異世界転生救済課
◆英
異世界転生アプリ、『ネペンテス』を入手した時の記憶が残っている初の救出対象者、松代。
俺たちは彼を、千代田区のデジタル庁本部とはかけ離れた場所、雑多なビルが群生するとある繁華街へと連行する。その中に俺たち救済課の本部がある。
俺達が乗っているワゴン車は、ボディの側面に『はなぞの製菓』の文字と可愛らしいキャラクターがラッピングしてある。世間を欺くカモフラージュだが、実際に救済課が運営している製菓会社でもある。
車は活況を呈する街の路地裏へ入り、シャッターが開いてある製菓会社ビルの車庫にそのまま進入した。
俺は車から降りると電動シャッターを操作して下す。
外界からの視線を遮ると、車庫奥の扉を開けてワゴン車を誘導する。
そこにはワゴン車ごと地下へ運べるエレベーターがあるのだ。俺たちは本部地下へ向かった。
俺たち四人は松代を囲むように地下の廊下を歩く。震えながら歩く松代には予めイヤホンと、頭から麻袋を被せて聴覚と視界を奪ってある。
後から記憶を改竄するのなら、普通こんな事はしないのだが、今回は特例の処置をとっている。
松代を裸のまま連れ回すのは(俺たちの)精神衛生上よろしくないので、彼にはいちおう服を着させてある。何故かワゴン車の中に残されていたアロハシャツとスラックスだ。
「ちょっと色々と臭いますね、ちなみにこのシャツ。誰のですか?」
松代の後ろを歩く千代草が鼻を摘んだ。
施覆花さんが答える。
「多分、槐さんのや。あの人、夏場はかりゆしウェアやからな、去年からほかしたまんま車内に忘れとんのやろ」
「あぁ、あの派手な……あの人苦手だなぁ」
槐の名前を聞くと、千代草の表情が曇った。
松代の体からは、血と古びたシャツの匂いと糞尿と情交の後の様子が入り混じった匂いがする。
「英、お前は桔梗に怪我を診てもらえ」
南天がぼそりと呟く。
俺は「これくらい平気だ」と、答えた。
「駄目です!バイ菌入って腐って死にますよ」
千代草が俺のジャケットの裾を摘んでそう言う。
「ははっ、バイ菌やったら可愛いもんやけど、異世界には未知のウィルスや呪いなんかもあるからなぁ。ちゃんと診てもらえ」
千代草と施覆花さんに促されるかたちで、仕方なく俺は医務室へ向かうことにした。
取り調べ室の前にたどり着くと、施覆花さんと南天は「ほな」とだけ言い残して松代を連れて室内に入って行った。
俺はこれから桔梗に怪我を診てもらうのだが……
「なんでお前もついてくるんだよ」
「私が一緒にいて説明してあげないと、英さんは怪我を負った時の状況を適当に伝えるでしょ?
それに、救済課での私の唯一の癒しは、桔梗さんや九鬼班長とのガールズトークだけなんですから。逆に英さんは診察が終わったらとっとと出て行って下さいね。」
保護者のような事を言ったかと思えば、終われば出ていけ……か。
軽いとはいえ一応怪我人。それを言うのはあまりにぞんぞいじゃないかと思い、ため息が出た。
医務室のドアの真ん中にはプレートが掛けてあった。
『♡診察受付中♡』
俺はドアをノックする。
「はぁ〜い、どうぞ〜」
中から間延びした女の声が聞こえてきた。
ドアを開けるとそこには、ミニスカの上に白衣を着た、ゆるいスパイラルパーマヘアーの女性が椅子に座ってコッチも見ずに退屈そうにスマホをさわっていた。
「桔梗さん!」
千代草の声に反応して、スマホから目を離した桔梗は嬉しそうに千代草に両手を振る。
「チ〜ヨ〜!おつかれ〜」
「桔梗さん、きのう日比谷の洋菓子店で買ったクッキー持ってきましたよ。一緒に食べましょう」
千代草《千代草》はシロを納めているポシェットからクッキーの袋を取り出す。
「チヨ!でかした〜、ういやつめ〜」
桔梗は千代草に抱きついて頬ずりした。
「ちょっ、桔梗さん、くすぐったい!シロみたいですよ!」
「いいじゃん、減るもんでもないんだから〜あたしの愛情表現無制限〜♪」
キャッキャはしゃいでいる女子二人を呆れた目で見る。
「どうでもいいから俺の怪我を診てくれ……」
その言葉で桔梗はやっと俺を見てくれた。
「あら、ハナ、あんた居たの?」
*次回、『渇愛』




