り込んだ。


「どうして……」


ポタリポタリと涙が落ちる。


「どうして私だったんだろう」

「……ひとりぼっちは嫌だよ。寂しい。怖い。」


自分の不安な気持ちを、この世界に来てはじめてはっきりと口にしたかもしれない。


「帰りたいよ……」


それは元の世界の家を思っての言葉だったのか、先ほど出てきたばかりの家を思っての言葉だったのか分からない。

彼女は止めどなく流れる涙を抑えることなく泣き続けた。

徐々に夜が近づいき空には星が増え、ヒヤリとした風を感じて、いつの間にか太陽が沈んでしまっていたことに気がつき、琴音は顔を上げた。


「……綺麗」


実家がある田舎に住んでいたから、元の世界でもこんなふうに星が見えたことを思い出す。

帰りたい。

寂しい。

誰かに傍にいてほしい。

心が不安定なまま、ずっと我慢していた気持ちが先ほどから全く止まらなくなっている。

そんな彼女の脳裏に、突拍子もない一つの仮説が思い浮かぶ。

異世界転移や異世界転生ものの小説の中では、死んだ人間が異世界へ行くことが多い。

それならば、この世界で死んだら元の世界へ帰れるのではないだろうか。

冷静であれば、こんな馬鹿馬鹿しいことを実行しようなどとは思わなかっただろうが、正常な判断ができていない琴音はふらふらと崖側へ引き寄せられて柵の向こうを見下ろしていた。


