【第一幕】追放 ―― 始まりの理不尽
王都の石畳は、凱旋の足音でにぎやかだった。
人々が沿道に集まり、花びらを投げ、声援を送っている。勇者パーティの帰還だ。魔王軍の前線基地を壊滅させたという知らせは昨日のうちに届いていたらしく、ギルド前の広場は祭りのような熱気に包まれていた。
僕はその少し後ろを、ひとり歩いていた。
別に拗ねていたわけじゃない。ただ、人混みが得意じゃないというのと、荷物が重かったというのと――まあ、なんとなく、輪の中に入るのが気恥ずかしかった。それが正直なところだ。
「リオン」
ギルドの建物に入ったところで、エミルに呼び止められた。
勇者エミル・ハルト。二十歳。明るくて面倒見がよくて、パーティのみんなから慕われている。嫌いじゃない――むしろ、好きな部類だと思っていた。
だから、彼の表情が少しだけ強張っているのに気づいた時、なんとなく察してしまった。
「……なに?」
「その、さ」
エミルは後頭部をかいた。視線が泳いでいる。
「リオンの薬が役に立たないって言いたいわけじゃないんだ。ほんとに。そこは誤解しないでほしくて」
「うん」
「ただ、今回クレアが加入しただろ。回復魔法、使えるじゃないか。即時回復で、魔力さえあれば何度でも。パーティの人数も絞った方が動きやすいって話になって……」
言葉が続かなかった。
僕は少し、壁際に目をやった。パーティの他のメンバーたちがいる。魔法使いのセナ、斥候のトーマ、そして新入りのクレア。全員がどこか別のものを見ていた。視線を合わせようとしていなかった。
わかっていた、とは言えない。でも、驚きはなかった。
僕の調合した薬には、欠点がある。「遅効性」というやつだ。飲んでから効くまでに、だいたい一分かかる。序盤のダンジョン攻略の頃はそれでよかった。でも魔王軍との戦闘が激化してからは、一分が命取りになることもある。その場で傷を塞げる回復魔法の方が、今のパーティには合っている。
それは正しい判断だと思う。
「わかった」
エミルが顔を上げた。
「お世話になりました」
荷物は最初から手元にある。旅の荷物は常にまとまっている性格なので、特にすることもなかった。
ギルドを出て、王都の大通りをしばらく歩いた。
怒りはなかった。本当に。ただ、秋の日暮れ時みたいな気持ちがあった。暗くはないけれど、明るくもない。少しだけ、さびしい。
一緒に飲んだ夜のこととか、エミルが敵に囲まれた時に僕の麻痺解毒薬が間に合った夜のこととか――そういうことを、少しだけ思い出した。
それから、やめた。
さて、どこへ行こう。
財布の中を確認する。当面は困らない程度にある。王都に知り合いは多少いるが、パーティを追われた薬師を雇いたがるところがどれだけあるかは、わからない。
それに、なんとなく、王都にいる気分じゃなかった。
僕はそのまま、王都の南門へ向かって歩き出した。
どこか遠くへ行こう、と思っていた。どこでもいい。静かなところがいい。できれば、めずらしい植物が生えているところなら、なおいい。
空が広がっていた。
意外と、悪くない気分だった。