怖い。

痛いのだって嫌だ。

それでも。


「……ひとりぼっちでいるくらいなら、もう向こうに帰りたい」


琴音が、柵へ足をかけた。

その時。


「――コトネ!」


夜の高台に、叫び声が響いた。

琴音が思わず振り返る。

一人の男が走ってくるのが見える。

息を切らして。

髪を乱して。

必死に。


「アル……フ…くん…?」


次の瞬間大きな身体が琴音を引き寄せ、力いっぱい抱きしめた。


「――っ!」


強い腕。

逃げる隙間なんてないほど力強く掻き抱いてくる身体が、わずかに震えていた。


「……間に合った……」


掠れた声。


「アルフくん……」


荒い息と汗ばんだ熱い身体に、どれほど必死に走ってきてくれたのだろうかと考える琴音の瞳から、新しい涙が零れ落ちる。


「……なんで」

「なんでじゃない!」


強い声に琴音がびくりと震える。

アルフレッドはすぐに声を落とした。

けれど、腕は緩めなかった。


「……ごめん。本当に、怖かったんだ」


琴音は何も言えない。

それでも、昼間の会話を思い出してしまう。


「……離して」

「嫌だ」

「帰らなくちゃ」

「どこへ?」

「……」

「コトネ」

「私、いちゃ駄目なんでしょう?」


アルフレッドの動きが止まる。


「……何?」

「私、いらないんでしょう?」

「誰がそんなことを言った?」


聞いたことのないような低い声だった。

怒っている。

けれど、それは琴音に向けられた怒りではないと分かった。


「……」

「誰?」


アルフレッドが琴音の顔を覗き込む。


「誰かにそう言われた?」

「違う……」

「なら、何があったんですか」


アルフレッドは琴音の涙を指で掬いながら、いつものように優しく問う。

大好きな優しい声に抗えず、止まらない涙を拭われながら嗚咽交じりに昼間に聞いた会話を話した。

アルフレッドが、他の騎士からいつまでもこのままではいけないと言われていたことや、出て行って貰うなら早めに言った方がいいと言われていたこと。

そして。


「アルフくんは、貴族の御令嬢と結婚するんでしょう?」


声が震えた。


「その時に私がいたら、邪魔になるから。だから……出ていかなきゃって」


話し終える頃には、アルフレッドは完全に固まっていた。


「……あの時の自分をぶん殴りたい」

「え……?」

「もっと早く言っておけばよかった」


アルフレッドは、琴音の頬を両手で包んだ。


「俺が考えていたのは、コトネとこれからも一緒に暮らすためのことです」

「……え?」

「同僚は、コトネの為にも曖昧な関係のまま一緒に住み続けるのはよくないと言っていたんですよ」


アルフレッドは少しだけ息を吐く。


「だから俺は、そろそろ琴音にプロポーズしようと思っていたんです」


琴音の思考が止まった。


「……嘘」

「嘘じゃない」

「だって……私」

「コトネ」

「私みたいなの……」

「三十路だってとうに過ぎたし……異世界人だし……こんな年上のおばさんなんか――」

「それ以上言ったら怒りますよ」


優しい声だった。

けれど、その瞳は真剣だった。


「貴方が、自分のことをそんなふうに言うのを聞きたくない」


琴音の唇が震える。


「でも……」

「一緒に暮らすようになって、朝に『おはよう』と言ってくれることが嬉しくて、帰ったときに『おかえりなさい』と言ってもらえることが楽しみになった。

コトネが作ってくれた飯を一緒に食べることが一日の楽しみになって、気がついたらコトネがいない生活なんて考えられなくなってた」


琴音は息を呑んだ。

アルフレッドはまっすぐに、琴音だけを見つめて彼の瞳の色とお揃いの髪を優しく撫でる。


「コトネが笑っているのが好きだ」

「……」

「俺の瞳の色を纏っているのも大好きだ」

「……」

「困った時に眉を寄せるところも、美味しいものを食べて幸せそうな顔をするところも全部好き」

「……見てたの?」

「見てたよ」


少し照れたように笑う。


「ずっと見てた」


琴音の胸が大きく鳴った。


「俺は、貴方と一緒にいるのが好きです」


アルフレッドの声は穏やかだった。

けれど、その言葉には迷いがなかった。


「貴方が帰ってくる場所になりたい」

「……」

「寂しい時に傍にいたい」

「……」

「泣いているなら、抱きしめたい」


琴音の唇が震える。


「……本当に?」

「ああ」

「本当に、私でいいの?」

「コトネがいい」

「……ずっと?」

「ずっと」

「私、重いよ?」


アルフレッドは一瞬きょとんとして。

それから笑った。


「知ってる」

「……ひどい」

「待って、違います」


アルフレッドは慌てて必死に首を振る。


「そういう意味じゃなくて。貴方が何を抱えていても、一緒に傍で支えたいって意味で」


さっきまでの真剣で格好よかった姿との違いに、琴音は思わず泣きながら笑ってしまった。


「アルフくん……」

「俺は、コトネが好きです」


大きな手が、琴音の頬を優しく撫でる。


「大好きです」

「……うん」

「愛してます」


琴音の頬がどんどん赤くなる。


「……いっぱい言うね」

「俺がはっきり言わなかったせいで、こんなことになったので」


アルフレッドは困ったように笑った。


「もう二度と、伝えるのを惜しみません」


琴音は涙を拭う。


「……私も」

「うん?」

「私も、アルフくんが好き」


その瞬間、アルフレッドの目が大きく見開かれた。


「……本当に?」


今までにないほど嬉しそうな顔をした。


「本当」

「俺と一緒にいてくれる?」

「……うん」

「これからも?」

「うん」

「俺の家に帰ってきてくれる?」


琴音は、小さく笑った。


「……ただいまって言ってもいい?」


アルフレッドは一瞬だけ言葉を失ったが、蕩けるように微笑んでこたえた。


「もちろん」


琴音をもう一度、しっかりと抱き締める。

今後は失うまいと必死に掴むのではなく、これからも傍にいると伝えるような優しい抱擁だった。


「帰ろう、コトネ」

「うん」

「俺たちの家へ」


琴音は頷いて、夜空を見上げる。

元の世界には、もう戻れないかもしれないし、大切な家族にも二度と会えないかもしれない。

それでも――


「……アルフくん」

「ん?」

「私、この世界で幸せになってもいいのかな」


アルフレッドは琴音の手を自分の大きな手で包み込む。


「当たり前ですよ」

「……」

「そのために、俺がいる」


琴音はまた泣きながら笑った。


「……ずるい」

「何が?」

「そんなこと言われたら、好きになるしかないじゃない」


アルフレッドは嬉しそうに笑う。


「もっと好きになってくれたってこと?」

「……そうだけど」

「じゃあ問題ない」

「ふふ……」


二人は並んで高台歩くその影は、ぴたりと寄り添っていた。




***




「ただいま」


玄関の前で、琴音は少し照れながら言った言葉に、アルフレッドは笑顔で応える。


「おかえり、コトネ」


その声を聞いて、琴音は泣きながら笑った。


「アルフくん、明日は何が食べたい?」

「コトネが作ってくれるなら何でも!」

「じゃあ、ちょっと豪華にしちゃおうか」

「本当ですか?」

「明日は特別です」

「やった!」


いつもの大型犬のような笑顔。

琴音は思わず笑った。


「……アルフくんって、本当に犬みたいだよね」

「犬?」

「大型犬」

「……それは褒めてる?」

「もちろん」

「なら、いっか」


アルフレッドは嬉しそうに笑う。

大きな手が、琴音の手をしっかりと包んでいた。

もう、一人で頑張らなくてもいい。

寂しい時は寂しいと言っていい。

怖い時は怖いと言っていい。

甘えたい時は、甘えていい。


自分を大切にしてくれる人がひとりでもいてくれたなら、その人の隣で笑っていられたならば、それだけで幸せになれる。

そう教えてくれたのは他の誰でもない、異世界に落ちてきたあの日にはじめて私を見てくれた彼だった。


――これは、異世界召喚に巻き込まれた「じゃないほう」の平凡な会社員が、物語の主人公ではないままに、誰よりも大切な人の特別になるまでの物語。


そして彼女を愛する騎士との、幸せな恋の始まりだった。

出逢いの部分に力を入れ過ぎて絶妙に長くなりましたが、書きたかったからしょうがない。

今作も少しでもたのしんでいただければ嬉しです。

会話文SSばかり書いていた時の癖が抜けないので、徐々に文章力を上げていきたい。


ちゃっかり前作と一緒に『異世界で芽吹く遅咲きの恋シリーズ』でオムニバス化させました。

思いつくままに書きたいものを気ままに追加していきたいと思っております。


ーーーーーーー

恋愛短編デイリー84位!?

半日ほどとは言え100位以内に入れるなんて思っていなかったので衝撃でした

ありがとうございます!!

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